表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/203

第56話 ネコマタズシクライシス⑤

前回のあらすじ:

笹垣の策略で天然サクラマスと養殖サーモントラウトの不利なマッチングになることが判明した。


◆◆◆


 鳥路さんに追いつくのがやっとで息を整えている間に鳥路さんが買い物を済ませてしまい、結局何を買ったのか分からぬまま帰路に着いた。鳥路さんが化け物じみた体力の持ち主と理解しつつも、男として少し情けない……


「早かったわね……早すぎない?」


 司先生の反応が全てだと思う。


「これ領収書とレシートです」


 鳥路さんが平然とした顔で司先生に領収書とレシートを手渡す。

 結構な距離を走っているのに息が全く乱れていない。どうなってるんだ?


「はいはい……あーなるほどね」


 レシートを見た司先生が鳥路さんの作戦に気付いたらしい。


「はぁ、はぁ……ゲホッ! そ、それで何を買ったの鳥路さん?」


 辛うじて会話できるところまで回復したので鳥路さんが買ったものを確認する。


「サーモンの切り身と昆布と笹の葉」


「サーモンの切り身はわかるけど……昆布と笹の葉は何に使うの?」


「昆布締めに使う」


 昆布締め! なるほど昆布の旨みをサーモンに加えるってことか! 寝かせることで熟成されて、松風先輩の鯛みたいになるのか!


「じゃあ……笹は? 飾りじゃないよね?」


「昆布締めした後に熟成する時の香り付け」


 笹の葉寿司とかあるもんな……なるほど。

 

「鳥路さん、鱒寿司を作ろうとしてる訳じゃないわよね?」


 司先生が鳥路さんから受け取ったものをお財布に仕舞いながら確認する。

 サーモントラウトがニジマスなら鱒寿司になるってこと? でも確か鱒寿司って押し寿司みたいなもので握り寿司じゃないよね?


「鱒寿司そのままではなく握りとの融合……ですかね。賀集さんにはやっぱり握って貰わないと」


 あくまでシャリとネタはその場で組み合わせるってことで良いのかな。


「急いでたのは熟成に時間が掛かるからだったんだね」


「それもあるけど……適切な昆布締めの熟成時間が分かってない」


「ずっと置いとくのはダメなの?」


「やりすぎると昆布臭くなるし、身が固くなる」


 何事もほどほどが一番ってことね。


「とりあえず薄切りなら四時間程度。一時間置きに状態は確認したい」


「徹夜はしなくて良さそうだね。そこからは笹の葉で熟成ってことだね」


「そういうこと」


 鳥路さんのやりたいことは分かった。シャコの時もこんな感じで色々試行錯誤した上での徹夜だったんだろうな。美味しいものに努力を惜しまない姿勢はストイックな鳥路さんらしいと言える。


「でも買えたのがアトランティックサーモンだから……できればサーモントラウトで実験したかったけど……」


 正直それで何が違うのか分からないけど、鳥路さん的には懸念するぐらいの差があるんだろうな……そういえばねこまた寿司のサーモンはどうやって手に入れるんだ? 賀集さんがお爺ちゃんに頼めば手に入る気はするけど。


「お邪魔しますわー!」


 勢い良く家庭科室の扉を開けて入ってきたのは金星さんだった。


「何しに来たの?」


 鳥路さん的には「あ、来たんだ」みたいなノリで聞いてるな。金星さんをスシバトル部として扱ってないというか、敵視してないというか……ただ、鳥路さんがそう捉える事は俺も理解できる。松風先輩とのスシバトルでは実質味方してくれた訳だし。この人は本当に単なる敵なのか……それとも……


「スシバトルのお話でしてよ! ねこまた寿司で使っているサーモンは明日の朝にはこちらに搬入しておきますわ!」


 うーん、お金持ちの人って行動が早い。明日の朝なら放課後の仕込みに十分間に合いそうだな。


「……本当に賀集さんが握りますのね。間に合いますの?」


 金星さんは練習中の賀集さんと賀集さんの努力の結果を見ながらそう言った。

 一応形にはなってきているけど……まだまだ伸び代が多そうだ。


「なんとか本番までには形にしたいけど……」


 その辺りは握っている賀集さんが一番理解しているだろう。


「ところで、金星さんって寿司握れるの?」


 世間話的な感じで聞いてしまった。なんかこの空間にいても違和感ないんだよなこの人……


「山本さん、私を誰だと思っていまして? 私、これでもスシバトル部の部員でしてよ」


 扇子を開いて口を隠し俺を睨む金星さん。しまった、気を抜きすぎていたか!


「……これっぽちも握れませんわー! おほほほ! 賀集さん! 今度私にも握り方を教えてくださいまし!」


「え? 私? じょ、上手になったらね!」


 なんでこの人はスシバトル部に席を置いているんだ? いや、パトロン的な立ち位置なのは理解してるけどさ。

 ……鳥路さんと司先生もそんな顔をしている。

 

 とにかく、本番までにやることは決まった。鳥路さんの手伝いをしつつ、賀集さんの上達を待とう。俺にできるのは……二人を信じる事だけだ!



「お茶とかありませんの?」


 ……賀集さんの握った寿司を食べながら金星さんがお茶を要求してきた。

 この人の相手も俺の仕事なのか?

感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。


◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ