第74話 ザビギニングオブスシガール②
前回のあらすじ:
圧迫家族面接は面接官が退場したことで山本の勝利。
◆◆◆
「あ、ごめん。これお土産」
「良いのに……なぜシウマイ?」
あまりの衝撃で渡し損ねていたシウマイを今になって鳥路さんに渡した。
反応は……まぁ予想通りですね。
「レンジ調理でも良いけど蒸すのがおすすめ!」
「ありがとう。明日せいろで蒸して食べてみる」
一応喜んでくれたようだけど……鳥路さんはキッチンにある冷蔵庫にシウマイを置きに戻っていた。余ったお茶も一緒に。
とりあえずリビングに通されて良かった。いきなり鳥路さんの部屋とかだったらどうしようかと勝手にドキドキしていた。それにしても……ぬいぐるみが結構置いてあるな。ソファの上にあるでかいスッシーって前にUFOキャッチャーで取ったやつかな? 俺より良い生活してそうで何よりだよ。
よく見たら鳥路さんのっぽい勉強道具とかも置いてるな、自室じゃなくてリビングで勉強してるのかな?
「お待たせ」
鳥路さんが帰ってきた。
「お帰り! ええっと、結局今日って何するの?」
「鳥路家の寿司会に参加してもらおうと思って」
鳥路さんが月一でやってる家族水入らずの時間じゃ……
「え? 俺なんかが参加して大丈夫なの!?」
「大丈夫、両親も賛成してくれたから」
多分それ俺が女の子だった事が条件なんじゃないかな?
「私の寿司が何か……山本くんにも考えてほしい」
先日の根木さんの言葉。自分の寿司を見つける、か。何のことだかさっぱりだ。俺なんかで力になれるのだろうか……いや、鳥路さんが俺に頼ってくれてるんだ。全力で向き合うしかない。
「寿司会は夕飯になるから、それまでは時間を潰さなきゃだけど。山本くんは時間大丈夫?」
「大丈夫だよ。連絡入れておけばこれぐらい平気」
「そう、良かった。事前に連絡できなくてごめんね」
俺も友達の家に行くしか言ってないんだよな……まぁ夕飯は不要ぐらいで勘繰られることはないか。
しかし夕飯か。お昼過ぎではあるけど結構時間あるな。鳥路さんが隣に置かれていたでかいスッシーを抱き寄せて頭を撫で始める。本当に良い生活してんなお前!
「それより……夕飯まで何する感じ?」
テレビのところにちらっと見えたゲーム機。恐らくスッシータイマンバトルはあそこで行われているのだろう。格ゲーならある程度基礎はあるし、相手ぐらいにはなるんじゃなかろうか。てかテレビでかいな。
「まずは山本くんの寿司を知りたい」
「お、俺の寿司?」
まさかの質問。自分が答える事になるとは思っておらず、全然考えていなかった。
「私にとっての寿司と山本くんにとっての寿司は違うはず。そこから私の寿司が見えてくるかもしれない」
「それは確かにそうかもだけど……」
ちょっと贅沢な食事、ぐらいの認識しかなかったんだけど……でも、この一か月強でかなり寿司の価値観が変わったと思えるのも事実だ。
「ちょっと贅沢したい時とか祝い事で食べる日本食……かなぁ」
一瞬、脳裏にスシドライバーが走り出した。頼むから思い出の中から出てこないでくれ。
「……たまに食べるからこそ、期待値以下の寿司を出されると怒りたくなる理由は少し理解できる。寿司は美味しいものという前提で注文しているところもあるし」
鳥路さんと初めて会った時の寿司屋。鳥路さんがスシバトルをしていなかったら俺達家族はきっと嫌な思いをしたままだっただろう。
「なるほど、期待値……確かにあるかも」
鳥路さんは俺の考えに理解を示してくれたようだ。
「私も寿司に期待値があるからこそ不味い寿司に我慢ができないのかもしれない。でも、それだとねこまた寿司の時に我慢できているのかわからない。あ、不味いとかじゃなくて、どうしても寿司の品質が落ちるから……」
「ねこまた寿司の期待値って感じで個々で変わってくるんじゃない? ほら、松風鮨は凄く美味しかったけど鳥路さん怒ってたし」
「あれは鯛が熟成されてなかったから……ただ、言われてみると食べれないとかそんなのではなかった気がする」
これまでを振り返る事で鳥路さん本人も気付いていない、鳥路さんの感情の理解が深まっていく。
「期待値でまとめちゃったけど、鳥路さんが寿司に何を求めているかが大事な気がする。寿司は人を笑顔にするって話も大事だと思うし、救いとかヒーローみたいなキーワードも……あとは少し話が逸れるけど、根木さんは鳥路さんの体温とかに合わせて最適な寿司を握るべきって言いたかった気もするんだよね。自分を知るって話だと意味は同じになるけど」
「山本くん」
「なに?」
「普段から色々考えてたりしてくれてる?」
突然出てきたスシバトルという概念を理解するために脳が思考停止せずに頑張っていたのかもしれない。
「……俺は寿司とか握れないからさ。自分なりに寿司同好会に貢献したかったんだと思う」
鳥路さんが首を傾げながら俺の顔を見る。
「山本くんは寿司同好会にとっくに貢献できている」
「え? そんなこと……」
「山本くんは人の夢や人のやることを馬鹿にしたり茶化さない。それがやってる側からすると凄く嬉しい。私の寿司の話やスッシーのこと、賀集さんのねこまた寿司、金星さんのスシバトル布教……司先生のスシバトル部の活動阻止もそう」
「それは……俺自身に明確にやりたいことがないから。そういう人達を否定する権利がないだけであって……」
「普通は……!」
鳥路さんが抱いていたスッシーの首が絞まる。鳥路さんは意図せず力が入ったことに気付いてスッシーをすぐに解放した。
「……そうじゃない人の方が多い」
鳥路さんは……そうか、寿司のことで苦労していたのだろう。でも理由を聞けば馬鹿にしたりなんて絶対にできないはずだ。前の学校でどうだったか俺にはわからないけど、少なくともそういった機会がなくて鳥路さんは誤解されたままだったのかもしれない。
「鳥路さん、それは違う」
「……え?」
「今、鳥路さんの周りに鳥路さんを馬鹿にする人はいない! これが普通! 寿司警察を疑ってる人も北海道の学校の人達も鳥路さんを理解すれば誤解は解けるはずだ! 俺は……スシバトルに詳しくない! だからこそ初めに見た鳥路さんの寿司が一番正しいものだと信じている!」
俺の中にあったよくわからない迷いが消えた。
「鳥路さんの寿司を皆に知ってもらおう。そして、スシバトル部を止めよう」
やることは決まっている。
「そのために、鳥路さんの寿司、いや鳥路さんの良い所を挙げていこう。そこから答えは自ずと見つかるはずだ」
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




