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第76話 ザビギニングオブスシガール④

前回のあらすじ:

圧迫家族面接、終わってなかった。


◆◆◆


「さて、英莉が帰ってくるまで10分あるかないか……手短に行きましょう」


 笑顔の奥のプレッシャー! 桜香さんに捕まった俺に逃げ場はない!


「な、何を話せば良いんです?」


「何も話さなくて良いわよ」


 ここから始まるのは一方的な説教!?


「……あの子が友達とこれほど長くお話しているところを初めて見たわ」


「え? そうなんですか?」


 鳥路さんは確かに口数が少ない方だけど、普通に会話できるし反応もしてくれる。ずっとそういう人だと思っていた。家に友達を連れてきたのは俺が初めてだと鳥路さんは言っていたけど……学校ではどうだったんだ?


「親バカみたいな話になっちゃうけど……あの子、小さい時からすっごく大人びてて、我儘も言わないし、全然手が掛からなかったの」


 想像できるなぁ……


「小学生の頃から今とそんなに変わらない感じでね。留守番も完璧にこなせるし、私も明仁さんも安心して研究に戻れると思っていたわ」


 でも、確か、その頃の鳥路さんは……


「でもそうじゃなかった。英莉が暗い家の中でキッチンにだけ明かりを付けて、ボロボロの寿司を前にわんわん泣いていたのを見て……自分達がどれだけ馬鹿だったのかを理解したわ」


 俺には難しい話だ。何が正しいとか間違っているとか全然わからない。それでも……


「寿司屋での家族の時間が英莉さんの一番の楽しみだったから……ですがお二人はそこに気付いて英莉さんを抱きしめてあげた。英莉さんはそれが嬉しかったと言っていました」


「そんな事まで話せる仲なのね……でもね、この話には続きがある」


 続き……?


「その時から英莉は寿司に没頭するようになった。友達との遊びを断り、部活動にも入らず、月に一回の寿司会のためにあの子は寿司を上達させることを優先した」


 そうでもしないとあんなに寿司は握れないだろう。ましてや直接教えてくれる人もいなかったはず。どれだけの努力、時間が鳥路さんの寿司に詰まっているのか、俺には計り知ることもできない。


「私と明仁さんが東京の方に引っ越す必要が出た時、英莉には北海道に残る選択肢があった。なんならこれを機に私は仕事を辞めても良いとも思ってたわ」


 一年過ごして関係がある程度構築された場所から離れるのは人にもよるかもしれないけど辛い事の方が多そうだ。鳥路さんなら一人暮らしで北海道に残るという選択肢もあったのかもしれない。

 

「あの子は……迷わず私達と一緒にいることを選んだ! 私が仕事を辞める話も自分のために夢を諦めないでほしいって……どっちが親だかわからないわよね?」


 自嘲する桜香さんに俺は何も言えなかった。


「英莉が神奈川の高校でうまくやっていけるのか……不安しかなかったわ。英莉の話を聞く限り、こっちは寿司屋で揉め事が多発するぐらい治安も悪いみたいだし……」


 スシバトルだ……あと、その揉め事の中心は鳥路さんです。言った方が良いか? いや、これは黙っておくか……


「その不安は……全部杞憂だったわね! 神奈川に来て大正解! あの子、表情だけだとわかりにくいけど凄く元気になったのよ! 高校も楽しそうでね!」

 

 今までのシリアスな空気が一変して桜香さんの雰囲気が明るくなった。


「……英莉を受け入れてくれてありがとうね、山本くん」


 そして、自然な笑みを俺に見せてくれた。


「お礼なんてそんな! 俺はたまたま居合わせただけで……実際にクラスに馴染めたのは賀集さんのおかげだと思いますし」


「出会いなんて偶然の連続。その偶然を繋ぐかどうかはその人次第。初めてできた友達が山本くんで良かったと私は思っているわ」


「そ、そうでしょうか……」


 そういうものなのだろうか……気持ちを整理するために鳥路さんに淹れて貰っていたお茶を一口飲む。


「で? 付き合ってるの?」


「ゲホッ!? 何を!? 何言ってるんですか!?」


 思いっきり咽せた。タイミングが悪かったらお茶を桜香さんに吹きかけていたかもしれない。


「英莉ったら山本くんに貰ったこのスッシーをずっと隣に置いてるのよ? これはもう、ね?」


「それは良かったと思いますけど! それとこれとは話がちょっと違うんじゃないですか!?」


「そうだぞ桜香さん」


 声の方を振り向くと明仁さんが仁王立ちしていた! 怖い! この家族音も無く近付きすぎじゃない!?


「しかし、こっちに来てから英莉が明るくなったのも事実……ここは一つ、男同士、拳で語り合わなければならないな」


「拳!?」


「そう、この……スッシータイマンバトルでな!」


 まさかの格ゲー。いや、暴力沙汰になるより何倍もマシだけども。鳥路さんのお父さんはその……ユニークな人だな。



 突発的に始まった明仁さんとのスッシータイマンバトル勝負は奇跡的に同レベルで白熱したものとなった。激戦の末、辛うじて俺が三本先取して事なきを得たような気がした。

 

 ……その後、買い物から帰ってきた鳥路さんが参戦し、男二人は鳥路さんに蹂躙された。最高ランクの人に勝てるわけないだろ!

 そんなこんなで盛り上がっていたら、気付けば夕飯の時間になっていたのだった。

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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