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第78話 ダークスシバトラー①

 日曜日の朝十時。寝付けなかった俺にとっては十分に早い時間に感じる。二度寝が許されなかったのは一通のショートメッセージ、その差出人が原因だ。


「おはよう、山本くん。こうして直接話すのは一ヶ月ぶり……かな?」


 スシバトルの解説役ポジションだった女子、しかし眼鏡を外したその姿はスシバトル部の部長……帯刀たてわきさえだ!


「おはよう、帯刀さん。急なデートのお誘いで夜も眠れなかったよ。土曜の深夜に日曜の予定を送るのはちょっとよろしくないと思うな」


「思ってもいないことを……そもそも既読付いたの朝だし、私のショートメッセージは無関係では? まぁ変な時間に送ったのは謝るわ」


 しばらく対面していなかったのにすっかり敵対関係だ。向こうとしては俺の事を鳥路さんのスシバトル部入部を拒む仲間の一人ぐらいに考えているのだろうか。鳥路さん本人が拒否してるんだし、こちらはとばっちりな感じもするけども。


「それで……何の用事なの? この時間にこの場所でってしか書いてなかったからさ」

 

「スシバトル部の誤解を解いておこうと思ってね。スシバトル部の紹介だけでもしようかと。既に金星さんから何か聞いてたりする?」


「……帯刀さんがいわい寿司を潰した話は聞いているよ」


 色々な経緯があったのは知っている。でも今重要なのはこの話だけだ。


「そう。その辺りの説明もできると思うわ」


 ……罪悪感とかは無いのか? それに金星さんがこっちにいることも大して気にしていない? この人は……何を考えているんだ?


「さて……どうする? 何ならこの場で解散しても良いわよ」


 俺の表情から何を読み取ったか知らないが……ここで逃げる訳にはいかない。


「いや、大丈夫。帯刀さんの話を聞かせて欲しい」


「……付いてきて」


 俺は帯刀さんの背中を追う形で移動することになった。この接触は司先生や皆に相談すべきだったかもしれない。そうしなかったのには時間が無かったことも理由にはなるけど……俺自身でスシバトル部が如何なる存在かを知りたかったからだ。



◇◇◇



 連れてこられた場所は……敷地面積が大きそうな近代的な建物。桶ヶ丘高校から一駅ぐらいの場所でスシバトル部の拠点としてはかなり良い立地条件に感じる。


「ここは?」


「寿司王国の研修施設よ。笹垣さんの計らいで使われていない時間に使わせて貰っている」


 回転寿司の研修施設! あそこで寿司を握ってる人達はここで学んでいるのか! ねこまた寿司にもあったりするのだろうか。

 ……学校の家庭科室を拠点にしている寿司同好会に勝てる要素はアクセスだけだな。

 受付というか警備室でゲストカードを貰い、建物の中へ。帯刀さんというかスシバトル部はIDカードを発行してもらってる感じかな。入場ゲートまであってかなり厳重な施設なんだな……ゲストカードをかざすとすんなり進むことができた。そして、そのまま帯刀さんに案内された部屋の中に踏み込んでいく。

 

「一! 二! 三! そこ! 遅い!」


「はい!」


「一! 二! 三! なんだその寿司は! 作り直せ!」


「はい!」

 

 十人、二十人……それ以上の女子部員が板前の格好で寿司を握っている。

 それも大人の女性講師の合図に合わせて一定間隔でだ。まるで軍隊みたいな光景、いや部活動なのだからこれぐらいは……普通か? 普通なのか?


「止め! 帯刀部長が来たわよ! 挨拶!」


「おはようございます! 部長!」


 一斉に挨拶をされる帯刀さん。というか女性講師の人も挨拶してたよな? 何だこの空間!?


「おはようございます。気にせず続けてください」


「再開! 一! 二! 三! そこ! 乱れているぞ! フォームを確認する! こちらに来なさい!」


「はい!」


 何事もなかったように再開する部員の皆様。


「何これ……」


「見ての通り寿司の練習だけど?」


「それはわかるけどさ……寿司ってこういう風に学ぶものなの?」


 そうは言ったが動画で寿司を学んだ鳥路さんがいるから、学び方は色々あるのかもしれない。寿司は寿司屋に弟子入りして学ぶイメージが強かったけど、実際はそうでもないのかも。


「寿司は寿司職人だけのものではない。正しい知識と効率的な練習、それさえこなせば短期間で取得可能。長い時間を掛けて目で見て覚えるなど、時代遅れにも程がある」


 一理ある気がする……けど、実際どうなんだろう? 俺には何が良いかを判断する材料がない。


「あの講師の人は誰? うちの学校の先生じゃないよね?」


「本来は寿司王国の技術講師だけど、私がスシバトルで負かして日曜日だけ講師を依頼しているのよ」


 休日出勤みたいなものか……お疲れ様です。帯刀さんは大人にも勝てるほどの技術を持っているんだな。鳥路さん以上の技術だし、そこに違和感や不信感は無い。


「帯刀さんが教えれば良いんじゃない?」


「……皆が私のレベルに近づけばそうするよ。先月までは松風さんがいたから良かったが……どこかの誰かさんが松風さんに何かを吹き込んでスシバトル部を辞めさせてしまったからね」

 

 こっちが悪いみたいに言うけど、鳥路さんはそっちに何もしてないからな。むしろ、松風先輩の問題を解決したのはスシバトルではなく鳥路さんのおかげだぞ。


とどろきぃ! お前、何だその寿司! 最初からやり直しだ!」


「ひゃ、ひゃあい!」


 見知った顔が一人いた。彼女の近くにある壁には「スシドライバー禁止」の習字が貼られている。スシバトル部的にもあれは無しらしい。


「ここでは話に集中できないか……場所を変えましょう」


「そ、そうだね」


 パッと見渡した感じ笹垣はここにいないようだ。サボりか?

 とにかく、俺と帯刀さんは別の部屋へと移動することになった。

 いや別の部屋って何だよ? どんだけ優遇されてるんだスシバトル部!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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