第57話 ネコマタズシクライシス⑥
前回のあらすじ:
昆布締めと笹の葉による熟成サーモンで勝負に出る寿司同好会。賀集さんの握りは当日までに完成するのか……
◆◆◆
スシバトルの前日。鳥路さんの調査の結果、サーモンは三時間の昆布締め後に笹の葉で熟成する方針に決まった。今は金星さんが約束してくれた通りに届いたねこまた寿司で使用されているサーモントラウトを使って本番に向けた仕込みを進めている。
賀集さんの方は鳥路さんが試作で作った熟成サーモンで握りの練習中。昨日の放課後に見た時よりもかなり上達している。しかし、それもあくまで賀集さんの中での比較であって、鳥路さんと比べるにはまだまだそのレベルに到達していない。
「うーん、全然大きさが違うなぁ……」
賀集さんが自分の握った寿司を見て呟く。
形は個々で見ると整っているのだけど、比較すると大きさや形がバラバラである。隣に置かれているお手本用の鳥路さんの握った寿司はどれも同じ形と大きさで並んでいる……まぁ並べられた寿司は次々と鳥路さんが食べていくので比較できる時間は短いのだけど。
「同じ量のシャリを手に取って同じ形に寿司を握るにはどうしても時間が必要ね」
そう言いながら司先生はサクッと寿司を握ってお皿の上に置いた。
……めちゃくちゃ握るの早くない? 握る手数も少なかったし……鳥路さんとはまた違う握り方なんだろうか。
「司先生や鳥路さんはどうやってシャリを量ってるんですか?」
二人ともシャリを手に取る時に全く迷いがないので聞いてみた。
「経験というか感覚でやっちゃてるのよね」
「手に取ればわかるし。15から20グラムで調整できる」
うーん、参考にならない。鳥路さんはグラム単位で調整できるとか機械じゃないんだからさ。
「そんなの私には無理だよぉ!」
へろへろと椅子に座る賀集さん。昨日から結構な数をこなしているはずだし、疲れは間違いなくあるはず。これ以上無理に練習するのは良くない気もする。
「賀集さん、お茶淹れるよ。少し休もう」
「うん、ありがとう山ちゃん。でも休憩したらすぐに再開しないと……」
今回のスシバトルに負ければ鳥路さんはスシバトル部に強制入部。
勝つための努力は惜しみたくない気持ちは賀集さんだけでなくこの場の全員がそう思っているはず。しかし、どうしても壁はあるし、無理なものは無理。どこかで折り合いをつけなければいけない。それはどこなのか……お茶を淹れながらそんなことを考えてしまう。
「……いや、明日の勝負までゆっくり体を休めた方がいい」
意外にもここでストップを提案したのは鳥路さんだった。
「そうね。この短期間で握り自体はできるようになったし……あとは本番緊張しないかどうかの方が大事ね」
司先生もそれに同意する。
「ま、まだ頑張れるよ! ギリギリまで練習した方が良いんじゃないかな?」
かなり疲労が溜まっているのだろうに、賀集さんはまだやる気のようだ。
……俺は何も言わずに三人の前にお茶を差し出した。
「賀集さんは今後も練習すればもっと上手くなるのはわかる。でもそれは今じゃない」
素人の状態から安定せずとも寿司の形にはなっているし、鳥路さんはそういう嘘をつかないので実際そうなのだろう。でも今じゃないってどういう意味だ?
「鳥路さんが昨日言っていたように寿司は心で握るのよ」
まさか司先生が鳥路さんの精神論を持ち出すとは……
「賀集さん、最後に私達に一貫ずつ握ってみて」
「え? う、うん」
鳥路さんに言われサーモンの寿司を握り始める賀集さん。
まだ不慣れで動きも滑らかではないけれど、手元の寿司は着実に形となり、お皿の上に置かれていく。
「えっと……これが山本くん、これが鳥路さん、最後のが司先生のお寿司です」
俺のは大きめ、鳥路さんは小さめ、司先生のは二つと比較すれば普通の大きさ……ってところかな。シャリの大きさがやはり安定しないようだ。
「うん。やっぱり大丈夫。明日まで体力温存で良い」
鳥路さんはそれらの寿司を一目見て納得し、自分に差し出された寿司を一口で食べてしまった。
「え!? 何が大丈夫なの!? 大きさバラバラだったよね?」
思わず口に出してしまった。賀集さんごめん。
「私も鳥路さんの意見に賛成よ。賀集さん、今日はゆっくり休みなさい。自主練も禁止」
司先生まで!?
「え? ええ? わ、わかりました……?」
賀集さんも何で二人から合格点が出たのかわかっていないようだ。
「鳥路さん!? 俺はともかく賀集さんには何が良かったか教えてあげたほうが良くない!?」
嘘は言ってないが正直俺が知りたい。
「……知らずにやられた方が笹垣には効く。だから今回は秘密」
笹垣に効くって何が!?
なんか今回のスシバトルはずっと鳥路さんに振り回されている気がする!
俺、一応同じ陣営のはずなんだけどなぁ!
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