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第90話 スシネバーダイズ前編③

前回のあらすじ:

山本葵、負傷のためアジの仕入れの参加を断念。


◆◆◆


 スシバトル当日の朝。落ち着かなくて早めに登校してしまった。鳥路さんと賀集さんの姿はまだ無い。前にシャコの仕入れをした時はこの時間だった記憶があるんだけど……今回は車だから事情が違うのかな。

 時間があったので金星さんのクラスを覗いてみたけど金星さんの姿も無い。昨日グループチャットで確認した時の「任せてください」が最後のメッセージになっているので心配だ。マグロもそうだけど、金星さん一人に背負わせて良かったのかという部分が強い。任せろと言っているのに心配するのは失礼かもしれないけど……くそ! もどかしい!

 

 ちらほらとクラスメイトが登校し始めてきたけど、二人はまだ来ない。司先生と一緒に来る可能性もあるのか? 家庭科室でもうアジを冷蔵してる最中か?

 ……無理してでも仕入れに同行した方が精神衛生上は良かったんじゃ無いかなぁ!?


「す、スシバトル動画!? スシバトル動画が投稿されてる!?」


「スシバトル!? リンク教えてよ!」


「シメニャンじゃん!」


 なんだかクラスメイト達が騒がしい。聞き間違えじゃなければスシバトルとか言ってるけど……俺も教えてもらうか、気が紛れるかも。


「ごめん、俺にもその動画教えてもらって良い?」


「おお? なんでお前ここにいるの? いや、教えるけどさ!」


 ん? どういう意味だ?

 クラスのグループチャットに貼って貰ったリンクにアクセスすると……豊洲市場でスシバトルの最中みたいなタイトルの動画がスマホの画面に映る。


「緊急で動画を回しています! 動画のために捌く魚を買おうとして豊洲に来てたんですけど、突然目の前でスシバトルが始まりました!」


 そんなことある? いや、起きてるのか……

 興奮気味の女性配信者が自撮りしながら勝負の様子を実況する感じの動画らしい。

 ……後ろに映っているスシバトルにフォーカスが合っていく。


「フハハ! お前にマアジは買わせない! このスシバトル部四天王、光り物の○○がなぁ!」


「お前……五人目だぞ! 良い加減にしろ!」


 と、鳥路さんが……四天王の五人目にキレている! 俺も現場にいたらキレている自信がある。四天王の管理もできてないのかよスシバトル部は! 

 しかも四天王の名前は編集でカットされていてわからない。でも顔は覚えたぞ!


「こ、これ鳥路さんじゃない?」


「市場で何してるんだ?」


「今日のスシバトルの仕込みでしょ」


 クラスメイト達も鳥路さんの存在に気付き始める。

 ……動画の端の方で賀集さんと司先生が申し訳無さそうな顔で映っている事に気付いた。うん、間違いなく鳥路さんだ。

 審査員は市場で働いている人達っぽいな……いや、本当に何やってんの!?

 何で屋外にこんなスシバトルするためのような対面型キッチンがあるんだよ!


「この豊洲市場にスシバトルフィールドが最近設置されたとの話は聞いていましたが、こんな感じで使うんですね! このシメサバキャットチャンネルもいつかスシバトルライブをしたいものです! 対戦相手募集中です! ええっと、あとはもう勝負の様子を見守りましょう!」


 俺の疑問に答えるように配信者が説明してくれた。なんだよスシバトルフィールドって……

 それはともかく勝負の方はどうなっているんだ? 動画だと少し見辛いけど、どうやらアジの握りで勝負しているようだ。

 うーん、鳥路さんの握り方は動画映えするなぁ……


「同じ高校の生徒同士のスシバトルとの事ですが……レベルの高いスシバトルですよ、これは! これ程のスシバトラー達が埋もれていたなんて、スシバトルビッグウェーブが始まったばかりという証拠でしょう!」


 昨日の傷口よりも頭が痛くなってきた。

 もうそんなに広まっているのか、スシバトル……


「さぁ審査員の実食です! 勝利の女神はどちらに微笑むのか……!」


 それにしてもこの配信者、発言する度に自撮りするのはやめて欲しいな。そういう仕事だから仕方ないのかもだけど。  


「審査員が札を握りました! 緊張の瞬間です! 私は手前の子が勝つと」


 画面が揺れる。

 

「ちょ、いたっ、押さないで! あ、やめっ、ああああああ!」


 更に画面が激しく揺れたと思った瞬間、配信者の絶叫と同時にカメラの視界がグルグルと回り始める。どうやらカメラが空中できりもみ回転しているようだ……そのままカメラは地面に衝突して映像が途切れた。


「うわああああ! シメニャンのカメラがああああ!」


 動画が終わった。


 ……よく見たら動画のタイトルの後ろに【衝撃映像】と書かれている。そういう意味じゃないだろ。

 

 ど、どっちが勝ったんだ!?

 周りを見たら俺と同じような感想を抱いてそうなクラスメイトばかりだ。

 

「おはよ、山本くん。怪我は大丈夫?」


 登校してきた鳥路さんとタイミングよく目が合う! 騒めく教室!

 鳥路さんは不思議そうに周囲を見渡している。


「おはよう鳥路さん! 俺は大丈夫だけどそれより鳥路さん豊洲でスシバトルしてたでしょ!? 勝ったの!? 勝ったよね!?」


「え? どうしてもう知ってるの? 勝ったけど……」


「早朝スシバトルは鳥路さんの勝ちだ!」


 思わず叫んでしまったが、それを聞いたクラスメイト達が湧き上がる!

 急なクラスメイトと俺の盛り上がりに鳥路さんは困惑している。


「な、何? どうしたの?」


「鳥路さんの今朝のスシバトルの様子が配信されていたんだ……ほら」


 鳥路さんが映ってる時間まで遡り、スマホの画面を本人に見せる


「……配信。ああ、なるほど。あの人か」


「もしかして知り合い?」


 鳥路さんはシメニャンを知っているらしい。有名人なのか?


「いや、壊れたカメラを持って泣きながらスシバトルの様子を投稿して良いかって聞かれて……可哀想だったから……」


 可哀想なシメニャン。でも動画の再生数は伸びてそうだし良かったね。


「そうだ! アジは? アジは無事に手に入ったの!?」


 色々衝撃的な事ばかりで肝心な事を忘れかけていた。


「スシバトルに勝って光崎こうざきさんが占有しかけていた鮮度と品質の良いマアジを全部買い取った。今マアジは家庭科室の冷蔵庫に入っている」


 四天王の名前が判明したが、碌でもない人だったようだ。


「流石鳥路さん! これで一安心だね」


「六人目の四天王がいなければ良いのだけど……あとは……」 


 鳥路さんが眉をひそめる。いや、流石にそれはもう……許されないだろ。


「……あれ? 賀集さんと司先生は?」


「ああ、えっと……」


 ホームルームのチャイムが鳴ると、普段より生き生きとした司先生と顔を青くしてふらつきながら教室に入る賀集さんが目に映る。な、なんで二人は対照的なコンディションなんだ!?


「な、何があったの?」


「……司先生の運転する車に乗る事はお勧めしない」


 鳥路さんが割と本気のトーンで俺に忠告してくれた。

 司先生、どんだけ酷い運転をしたんですか……鳥路さんは大丈夫そうだけど、俺は休んで正解だったのかもしれない。


 と、とにかく! これで帯刀とのスシバトルの準備はばんぜ……ま、マグロ!

 マグロがまだだ! 金星さん!? 昨日送ったチャットに既読が付いてない!

 金星さん! 大丈夫なのか!? 返事をしてくれ!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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