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第54話 ネコマタズシクライシス③

前回のあらすじ:

賀集さんがスシバトルをする事に。鳥路さんの作戦は「美味い寿司を握れ」


◆◆◆


 勝負が決まったその日の放課後、賀集さんのスシバトルに向けて寿司同好会メンバーは家庭科室に集合していた。


「まさか賀集さんがスシバトルを挑まれるなんて……スシバトル部も手段を選ばなくなってきたわね」

 

 昼休みに起きたことを聞いた司先生はそのような感想を口にした。

 スシドライバーが向こうの限界だと思っていた俺の考えはかなり甘かった。

 

「スシバトルの話の前に……私の事、ちゃんと話しておきたいんだけど……良いかな?」


 賀集さんが椅子から立ち上がり意を決した顔つきで俺達に確認を取る。


「賀集さんがそれで良いなら……聞くわ」


 俺も司先生も鳥路さんの言葉に頷く。賀集さんは目を瞑ってから少し息を整え、そして話し始めた。


「……私が百鬼ホールディングの会長の孫娘であることは本当。でも一族経営では無いし、実際にお父さんは百鬼ホールディングの傘下ではない企業に勤めてるの。お爺ちゃん……賀集寅治郎は傘下企業のいざこざに家族を巻き込みたくなかったんだと思う」


 百鬼ホールディングス……どういう企業形態か明確に理解していないけど、様々な企業を抱えているみたいだし、それだけ意思疎通や統制が困難なのは想像できる。それをまとめあげている賀集さんのお爺ちゃんはきっと凄い人なのだろう。


「自分で言うと恥ずかしいんだけどね、お爺ちゃん私の事が大好きで……それにお寿司も好きだったから小さい時からよくお寿司屋さんに連れて行ってもらってた。琴音さんや金星さんと会ったのもその時だったかな。あと、栄寿司もお爺ちゃんがお忍びでよく行ってて根木さんとはそこで……」


 栄寿司って実は本当に凄いお店なのでは? なんで根木さんが鳥路さんにヤンキーみたいな絡み方してきたのかいよいよわからなくなってきたな。


「でもお寿司って高いでしょ? 私のお父さんは良くも悪くも普通の勤め先だし、私達家族が気軽にお寿司屋さんに行くことはなかった。その事を小さい時の私がお爺ちゃんに話しちゃったの」


 小さい頃の話だし、きっと何気なく口にしちゃっただけなんだろうな。


「……それで生まれたのがねこまた寿司」


 ちょっと待って。急展開すぎない? そんな簡単に会社って建つの?


「寅治郎の乱とか百鬼ホールディングス暴走とか言われてたらしいけど……結果的にねこまた寿司は大成功。お爺ちゃんの地位を確固たるものにした」


 インターネットの記事とかになってそうだなぁ……


「ああ……なるほど。ねこまた寿司の最初期の広告に繋がるのね」


 司先生が何かに気付いたようだけど、俺も鳥路さんもさっぱりだ。


「子供だって美味しいものが食べたい! 一番初めのねこまた寿司の宣伝文句。そして、そのセリフを言っていた子役……それが私、賀集七津」


「え!?」

「え!?」


 俺と鳥路さんが同時に驚く。賀集さん、子役だったの!?

 鳥路さんはスマホでその事を検索し始めている。


「あった! え、これが賀集さん!? 髪の毛の色とか違うし……今は染めてるから!?」


 鳥路さんのスマホを覗くと利発そうな女の子が美味しそうに寿司を食べている映像が流れていた。その子の目元は……今の賀集さんと同じだった。


「もうそのCMは放送されてないけどね。台詞とかは店内ソングで今でも使われてるんだよ」


 あの頭に残る店内ソングにそんな秘密が……


「あと、私はもう全然覚えてないんだけど、実際の商品も私が食べて美味しいと言ったものしかお店に並んでなかったみたいで……今だと自分の舌で全てが決まっちゃうみたいでお寿司の味がわからなくなっちゃいそう」


 賀集さんの舌が評価されているのはそれが理由か。小さい時の話ではあるけども話が繋がってくるなぁ。

 ……でも賀集さんの口から不味いとかそんな言葉は聞いた事がない。鳥路さんも味覚が鋭いけど二人とも違うタイプなのだろう。


「私がねこまた寿司を好きなのは自分の味覚に合ってるからって言うのも少しはあるけど……一番の理由はお爺ちゃんの言葉」


 賀集さんは軽く咳払いすると、少し凛々しい顔つきになった。


「色んな会社の面倒を見てきたが……ねこまた寿司は俺が自慢できる数少ない会社だ。俺は家族が笑顔で過ごせる空間を生み出せた事が心底嬉しいんだ……って」


 多分、寅治郎さんの真似なんだろうけど、単なる低音ボイスの賀集さんなので似てないんだろうなぁと。でも、笑顔か……美味い寿司は人を笑顔にする、鳥路さんと同じ考え方のようにも感じる。


「私はねこまた寿司の良い所を皆に知ってもらいたい! 私が関係者だからとか抜きに知って欲しかったから……! だから秘密にしてたの! ごめんなさい!」


 俺は正直、賀集さんのその考え方はとても良い事だと思っている。余計な情報は正しい判断の邪魔になる。仮に賀集さんが関係者だったとして、ねこまた寿司が美味しくなかった時に俺は本音で感想を口にすることができただろうか?

 ねこまた寿司は美味しいので不要な心配だったかもしれないけども。先生は何も言わずに頷く。きっと俺と同じ気持ちなのだと思う。

 鳥路さんは……

 

「うん。じゃあ、スシバトルで使うサーモンをどうしていくか決めよう。時間が無い」


「とりっじ!?」

「鳥路さん!?」


 この流れでそれ!?


「鳥路さん? その、今空気的には賀集さんの謝罪を受け入れるかどうかの話で……」


 英語教師の司先生から日本の道徳的な内容の指導が入る。


「賀集さんが謝る事なんて一つも無い。初めて会った時から賀集さんは何も変わっていないのだから。それが分かっただけで十分」


「とりっじ……」


 ……やっぱり鳥路さんには敵わないな。


「はぁ……全く。その前に賀集さんがお寿司握れなきゃ話にならないでしょ。私が教えるわ。それでいい? 鳥路さん」


「お願いします。山本くんは私を手伝って」


「わ、わかった」


 司先生の提案を鳥路さんは同意し、鳥路さんの協力依頼に俺も応じる。

 そうか過去に寿司職人を目指していて現役教師の司先生なら効率よく寿司を学べると言うことか! 鳥路さんの自信はそれだったのか!


「ふ、二日で私もとりっじみたいにお寿司を握れるようになるんですか?」


 賀集さんの心配は当然だけど、鳥路さんと司先生の意見が合っていると言うことは……行けるはずだ!


「無理」

「無理!」


「無理!?」

「無理!?」


 鳥路さんと司先生が即答し、俺と賀集さんがその回答に驚く。

 え、やっぱり鳥路さん無策だったって事!?


「まぁ、でも握れるようにはなると思うわよ」


「司先生!? どっちなんです!? 賀集さんは寿司握れるんですか!?」


 もう訳がわからない!


「握るだけなら難しくない。それに……一番大事な部分は賀集さんならできるはず」


「だ、大事な部分って何なの、とりっじ!?」


「寿司は……心で握る!」


「心で握る!?」


 と、鳥路さん!? 精神論とかの話だよねそれ!? 大丈夫なの!? ねぇ!

 ねこまた寿司のサーモンの情報調べる前にさぁ! 俺はどんな気持ちで作業すれば良いの!?

 

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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