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第80話 ダークスシバトラー③

前回のあらすじ:

帯刀冴の狂気に触れた。


◆◆◆


「本気で……帯刀さんは本気でスシバトルで全ての寿司屋を潰せると、そう考えているの!?」


「本気だよ」


 その目に嘘はない……! 真っ直ぐに濁った狂気……!


「私一人だったら時間が掛かるかもしれないが……私には多くの仲間がいるからな」


 そ、そのためのスシバトル部!


「たかが部活動と侮っているかもしれないが、笹垣さんと寿司王国が協力をしてくれている。我々は強いよ。そうだね? 笹垣さん」


「ええ……ええ、部長! 寿司王国のシェア拡大のために不要な寿司屋は消えたほうが良いですからね! メンバーのスシバトル強度もそろそろ合格ライン! もうすぐ部活動を本格始動できますよ!」


「金星さんが乗り気じゃない訳だ……」


 本当に六月から動き出しそうだな……そうなると慶寿司以外のお店に被害が出る事になる。それだけは避けたい。


「金星の奴はお金と口ばかりで部長をなんかこう、良い感じに足止めしていたとは思っていたんだよねぇ! でもあいつがいない今! 私の! おかげで! スシバトル部は強くなったってわけ! わかる!? 山本!?」


 俺に対してはこのノリを突き通すのか笹垣。疲れないのかな?

 栄寿司で遭遇したスシバトル部の部員は確かにレベルが低そうな感じだったけど、今はスシバトルに特化した部員が沢山育っているという事か……


「金星さんは十分にスシバトルの普及に貢献してくれた。悪く言うのは許さないよ、笹垣さん」


「あ、いや、し、失礼しました……」


「だけど私は金星さん以上に笹垣さんの手腕を信用している。引き続きよろしく頼むよ」


「はい! もちろん!」


 飴と鞭を使って笹垣をコントロールしているのは帯刀さんか……恐ろしい人だ。

 事情は知らないけど笹垣は金星さんにコンプレックスのようなものがあるみたいだし……そういった感情を帯刀さんに利用されているのかもしれないな。


「帯刀さんは、なぜ、そこまでして寿司屋を潰したいんだ?」


 色々と交錯する感情から捻り出されたのは根本的な動機についての疑問。

 帯刀さんはぎろりと俺を睨むが、すぐに最初の頃の穏やかな表情に戻る。だが、その目はいまだに狂気をはらんだままだ。


「自慢じゃないけど……私は天才だ。何だってできる。運動も勉強も……苦労したことが無い。無論、寿司もだ」


 大した自信だ。だが、それを口にするだけの実力を彼女は持っている。勉強については県内トップ校でもないウチで自慢されてもと思うところはあるけども……


「寿司は過剰に神聖化され職人が長年修行をして初めて得られる技術と思われているが……実際はそうじゃない。練習場でも話したが私の考えた訓練方法で短期間に取得できるものだ」


 帯刀さんが考えた寿司作成マニュアル……寿司王国側はこれが欲しかったのか? いや、もしかして金星さんが欲しかったものか?


「口だけで実践しないのはポリシーに反する。私は完璧に握って見せた、そして松風鮨の店主にそれを見せつけた。寿司職人、いや、男の職人文化は終わりだ、とね」


 松風先輩のお父さん! そういえば最初のターゲットは松風鮨だったよな……つまり……


「……認められなかったんだね」


 再び帯刀さんの目に怒りの炎が宿る。


「あの男は! 私に! 君は寿司職人になれないとほざいた! 私の方が優れた寿司を握ったのに! 私が! 女だから! それだけの理由で!」


 怒りを露わにする帯刀さん。

 ……違和感がある。松風先輩とお父さんは確かに仲違えをしていたけど、それは松風先輩が女性だからとかそんな理由では無かったはずだ。最終的に松風先輩はお父さんに認めてもらっていたし……

 帯刀さんの寿司は確かに鳥路さん以上。スシバトルの勝利のために劣化した寿司を握る時もあるけれど、実力に疑う部分は無い。だったらなぜ松風先輩のお父さんはそんな事を言ったのか……


「松風鮨だけじゃない。どの寿司屋も私以下の出来損ない。それなのに寿司職人を名乗って寿司を握っている。私は、次第に怒りを抑えられなくなっていった」


 鳥路さんに似ている。似ているけど……全然違う。


「去年の夏、ついに怒りが爆発して寿司で勝負する事になった。当然、私が勝った」


 ……この話、金星さんから聞いた話と時期が同じだな。


「初めはそのまま立ち去ろうと思っていたが……勝者は何を言っても許される、生物の絶対的心理だ。ならばその権利で潔く店を潰してやるのが一番か、そう思って振り返った時に声をかけてきたのが金星さんだった」


 やっぱり。


「彼女の目には私がカッコ良く映ったんだろうね、エンタメがどうこう言っていたのはよくわからなかったけども……拍子抜けでその寿司屋に何も言わず出て行ってしまったよ」


 金星さんは意図せず寿司屋を一軒救っていたんだな。


「……まさか金星さんと同じ高校だったとは思わなかった。彼女に見つかってすぐにスシバトルの事を教えてもらったよ。そしては私はすぐに思った」


 歯車が噛み合っていく。


「なんて……なんて都合の良い舞台なのだと……! 彼女の思惑など知った事では無かったが、私はすぐに彼女の話した計画を快諾した! 慣習を利用した復讐、私を認めなかった寿司職人を潰すのにこれほど優れた計画は無かったからね!」


「金星さんは帯刀さんの復讐のためにスシバトルを流行らせたんじゃない」


「利害の一致だよ、互いが互いの目的のために利用した結果に過ぎない」


 くそ! 終わってしまった事を言ってもどうしようもない! なら今の話だ!


「……今更だけど。なぜ俺だけにこんな話を? 帯刀さんが欲しいのは鳥路さんだろ? 直接鳥路さんに交渉した方が良かったんじゃないか? それこそ効率的だ」


「彼女は私に対してかなり敵対的……いや、誤解しているようでね。体育祭の時も最後のリレーで私の事を許さない、負けないと言ってくれていたよ。まぁ、勝ったのは私だったけどね」


 バトンを受け取るまでの間にそんなやりとりが……


「鳥路さんは山本くんがお気に入りのようだからね。君から鳥路さんに正しいスシバトル部の話を伝えてもらおうと考えていたのさ。彼女も女性で寿司を握る身、私と同じ不満を抱えているはずだ」


「俺が今日の話を好意的に話すとでも?」


「話すと思っていた! が、そうではなかった。私の目論見が甘かったね……話してすぐにわかったよ」


「何が?」


「君はスシバトルの火……いや、鳥路英莉の寿司にとっくに脳を焼かれている」


 鳥路さんの寿司。


「交渉は決裂だ。これ以上は時間の無駄。日曜日に呼び出したりして悪かったね」


「お帰りはあちらよ! 山本! ゲストカードは警備員の人に渡して帰りなさいよね!」


 ……随分と舐められたものだな。まぁ、これ以上は確かに何も聞いたり話せることはないだろう。俺は部屋を出るためにドアノブに手をかける。



「……帯刀冴、君に言いたいことが一つだけある。今言っても良いかい?」


「構わないけど?」


「……スシバトルだ」


 笹垣も帯刀も俺の宣言に驚く。


「な、何言ってんの山本! お前は寿司を握れないでしょうが!?」


「気でも狂ったか? 山本葵」


 二人とも俺の口からその言葉出るとは思っていなかったようだ。


「俺が握るわけないだろ、今すぐやるとも言っていない。鳥路さんの寿司が必ずお前達の野望をぶっ壊す、俺はそう信じている」


「本人不在で勝手なことを! 雑魚は雑魚らしく帰って相談してから決めなさいよね!」


 笹垣が吠える。


「ここに鳥路さんがいたらそう言うだろう。いや、絶対に言う」


「狂信者め……脳を焼かれているにも程がある」


 帯刀が俺を冷めた目で睨む。


「勝負は週末、五月最後の金曜日だ。ルールはこっちで決めて火曜日までに笹垣に伝える、それで良いか?」


「勝手な真似を! スシバトル素人がルールなんて……!」

 

 笹垣を無視して、俺は帯刀に向かって話を続ける。


「天才なんだろ? お前はどんなルールでも勝てる自信がある……それとも自信がないのか?」


「良いわ。受けて立つ」


「ぶ、部長!?」


「思い上がりはここで潰す。こちらは全ての憂いを払ってから計画は実行するだけ、何も問題はない」


「決まりだな。じゃあ、俺はこれで失礼するよ」


 再び俺はドアノブを握り、扉を開く。


「……後悔するわよ、山本葵」


「ここで何も言い返さなかった方が後悔するよ。寿司を舐めるなよ、帯刀冴」


 俺は二人の表情を確認せずに扉を閉めた。

 帰ってすぐに考えなければ……スシバトル部、帯刀冴に勝つための作戦を!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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