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第77話 ザビギニングオブスシガール⑤

前回のあらすじ:

スッシーフィンブレード:↓↘︎→+A+B(1ゲージ消費) 

我らがスッシーの必殺技!

発生が早く、無敵時間もあり、更に硬直も少ない優秀な技だ!

困ったらぶっぱ。ネットにもそう書かれている。


◆◆◆


「鳥路さんに一回も勝てなかったなぁ……」


「安心しろ、私は今日だけじゃなくこれまで一度も勝ったことがない」


 明仁さん……!

 二人で鳥路さんにボコられた結果、明仁さんと少しだけ仲が良くなった。

 あのまま敵視されていたら心がもたなかったのでボコられて正解だったのかもしれない。

 

「男どもー、準備ができたわよー」


 桜香さんに召集され、キッチンの方にあるダイニングスペースに移動する。

 一般家庭とは思えない充実した寿司に使う道具と食材が並んでおり、当然のように鳥路さんがその中心に立っていた。

 鳥路さん以外が椅子に座ると鳥路さんが小さく咳払いをして口を開く。


「これより五月の寿司会を始めます」


 鳥路さんのご両親の拍手に遅れて俺も拍手をする。


「ニュービーの山本くん、リクエストしなさい」


 明仁さんにマウントを取られた気がする。確かに初参加ですけども。並んでいる食材から一つ選べば良いのかな。シャコもあるけど……ここは……

 

「ええっと、じゃあ、イカを」


 鳥路さんはある程度下処理の済んだイカを手に取り、包丁で切り分け……めちゃくちゃ切れ味良さそうな包丁だ。線をなぞるような動作でイカが綺麗に切られていく。

 そのまま鳥路さんはイカを切断しないように隠し包丁を素早く入れ、握りの体勢に入る。そこからはいつもの鳥路さんだ。本手返しによる舞のような美しい握りで四貫のイカをあっという間に握り終えた。

 

「イカです」


 三人の前に置かれた寿司げたにイカの寿司が置かれる。絶対に一般家庭に存在しないアイテムだがこれぐらいではもう驚かない。


「いただきます」


 テレビやラジオの音も無く静かな食卓。味に集中しろと言わんばかりの空間!

 俺の考えすぎか? と、とにかく鳥路さんが握ってくれたイカに集中だ。


「……う、美味い! 噛み切れるし口に残らないイカだ! それに鮮度が良くて臭みとかが全然ない!」


 もはや名店の味。生半可な店には真似できない寿司だ。とっくにわかっていた事だけれど、改めてその事実に気付かされた。


「素晴らしいイカだ、腕を上げたな英莉」


「ええ、美味しいわ!」


 食べ慣れているであろうご両親からも高評価だ。鳥路さんも一緒に食べているのでここが寿司屋ではないことを教えてくれる。満足そうに頷いているし鳥路さん的にも上々のようだ。


「私はとり貝を頂こうかしら」


 桜香さんのリクエスト、あの貝はとり貝って言うのか。こちらも下処理が済んでいるようで、鳥路さんはサッと人数分握ってしまった。最後に鳥路さんがとり貝の握りをパンと叩くと身がキュッと引き締まる。まだ生きてるんだな……

 とり貝って多分食べた事がないんだけど、どんな味なんだろう? いただきます。

 

「……海の味というか貝の風味が強い! そこから甘みもあってコリっとした食感で美味い!」


「最近はあんまり見ないけど、この風味が良いのよねぇ」


「前より高級なネタになった気がするよ」


 高級……うん? ああ! お金!


「すみません! お金って大丈夫ですか? 今手持ち全然ないですけど!」


「ふふ、気にしないで。山本くんはお客様なんだから。それにお土産も頂いているしね」


「英莉が連れてきた友人だ、気にせずに食べると良い」


「あ、ありがとうございます」

 

 シウマイでこの寿司が月一で食べれるなら毎月シウマイ買ってくるけど……何にせよここはご厚意に預かろう。


「お父さんは何を食べる?」


「シャコを貰おうかな」


 見覚えのある壺が出てきた。もしかして鳥路さんがシャコ対決の時に作ったツメかこれ! 


「鳥路さん、それって……」


「少し注ぎ足したけど熟成して味も馴染んでる。あの時よりも良い感じ」


 やっぱり! 


「絶対美味いやつだ!」


 あの時よりパワーアップしてるんだ、期待しない方がおかしい!


「そうそう! 高校の英莉の様子を教えてほしいわ、山本くん!」


「本人の話より友人からの方がおもしろ、詳細にわかるからな」


「とり、じゃない英莉さんの様子ですか? 俺目線で良ければ……」


「山本くん」


「え?」


 鳥路さんが右手でハサミを握ったまま、左手で何かを握り潰すジャスチャーを俺に見せつける。下手な事言ったら握るぞってこと!?


「あ、はい……」


 俺は……鳥路さんの過激な部分を極力取り除いてご両親に鳥路さんの活躍をお伝えした。

 その後も鳥路さんの美味しい寿司を全員で味わいながら、ゆっくりと穏やかな時間を過ごしたのであった。


 ごちそうさまでした。


◇◇◇


 楽しい時間はあっという間で、あまり遅くなる前に帰らなければいけない時間になった。貴重な三人の時間を邪魔すべきじゃないだろうしね。


「今日はありがとう。楽しかった」


「俺の方こそありがとう! スシバトル以外で落ち着いて鳥路さんの寿司を食べれて本当に良かったよ!」


「……私の寿司、どうだった?」


 そういう話だった……なんだろう、学校で食べた時よりも美味しく感じたのはそうなんだけど……食材の品質って感じでも無いんだよな。


「一つ言えるのは……道具かな。使い慣れた包丁だといつもより鳥路さんの動きが良かった気がするし、突発でも無い限り家で使っている道具を持ち込んだ方が良いんじゃないかな。家庭科室の包丁ってそんなに切れ味良くないだろうし」


「確かに。次はそれでやってみる」 


「あとはちょっと考えてみるよ……そうだ、鳥路さんの好きな寿司ネタって何? 今日はずっと俺とご両親のリクエストを聞いて握ってたけどさ、自分が好きな物って拘る事が多いじゃない? それが何かヒントになるかなぁって」


「寿司なら全部……いや、うん、いや……全部好きだけど」


 多分鳥路さんの頭の中でカリフォルニアロールとかが浮かんだだろうな……まぁ、それでも全部好きと言うのは想定していた回答だった。


「強いて言うなら……」


「英莉ー? 山本くんにお土産あるんじゃなかったの?」


「あ! ちょ、ちょっと待ってて!」


 山本家のためのお土産を取りに戻る鳥路さん。

 もう十分貰ってるんだけど……きっと俺の母親と妹に気を遣ってくれているのだろう。俺も家族の時間をもっと大事にした方が良いのかもしれない。


「それで? 英莉の部屋のご感想は?」


 残った桜香さんが俺に話題を振る。


「英莉さんの部屋って……今日はリビングとダイニングぐらいしかお邪魔してないですよ? 英莉さんの個室には流石に入れてもらえる訳ないじゃないですか!」


「うーん……私も明仁さんも研究のお仕事で家にいる時間が少ないのは聞いてる? あ、私が海洋生物学メインで、明仁さんは薬品関係よ!」

 

 全然違うジャンルに聞こえるけど、逆に二人はどうやって出会ったんだろう。

 ……それよりも、だ。


「お二人が研究職でお忙しいのは聞いてますけど……それと何の関係が?」


「問題! 英莉が普段過ごしている空間はどこでしょうか?」


 急にクイズが始まった。


「それは流石に自分の部屋なんじゃないですか?」


「……リビングに何があったか覚えてる?」


「何があったって……えーっと、ぬいぐるみの数々とでかいスッシー、あとはゲーム機にテレビ、鳥路さんの勉強道具……うん?」


「英莉の《《寝室》》は二階だけど、あの子の趣味が寿司だからいちいち寿司を作るために階段上り下りするのは面倒だと思わない?」


「それは……そうだと思いますが……え? ま、まさか!?」


 う、嘘だろ!?


「はい! 英莉の自室はほぼリビング! 普段私達が家にいないからそうなっちゃうのもわかるわよねぇ!」


 じゃあ!? 俺が今日ずっといた場所は!?


「おめでとう。女の子のお部屋は初めて? 山本くん?」


 ああああああああ!?


「お待たせ。これ山本くんのお母さんと輝理かがりちゃんに。押し寿司にしてるから日持ちすると思うけど早めに……どうしたの? 顔真っ赤……大丈夫?」


「あ、あ、ありがとう! 大丈夫! 大丈夫だから! 二人も喜ぶよ!」


「ほ、本当に大丈夫?」


「大丈夫マジで大丈夫! 月曜日! また来週に、ね! 」


「う、うん。気を付けて帰ってね……本当に」



 俺は鳥路さん達に見送られながら鳥路家から逃げるように駆け出した。

 遠くで桜香さんが爆笑していた気がするけど、振り返って確認していないので定かではない。

 

 その日の夜。俺は眠れなかった。 


 あとお土産の押し寿司は美味しかったらしい。



◇◇◇

ザビギニングオブスシガール おわり









「日曜で助かった……二度寝、いや、一度寝するか」


「あれ……? ショートメッセージが届いてる。夜中に来てるし、知らない番号だし……誰だ?」


「……」


「……何が目的だ? 皆に相談すべきか?」


「いや、時間が無い。行くしかないな」



 ショートメッセージの差出人はスシバトル部の部長、帯刀たてわきさえを名乗る者からだった。

感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。


◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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