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第68話 フィクショナルスシポリス①

 体育祭でのスシバトル……本来のスシバトルでは無かったとはいえ帯刀さんのスタンスがはっきりし、そして何より鳥路さんが正面から戦って勝てなかった事実が寿司同好会に重くのしかかる。

 表のスシバトルでは鳥路さんは無敗だけど、実際は松風先輩に一度敗北している。あの時は鳥路さんがスシバトルを利用して松風鮨を救う意図があったのは理解しているけども……

 とにかく、鳥路さんは無敵じゃない。当たり前のことなのに俺は油断していた。

 スシバトル部が本気で攻めてきた時に俺達は乗り越えることはできるのだろうか……

 一番心配なのは鳥路さんが帯刀さんの寿司にショックを受けていた事。

 今後のスシバトルに響かなければ良いけど……いや、そんなスシバトルを続けることを鳥路さんは許さないかもしれない。勝つために寿司を捨てるなんて絶対に鳥路さんはしない。


「おはよ」


「うおっ!? と、鳥路さんおはよう!」


 いつもと変わらない鳥路さんの挨拶。大丈夫そうだけど、表面上だけではわからないことも多い。


「何か考えてた?」


「いや! 体育祭の疲れがまだ残ってるなぁってだけ! カラオケでの打ち上げも結構疲れちゃったし! 鳥路さんは!? どう!? 元気!?」


「いや、私は大丈夫だけど……」


 鳥路さん、あれだけ走ったり動き回ってたのに全然余裕そうだったもんなぁ……歌も上手かったし。


「山本くん、昨日から元気がなかったから……」


 ……俺が鳥路さんを不安にさせてどうする!

 俺は自分の頬を両手でバシンと引っ叩いて目を覚まさせる。


「えっ!? 何してるの!?」


「ごめん。本当に大丈夫。今日の放課後も寿司同好会の活動頑張ろう!」


「わ、わかった。無理しないでね」


 スシバトルで貢献できないなりに俺にできることはあるはずだ。特にスシバトル部相手なら……!


「ね、ねぇ、鳥路さんちょっと良い?」


 クラスの女子の一人が鳥路さんに声を掛ける。様子がどこかおかしい。鳥路さんはクラスに馴染んだと思うし、昨日の体育祭の功労者だ。実際に昨日の打ち上げでも鳥路さんは主役みたいな扱いだった。


「大丈夫。何?」


 彼女はどこか……鳥路さんを恐れるような目で見ていた。


「寿司警察の話って……本当に鳥路さんなの?」



◇◇◇



 寿司警察……今年の春に出没した謎のスシバトラー。


 寿司警察は神奈川県や都内にある寿司屋に現れ、そこで気に入らない寿司が出されればスシバトルを強制的に挑んでくる。


 そのスシバトルに敗北した店は寿司警察によって潰される。


 そして、その寿司警察の正体は桶ヶ丘の生徒、鳥路さんであると……


 それがこの学校に流れた寿司警察の噂の内容だった。



「ひどい! とりっじがそんなことするわけないのに!」


「でも……色んなお店でスシバトルはしちゃってたんだよね、鳥路さん?」


「……そこは否定できない。でも店を畳めなんて一度も言っていない」


 その点に関しては鳥路さんを信用している。これまでの寿司屋でのスシバトルの鳥路さんを見ていれば誰でも噂が嘘であるとわかる。


「実際にスシバトルで寿司屋を潰したのはスシバトル部の帯刀さんですわ。この感じ……鳥路さんを孤立させるためにスシバトル部が流した噂の可能性が高いですわね……」


 金星さんが一つの可能性を提示した。

 ……笹垣あたりならやりそうだ。


「だ、だったら、鳥路さんの無罪を証明しよう! 潰したのはスシバトル部で、鳥路さんじゃないって!」


「どうやってですの?」


 金星さんが扇子をピシャリと閉めて俺を止める。

 

「それは当時の関係者に……! あ……」


 店が潰れてるんだ。当時を知る関係者はスシバトル部ぐらいしかいない。

 店主がどうなったか、他のお客さんがどこにいるかなんて……俺達にわかるはずもない。


「私が動揺せずにちゃんと証拠を押さえていれば……店主は生きているはずですが行方知らずで……申し訳ありませんわ」


 金星さんが俺達に頭を下げる。


「金星さんは悪くないよ!」


 賀集さんがフォローする。そうだ、ここにいるメンバーは誰も悪くない。


「ごめん。私のせいで……」


「鳥路さんも悪くない! 俺は……鳥路さんのスシバトルが正しいと思ってる!」


 金星さんが先日話してくれた光と闇のスシバトル。その話を思い出した。

 本来のスシバトルは俺たちが思うよりもずっと邪悪な存在なのかもしれない。

 でも、鳥路さんのスシバトルは……松風鮨を救ったはずだ!


「……司先生に相談しよう。先生なら、きっと……」


 大人の意見を聞こう。そうすれば、何か解決の糸口が見えてくるかもしれない。


 その時、タイミングよく家庭科室の扉が開く。司先生か!?



「……邪魔するぞ」


 そこに居たのは司先生ではなく根木さんだった。

 それも……初めて鳥路さんに絡んできた時よりも何倍も怖い顔をしている。


「ね、根木さん? どうしたの? 何か用?」


 俺を無視して根木さんが鳥路さんの目の前に立つ。


「鳥路英莉……いや、寿司警察」


 根木さんの耳にも寿司警察の噂が届いてしまったようだ。

 ……そして、そこから繋がる言葉は俺が今最も聞きたくないものだった。 



「私とスシバトルしろ」



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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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