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第58話 ネコマタズシクライシス⑦

前回のあらすじ:

鳥路さんと司先生が賀集さんの握りにGOサインを出した。

大きさがバラバラなのに……


◆◆◆


 スシバトル当日。放課後から始まる本番を前にクラスというか学校全体が浮ついていた。

 ねこまた寿司と寿司王国の関係者による代理戦争……この勝負の結果は二つの回転寿司の客足にも影響が出るのではと噂が聞こえてくる。

 鳥路さんと司先生はいつも通り。賀集さんは落ち着かない様子だけど、睡眠時間はしっかり取れたようで体調面の心配はなさそうだ。問題は俺も賀集さんも何故鳥路さんと司先生から賀集さんの寿司にOKが出たのかわかっていないこと。

 昨日は鳥路さんには秘密と言われてまったし、司先生も笑ってはぐらかすし……

 いや、素人の俺より二人を信じよう。絶対に何か理由がある。鳥路さんは特にそうだ。俺はまだスシバトルに詳しくない!


◇◇◇


 放課後になると一斉に生徒は家庭科室に向かって駆け出していく。中にはホームルームをサボって席取りを始める輩もいたようで……この異常なスシバトルブームの背後にいる金星さんは何が目的何だろうか。彼女の真意は未だ不明だ。

 寿司同好会メンバーで揃って教室を出たのに、気付いたら人混みですぐに分断されてしまった。何だこの人数!?


「スーシキン! スーシキン!」


「勝つのはスシキンだ! さぁ君も笹垣さん応援団扇で寿司王国を応援しよう!」


 家庭科室の道中やたらと寿司王国推しの応援団が目に入る。というかスシキンって……スシキングダムだからか? あと俺はねこまた寿司サイドの人間なんだけど……まぁ団扇に罪はないし、シャリを冷ます時の団扇として使ってやろう。


 家庭科室に入るとスシキンムードは物理的にも更に高まり、俺達ねこまた寿司陣営は肩身が狭くなるレベルだった。


「な、なんだこれ!? 寿司王国ってこんな人気だったのか!? てか通してくれない!? 一応、関係者なんだけど俺!?」


 人混みと熱気に飲み込まれそうになった時、人の隙間から伸びてきた腕に引っ張られ開けた場所に出ることができた。


「大丈夫?」


「鳥路さん! 助かったよ……どうなってるのこれ?」


 いつものスシバトルとは違う状況を鳥路さんに尋ねる。


「笹垣が寿司王国の割引券をばら撒いたらしい。あとは山本くんが手に持ってる団扇みたいなグッズも配って学校を寿司王国に染めている」

 

「そ、そんな盤外戦術許されるの!?」


「許されるも何も! こうしちゃイケナイなんてルールないんだかんね! 負け惜しみぃ!?」


 この妙にイラっとする声は……!


「笹垣っ!」


 テーブルの前で笹垣が腕を組みながらこちらを見下すように笑っている。準備は既にできているようだ。


「あはっ! その顔! もっと頂戴! そこの仏頂面も賀集も全然面白い顔してくれないの! あんたは面白くて好きよ?」


 賀集さんも既にこっちに来ていたか! 胸に手を当て、目を閉じてスシバトルに集中している。なるほど、笹垣なんて眼中にないということか。いいぞ賀集さん! 俺だって負けてられない!


「俺の事好きならスシバトルに負けてくれたりしないの?」


「は! 調子に乗るなよざぁこ! 別に男としてのあんたに魅力なんて微塵も感じてないわよ! それに私は勝つのが好き! 勝つためだったら何でもやる! あんたらのホームである家庭科室は今まさに寿司王国ファンが大半を占めている! アウェイはあんたら! ねこまた寿司なのよ!」


 ここまでするか……松風先輩がどれだけお上品だったか身に染みて理解できるよ。


「ここまでしないと勝つ自信も無いのか? 連休返上したのに?」


「うっさい仏頂面! 寿司だって私の方が上よ!」


 鳥路さんのレスバ力を見習いたい。

 

「あれ? そろそろ開始時刻だけど金星さん見当たらないな」


 あの人存在感あるから見失わないと思うし。


「……まだ来てない」


 鳥路さんの目でも見当たらないらしい。


「金星さん、時間とかには凄く厳しいのに何も無いなんて……何かあったのかな」


 異変に気付いた賀集さんが金星さんの身を案じる。なんだかんだ真面目な人ではあるしなぁ……


「スシバトルは時間厳守! ギャラリーを待たせるのはNG! 主催者不在でも進行すべし! 金星の作ったルールブックに従いましょうかぁ」


 ニヤリと笑う笹垣。お前、何かやったな!?

 というかそういうルールなの!? 司先生が職員会議で来れてないし詳しい人が寿司同好会に誰もいないぞ!?


「寿司同好会はスシバトル詳しく無いみたいねぇ? 仕方ないから私が進行するわね! 入場時に配った紙にハートマークが書かれている生徒! あなた達が審判よ!」


 盛り上がるギャラリー! そしてその中から選ばれた生徒達が審査員席に座り始める! というか俺はそんな紙貰ってないんだけど!? 本当に配ったのかそれ!?


「いやぁ、緊張するなぁ! 寿司王国の社長令嬢の寿司が食べられるなんて名誉な事ですからね!」


「ねこまた寿司の寿司なんてファミリー向けの安かろう悪かろうでしょう? 寿司王国の勝ちですよこれは!」


「寿司王国は本物志向で下手な寿司屋の何倍も美味いですからねぇ! ねこまた寿司は行った事ないので知らないです」


「いえーい! ナツー! 見てるー! 審査員当選とかマジウケるんですけど!」


「私、寿司苦手なんだけど」


 ……なんか男子三人ぐらいが寿司王国贔屓じゃない? 女子の一人は賀集さんの知り合いっぽいけど。もう一人の女子は何でスシバトルに来ちゃったかなぁ!?


「……審査員の買収? いや配られた紙に細工が? 笹垣、本当に無作為に選んだの?」


 鳥路さんも異様な審査員に違和感を覚えたのか笹垣さんを睨む。


「あはっ! 誰も無作為なんて言ってませんけどぉ? でもでもぉ、ちゃんと紙配ったからランダムじゃない? こんだけ寿司王国ファンがいたら三人ぐらい当選するのも普通じゃない? きゃはは!」


「笹垣っ!」


 もう何なんだよこいつ! フェアプレイ精神とか無いのか!?


「証拠がない……! 悔しいけどやるしかない!」


 鳥路さんすら想定しない手段で勝負を歪めてきたのか笹垣!


「いい心構えね! ようやく良い顔してくれた! あはっ! さあ賀集七津! 次はあんたの番よ!」


「……わかった。やろう。笹垣さん!」


 普段穏やかな賀集さんの目から闘志の炎が見える。それが怒りからくるものなのか、勝負への覚悟なのか俺にはわからない。それに一度始まったスシバトルは誰にも止めることはできない! スシバトルが……始まる!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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