第69話 フィクショナルスシポリス②
前回のあらすじ:
根木さんが鳥路さんにスシバトルを申し込んだ。
◆◆◆
「す、スシバトル!? いや、違うんだ根木さん! 鳥路さんは寿司警察じゃないんだよ!」
鳥路さんと根木さんの間に入って根木さんを止める。
スシバトルに動揺して、肝心な部分を否定する事が遅れてしまった。
「それを知るためのスシバトルだ。男は下がってろ」
……簡単に押し除けられてしまった。
「あなたがそれで納得するなら……握るわ」
鳥路さん! どうして否定しないんだ!
「……良い返事だ。金星! ルールを決めてくれ!」
「い、今からですの?」
「明日まで待てるか。何でも良い、決めてくれ」
根木さんの雰囲気が全然違う。雑なヤンキーみたいな雰囲気はなく、勝負師……違う、職人の顔だ。
「登緒子! ダメデース! トリッジがスシポリスなはずありまセーン!」
「サブリナさん!?」
賀集さんが家庭科室に飛び込んできたサブリナさんに驚く。
サブリナさんは鳥路さんが寿司警察ではないと信じてくれているようだ。
「サブリナ。お前の考えを否定するつもりはないが……これは私の問題だ、すまんな」
根木さんの意思は固い。スシバトルを避けることはできないようだ……
「冷凍庫にカチコチのマグロがありましたわ……これでよろしいですか?」
マグロ……鳥路さんと根木さんが初めスシバトルした時と同じ寿司ネタだ。
「解凍からやるか? とりあえずサブリナは鍵を閉めてくれ」
「わ、わかりました」
家庭科室の鍵が閉まる。余計なギャラリーの介入を避けるためだろうか……
「……審査員はどうするの?」
こうなったらスシバトルを正常に進める方向に話を進めた方が良さそうだ。
「私と鳥路以外で良いだろ。サブリナ入れて四人で偶数になるが……まぁ関係ないよな?」
根木さんの言葉に鳥路さんが頷く。でもそれだとこっちが有利になるんじゃ……一応確認しておくか。
「寿司同好会が人数的に有利だけど……根木さんはそれで良いんだね?」
「ああ、構わない」
この人は本当にあの時の根木さんと同じ人なのか?
確かに男より男らしい側面はあったけど……ここまでの人物だとは思ってもいなかった。あの時のスシバトルは演技……俺の頭にそんな言葉が浮かんだ。
根木さんが金星さんから凍ったマグロのサクを受け取ると机に軽くコンコンとぶつける。
「本当にカチカチだなこれ……このままだと切り分けられないし私が解凍までやるぞ」
そう言って根木さんは電気ポッドのお湯をボウルに入れて塩を溶かし、そこからさらに水を加えてお湯を薄めた。慣れている……一見適当に入れた塩も分量が最適なのだろう。鳥路さんが止めに入らないなら、きっとそのはずだ。
根木さんは左手の人差し指で温度を確かめ先程のボウルの中に凍ったマグロを丁寧に入れた。
「……あとは適当に待つか。さて、鳥路。お前は何で寿司屋でスシバトルなんかしていたんだ?」
解凍の待ち時間で根木さんが鳥路さんに質問を始めた。
「……寿司の食べ歩きで不味い寿司にあたったから。不味いと言ったらスシバトルだ、みたいな流れになって、そのまま……」
……本人の口からは初めて聞いたけど、ここにいる皆が知っている情報だった。
「それは潰すほど不味い店だったのか?」
そうじゃないんだ! 鳥路さんは、鳥路さんはそんなことしない!
「私にそんな権利は無い。それに私はただの客。美味い寿司を食べたいだけの存在」
「……口ではいくらでも言えるさ。あと普通の客は寿司握れないから寿司屋に行くと思うんだが?」
確かに。どうして鳥路さんは寿司を握れるんだ? 動画で学んだとは言っていたけど……なぜ寿司を握ろうと思ったのか。
「それは……」
「ん? あ、すまん。シャリがねぇな……今から米炊いて作ると遅くなるな……」
忘れてた。いつもスシバトルする時には何かあるんだよな、シャリ。
「問題ない。準備したものがある」
鳥路さんの言葉に続くように炊飯器の電子音が聞こえてくる。
……いつ仕込んでたんだ鳥路さん。
「準備良いな……こうなるってわかっていたのか?」
寿司警察の噂を聞いてからこうなることを予知して準備していたのか鳥路さん!?
「いや、寿司同好会の活動用」
……違った。それより鳥路さんは今日の寿司同好会で何をする予定だったんだ?
「……シャリはお前に任せる。仕上がりだけは私にも確認させてくれ」
「わかった」
鳥路さんがシャリを作るための準備を始める。
緊張感は確かにあるんだけど、この二人の距離感は何か独特だな。
そんな二人で行うスシバトルがどのような結果になるのか……何度かスシバトルを観てきた俺でも想像ができない。どうなるんだ、このスシバトルは……
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