第79話 ダークスシバトラー②
前回のあらすじ:
スシバトル部の拠点に正しい手続きで入場した。
◆◆◆
練習の掛け声が聞こえなくなってきたタイミングで少し扉の装飾が立派な部屋の前で帯刀さんの足が止まる。
「この部屋もスシバトル部が借りているけど、出入りするのは私を含む一部の部員だけだ」
「それは、まぁ、光栄です……」
部員に寿司王国の笹垣がいるとは言え、一企業のスペースを占有できるものなのだろうか。何にせよさっきの部屋よりは静かに……
「笹垣です。ええ、はい、その件は、はい。練習用なので端材レベルで大丈夫です。よろしくお願いします」
「……はい、寿司王国スシバトル部担当の笹垣です。米を買う予算が足りない!? そんなわけ! いや! 確認します! はい、失礼します」
「勝手に余った予算使ったやつ誰だ!? どうやって!? あーくそっ金星のやつ、なんでこんな仕事を涼しい顔してやってたんだよ!」
……笹垣が少し高そうな机の上でPCの画面を睨みながらキーボードを叩き、掛かってくる電話の対応をしていた。
「……笹垣さん、忙しいかな?」
帯刀さんが気まずそうに尋ねる。
「ちょ、ちょっと待ってください。これだけ終わらせ……」
笹垣が俺の存在に気づいた。
「はっ! ぜーんぜん忙しくとか無いんですけど? 余裕だし? それより本当にその雑魚を連れてきたんですね部長」
この変わりよう。練習に参加してなかったのは金星さんのやっていたことを笹垣が代わりにやっているからか。
「確かに山本くんは寿司を握れないかもしれないが、スシバトルの火に飲まれていない貴重な人だ。お茶ぐらいは頼むよ」
「……わかりました。ふん、感謝しなさいよ!」
立場は笹垣より部長の帯刀さんの方が上らしい。スシバトルの火、ね……金星さんもそんなこと言ってたな……そんなことを考えながら帯刀さんに長机の椅子に座るように促され大人しくそれに従って座る。帯刀さんが俺の対面の椅子に座ると、笹垣が若干不服そうに俺にお茶を出してくれた。香り的に結構良さそうなお茶かな……家で飲んでる奴と全然違う。
「山本くんはスシバトル部についてどう思っている?」
帯刀さんからの直球な質問。
「……馬鹿なことやってるなとしか」
金星さんごめん。
「お、お前!? ここがスシバトル部で目の前の部長にそんなこと言うか普通!?」
笹垣に発言を咎められる日が来るとは……まぁその通りだとは思うけど。
「ふ、ふふ、はははっ! はーはっはっはっ!」
突然大きな声で笑う帯刀さん。俺以上に笹垣が目を丸くして驚いている。
「はーっ……ふふっ。いや、失礼。全くもってその通りだ」
「えっ!?」
俺じゃなくて笹垣が驚きの声をあげる。どうなってるんだ……?
「……負けたら何でも言うことを聞く、こんな馬鹿げた道理が通ってしまう寿司職人共が滑稽すぎてね」
スシバトルの《《ならわし》》の話か。それより帯刀さんの寿司職人に対するこの当たりの強さは何だ?
「なぜそんなルールが昔から存在しているか……山本くんは知っているかな?」
帯刀さんから穏やかさが消えた……! 殺気だったようなオーラが彼女の少しはねた髪の毛を鬼の角のように幻視させてくる!
スシバトルの歴史、司先生に教えてもらってはいるけどいまいちわかってないんだよな……ならわしの部分だと確か、スシバトラーに負ける寿司職人に寿司を握る権利は無い、男性が女性に負ける事も逃げる事も一生の恥……帯刀さんの目的は男性の寿司職人を取り除くこと……そういえばさっきの練習場にいた生徒、講師の人も含めて全員女性だったな。
「スシバトラーが寿司職人に負けるはずがない……いや、女性が男性に勝てるわけがない、そういった意識が寿司業界に根強く残っているから?」
少なくとも俺はそんな事を思ってすらいない。女性の鳥路さんに男性の俺が勝てる要素は今の所何一つないし。
「くだらない驕りだ。男の寿司職人はスシバトラーに絶対に勝てると思い込んでいる。そして形骸的に自身の優位性を見せつけるためにそのルールを決めたのだろうが……」
俺は、ゾッとした。人が、こんなに邪悪な笑みをできる事に。
「それが今になって自分達《寿司屋》の首を絞めようとしているんだ。こんなに面白い事はない」
「ぶ、部長?」
笹垣も知らない帯刀さんの側面。ここまでの憎悪……普通じゃない。
「スシバトラーが寿司職人に劣るなどと時代錯誤のふざけた価値観が今でも残っているのだったら、望み通り引導を渡してやろうじゃないか……スシバトルで! その結果、男の寿司職人はこの世から消える事になるだろうね!」
彼女、帯刀冴は……狂っていた。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




