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第59話 ネコマタズシクライシス⑧

前回のあらすじ:

笹垣がスシバトルの審査員を過半数抱え込んでいた。


◆◆◆


「うおおおお! スーシキン! スーシキン!」


「寿司王国が勝つと十皿無料チケットが貰えるんだってよ!」


「マジかよ!? 寿司王国サイコー!」


 スシバトルが始まってもスシキンムードは変化せず、むしろ悪化したまである。幸いなことに賀集さんは寿司に集中しているので影響はなさそうだけど……ここまでのアウェイ戦は初めてだ。寿司屋で鳥路さんがスシバトルしてる時ですらここまで酷くなかったぞ。


「両者の寿司ネタが出てきた! 寿司王国は……既に寿司ネタサイズに切られているぞ!」


「ねこまた寿司は笹の葉から出てきたぞ!? こっちも切られているな!」


 こっちは仕込みの都合で切り分けていたけど、向こうはなぜ切り分けているんだ?

 笹垣の包丁技術が未熟とかそういう理由だろうか。


「寄生虫対策済みか……」

 

 鳥路さんが呟く。周囲がうるさくても聞き取れる鳥路さんの声が頼もしい。


「寄生虫?」


「天然のサクラマスには寄生虫がいる可能性が高い。下手にサクの状態から寿司にすると寄生虫が残ってしまう場合がある。切り分けて持ってきたということは検査済みのはず」


「な、なるほど……」


 普段はスシバトル中に鳥路さんと会話できないので、こうして何を考えているのかを聞けるのは新鮮かもしれない。


「両者握りに入るぞ!」


「寿司王国は何だあれ!? 窪みが何個もある容器にシャリを詰め込んでいる!」


 笹垣がしゃもじを使ってシャリを変な容器の中に詰めている。

 そのままその容器をひっくり返すと均一なサイズのシャリが同時に五個調理台の上に現れる。


「と、鳥路さん!? あれ有りなの!?」


「あのまま使ったら話にならないけど、握りの練習をしたなら笹垣はあそこから握るはず。だとすると同じ量のシャリを量るのには非常に有効」


 感心しちゃってるし!


「スシバトルに道具を使っちゃいけないなんてルールはないの知らないのぉ? 頭スッカスッカ? それともズブの素人ぉ?」


 笹垣に聞かれていたらしく煽られた。我慢だ我慢。実際素人だし。


「賀集さんが握るわよ!」


「お……おう」


「普通?」


「俺はスシバトルに詳しいけど、あれはほぼ素人ですな」


 ほぼ二日でここまでできた賀集さんを評価してほしいと思う反面、勝敗は結果のみに左右される事も理解している。これも仕方がないけど事実だ。でも頑張れ賀集さん! 


「おお! 寿司王国を見よ! 見事なフォームだ!」


「これは……一朝一夕で身に付くものではありません!」


 悔しいが結構サマになっている笹垣。ゴールデンウィークを全消費しただけはある。同じ大きさのシャリを使っているのでサイズ感も均一に見える。シャリの整形の時間も省かれているので完成までの時間も短い。勝ちに来てると豪語するだけの能力はあるようだ。


「……大したことない」


 そりゃ鳥路さんに比べればそうだけども……


「寿司王国はもう五貫完成! すごいスピードだ! 一方ねこまた寿司! まだ一貫だけなのに手を休めている! これはいけない! いけませんよ!」


「お腹が空いているのにこの遅延行為はマイナス! マイナスですよ!」


「それとも何か考えているのですかね? 負けた時の言い訳でしょうか? ねこまた寿司がどんな寿司を握るか期待していたのですがねぇ……」


「ナツー! 頑張れー!」


「……」


 最後の審査員の女子は興味無さそうにお茶啜ってるし……何でスシバトルを見に来たんだ? ……あれ? よく見たらこの人どこかで見たことあるな……誰だっけ……

 

 目を閉じて集中していた賀集さんの目が開き一気に残りの四貫の握りに入る。

 スピードも精度も普通……スシバトラーとしては下なのかもしれない。それでも一つ一つ丁寧な仕事は賀集さんならではの良さにも感じる。


「きゃはっ! 何その寿司! 大きさバラバラじゃない! この二日間何してたの!? ねこまた寿司じゃなくてざこざこ寿司に改名したらぁ!?」


 やはり賀集さんの寿司は大きさがバラバラだ! 

 笹垣は道具を使っているじゃないかと言いかけたけど、ルールの範囲なら文句は言えない! こちらがその手段を思い付けなかった落ち度だ!


「……ふっ」


 鳥路さんが笑った。この状況で、だ。

 勝負を諦めた冷笑? 違う! これは勝ちを確信した笑み!

 今までのどこに勝ちを確信できる要素があったんだ!?


「できました!」


 五貫目を握り終えた賀集さんが手をあげる。


「ギリ遅延行為には入らないわね。ざぁんねぇん! ま、そんな寿司じゃ審査で恥を晒すだけよ? 棄権したらぁ?」


「棄権しない。勝負から逃げるつもり? 笹垣さん!」 


 珍しく語気が強くなる賀集さん。その目にいつもの穏やかさは無く、勝負をする人の目になっている! 賀集さんは寿司に集中していたけど笹垣の言葉は全部聞こえていたのかもしれない。


「ちっ! 賀集のくせに……まぁいいわ! 審査の時間よ!」


 笹垣から一瞬賀集さんへの明確な敵意が見えた。いや、いつも敵意剥き出しなんだけど、それとも違うような……


 審査員の前に両者の寿司が並ぶ。改めて笹垣と賀集さんの寿司が並ぶと賀集さんの寿司の大きさの違いが明確にわかる。


「まずは寿司王国から……んん! これは本当にサーモンなのですか!? 上品な甘みにプリッとした食感! い、今までのサーモンは何だったんだ!?」


「これは寿司王国の寿司ネタへのこだわりが見える! 見えてきますよ! 栄光のスシキン時代が!」


「……寿司王国のサーモンってこんな美味しかったっけ? あ、いや! 美味しいのは正義! 正義ですよね!」


「おいしー!」


「……」


 そりゃサーモンという名の高級魚のサクラマスなのだから美味いのは当たり前だよなぁという感想になる。サクラマスをサーモンと呼んで問題がないと鳥路さんに教えてくれてなかったら「それはサクラマスだ! ルール違反!」と叫んでいたかもしれない。 

 てか最後の人、寿司食ってないし! 何しにきたの!?


「お次はねこまた寿司……おや? この爽やかな香りは……?」


「笹に包んでいたのでそれでしょう。問題は味! 味ですよ! 匂いを誤魔化さなきゃいけない鮮度のサーモンの可能性がありますよこれは!」


 天然のサクラマスにサーモントラウトは勝てないかもしれない……!

 でも、こっちのサーモンは美味しくするための鳥路さんの知恵が詰まっている!


「うまっ! あ、いえ! 美味い方かなぁといった感想ですよ! 決してうっかり声が漏れたわけではありません!」


「ははは! いやぁ、お、美味しいですけど? 寿司王国には一歩、いや十歩及ばない? みたいな!」


 この二人の審査員の票は期待できないな……完全に買収されてるだろ。


「俺の知ってるサーモンなのに、こ、こんなに美味くなるのか!? 旨みがなんかすごいし、この笹の葉の香りがすげぇマッチしてる! それに大きめのシャリが今の俺にはすごくいい!」


「おいしー! ダイエット中だからシャリも小さくて助かるー!」


「え?」

「ん?」


 若干まともそうな男子と賀集さんの知り合いっぽい女子が顔を見合わせる。

 同じ寿司なのにシャリの感想が真逆……確かに賀集さんの握った寿司は大きさがバラバラだったけど……それってまさか! 


「し、審査員に合わせてシャリの大きさを変えていたってこと!?」


 不服だが笹垣が俺と同じ考えに至ったようだ。


「賀集さんは客を見て寿司を握っているからだ! 回転寿司屋の笹垣は知らないかもしれないが、寿司屋はカウンターで客の顔を見て握る!」


 鳥路さんがタイミングを狙っていたかのように笹垣に対して叫ぶ!

 そうか! 昨日最後に賀集さんが握った寿司……! あれは俺達の事を考えて大きさを変えていたのか! 司先生の大きさの理由はわからないけど……俺の寿司が大きめだったのは多分男子だから! 鳥路さんの寿司が小さかったのは「食べ過ぎだよね?」という賀集さんの優しさ! 本人に聞かないとわからないけど!


「す、寿司は決まった大きさが一番美味しいに決まっている! 屁理屈を言うな!」


「同じ大きさの寿司で客を満足させるだけの技術がお前にあるのか? そのチンケな道具を許可したスシバトル部の部長に聞いてみたらどうだ?」


「鳥路英莉ぃ!」


 騒めくギャラリー! 鳥路さんと笹垣の空中戦がスシキンムードを一変させる! 

 賀集さんは二人のやり取りにあわあわしてるけど……


「くそっ! おい! 最後の審査員! 早く食えっ! このくだらない茶番に終止符を打ってやる!」


 余裕をなくした笹垣が吠える! ほぼ八つ当たりだ!


「だから、私、寿司苦手なんだってば」


 お皿の上にご健在の二貫の寿司。


 ……


「なんでスシバトルに来たんだよ!?」

「なんでスシバトルに来たの!?」



 笹垣と俺の心が完全に一つになった……

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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