第89話 スシネバーダイズ前編②
前回のあらすじ:
日本寿司罵倒協会の卑劣な攻撃は寿司同好会に通用しなかった。
◆◆◆
「……そう、不審者に襲われて……ごめんなさい、私がいない時に……無事で良かった」
電話先の司先生が頭を下げている様子が目に浮かぶ。
ギリギリ病院に行く程の怪我ではなかったので俺はそのまま帰宅。
家族に怪我がバレないようにこっそり風呂に入ろうというタイミングでスマホに電話が掛かってきて今に至る。
「だ、大丈夫ですから! ちょっと痛かっただけで! それに鳥路さんと賀集さんは無傷ですし! 明日のスシバトルの心配はしないでください!」
「私は山本くんの心配をしているのよ!」
……本当にそう思っている声だ。変に明るく振る舞うのは止めよう。
「すみません。でも本当に大丈夫です。それより、司先生に聞きたい事があるんです。まだ電話を続けても良いですか?」
「……大丈夫よ。何かしら?」
「先生は……日本寿司罵倒協会を知っていますよね?」
「……」
沈黙が続く。知らない反応ではなく、恐らく言葉を選んでいる反応だ。
「……どうしてかしら?」
「俺にソルトガンを撃った不審者……イナリスカウトを名乗る人物がスシバトル部の裏に日本寿司罵倒協会が存在することを教えてくれました」
結局不審者を捕まえる事は叶わなかった。監視カメラにもその姿は映っておらず、目撃者の証言も決定打になるものは無く、俺に放った塩以外一切の証拠が残っていなかった。入校許可証も捏造されたものである事がわかっている。
「司先生がスシバトル部を潰したい理由……日本寿司罵倒協会が関係しているのではありませんか?」
確証はない。ただ、不審者に《《大人》》が相手だと言われ、思い浮かんだのはこちら側の大人の存在。それにスシバトル部を初めに潰すと言ったのは司先生だったはずだ。
「あなた達をここまで巻き込むつもりはなかったんだけど……無理そうね」
「知っているんですね!? 教えてください! 日本寿司罵倒協会について!」
俺の読みは当たっていたようだ。
「不味い寿司屋を許さない組織……それが日本寿司罵倒協会よ」
名前だけだと全ての寿司を罵倒する組織っぽいけど、ターゲットは不味い寿司だけなんだな……帯刀がやろうとしている事とは目的が違うけど、近いものは感じる。
「この一連のスシバトルブームは金星さんだけの力だけでは無いわ。裏で協会が手を回していたの」
「そ、そんな事ができる組織なんですか!?」
「日本の寿司業界を裏で支配する組織、それぐらい可能よ」
実在するんだなそんな闇の組織……創作の話だけの存在だと思っていた。
「先生は……司先生はどうしてそんな事を知ってるんですか!?」
間違いなく普通の高校教師が知っているような情報ではない。
「……私が寿司桶仮面だから」
「え!?」
栄寿司のあれ!? 冗談とかじゃなく!?
「冗談よ。半分はね」
「なんだ良かった……半分!?」
何を半分にすれば良いんだ!?
「私は協会と対立する組織に所属している。でもこれ以上は聞かないで。非営利団体だけどね」
……思っていた以上に複雑な状況らしい。あまり素人が首を突っ込むべきではなさそうだ。あと非営利かどうかって大事なのか?
「わ、わかりました。それで、その……スシバトル部とビジネスが何とか言ってましたけど、その辺はわかりますか?」
「協会はスシバトル部……笹垣さんと帯刀さんに協力する形で自分達の目的を加速させようとしている。寿司王国の社長の娘であるだけの笹垣さんに市場のマグロ独占なんてできるはずないでしょ? 協会のコネと金よきっと。とにかく、鳥路さんがスシバトルに勝って帯刀さんの暴走を止める事で協会にダメージを与えられる事に違いはないわ」
「俺達、というか鳥路さんがやる事に変わりはないですね……鳥路さんはこの件を知っているんですか?」
「いいえ……山本くん以外の三人にもちゃんと話そうとは思っているけど……帯刀さんとのスシバトルが終わってからの方が良いと考えているわ。余計な感情は勝負の邪魔よ」
「わかりました。俺もその意見には賛成です」
この件は帯刀とのスシバトルが終わってからだな。
「他に聞きたい事は?」
「いえ、今は……大丈夫です! 皆と同じタイミングで詳しくお話を聞かせてください」
「わかった。約束するわ」
明日の勝負に集中しよう。と言ってもアジの仕入れの付き添いで最後か……
「そうだ。明日の仕入れって何時にどこ集合ですか?」
「山本くんは休んでなさい。怪我人でしょ」
「そ、それはそうなんですけど! それでもこう、何かできることが……」
「無いわよ。怪我が悪化したらどうするの? 良いから私達に任せて。山本くんはいつも通り登校なさい」
これは諦めなきゃダメな奴だ。
「わかりました……よろしくお願いします」
「ええ、明日学校で会いましょう」
「はい! お気を付けて!」
これで話せる事も聞ける事も以上かな。先生も忙しいだろうしこの辺で……
「……私が寿司同好会を利用していた事に何も言わないのね」
「え? 最初からそう言ってたじゃないですか。司先生が顧問してくれてる条件ですし」
「そ、そうだけど。今とあの時じゃ状況が違うでしょ?」
「うーん、そうかもですけど……結局、どのタイミングでも寿司罵倒協会やスシバトル部の目的を聞いたら全員協力すると思いますよ?」
「それはどうして?」
「程度に差はありますけど……みんな寿司が好きですからね。寿司を守るためなら協力は惜しまないと思います。司先生も寿司が好きなんですよね? 先生にこんな事言うのは失礼かもですが、俺は司先生も寿司同好会のメンバーだと思ってます! だから利用されてるとか思った事ないですよ、少なくとも俺は!」
沈黙。まずいこと言ったか?
「……歳を取るとダメね」
「どういう意味です?」
「大人になればわかるわ。切るわよ、おやすみなさい」
「え!? あ、はい! おやすみなさい!」
通話が切れてしまった。本当にどういう意味だ?
おやすみって言ったけどまだ寝るには早いし……てか風呂入るところだったの忘れてた。
早起きする必要は無くなったけど、風呂が終わったら今日は早く寝て明日に備えよう。俺の応援でスシバトルの結果が変わる事はないだろうけど……やるからにはベストを尽くすべきだ。
風呂のお湯が傷口に染みて痛かったけど、そんな事を考えている内に入浴は終わっていた。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




