第53話 ネコマタズシクライシス②
前回のあらすじ:
賀集さんがねこまた寿司の偉い人の孫娘だった。
◆◆◆
賀集さんの素性が明らかになりクラス全体が騒つく。
「ナツがねこまた寿司好きなのって親族が経営してるから?」
「何で隠してたんだろ? ステマの方が都合いいから?」」
「それって何かずるくない?」
……そんな声が聞こえてきた。
賀集さんが素性を隠していたことがまるで悪いことのように印象付けられている。
恐らくこれは笹垣さんの作戦。まるで賀集さんが悪役のように糾弾し、賀集さんをクラスから孤立させるのが狙いか? ニヤニヤと笑う笹垣さんを見れば自ずとそんな推理ができてしまう。
「賀集さん、大丈夫。俺達は賀集さんが悪いとかそんなこと思ってないから」
「ごめん、そ、そんなつもりじゃ……私……」
動揺して目が泳いでいる。賀集さんが素性を隠していたのには理由があるはず。
……思えば賀集さんを知る人達は賀集さんの舌に信頼を寄せていた。そこに何か秘密が隠されているのだろう。しかし、今はそんな事どうでも良い!
「あれぇ? 何ショック受けてるのぉ? みんなを騙してごめんなさいってするべきじゃなぁい? そんな事もできないわけ?」
「笹垣っ!」
呼び捨てするぐらいに感情が荒れた。何の目的かは知らないが弱っている人を詰める真似は許せない。
「こわぁ! あ、もしかして賀集さんのこと好きなんだぁ! だからついつい庇っちゃった感じでしょ! 女の子にかっこいいとこ見せたいからって無理しなくて良いのに! キャハッ!」
こいつ!
「てかぁ? あなたもさっきから黙ってないで何か言ったら? 《《寿司警察》》さん?」
笹垣の矛先が鳥路さんに向く。どうやら鳥路さんの噂の事も知っているようだ。
「はぁ……くだらない」
鳥路さんは呆れたように首を横に振る。
「そんな事言っちゃってぇ。負け惜しみぃ?」
そろそろ鳥路さんがキレかねない! でも、ここで怒ったら笹垣の思う壺だぞ!
しかし……鳥路さんの表情は俺の心配とは異なり、驚くほど冷静なものだった。
「好きなものを好きと言って何が悪い。人に何かを薦める事がどれだけ勇気のいる事か。相手の意思にも理解を示し、自分の好きなものに誇りを持ち続ける事がどれだけ凄い事か。お前は理解しているのか? 私は賀集さんを尊敬している。お前のくだらない弁舌は私に全く響かない」
鳥路さんの真っ直ぐな気持ちがクラスの空気を一変させる。
「そ、そうだよね。ナツがねこまた寿司の話する時って本当に楽しそうだったし……」
「義務感とかそんなじゃなかったよな……」
鳥路さんも最初は寿司への強すぎる思いでクラスから少し浮いていた。でも賀集さんがそれを受け入れて気付いたら鳥路さんもクラスに馴染んでいた。賀集さんが色々な人と仲が良いのはどんな強い個性も受け入れられる心の広さのおかげだろう。鳥路さんはそれに気付いている、いや、救われていたのかもしれない。
「は、はぁ? 何かっこつけてるの? 馬鹿じゃないの?」
変わり始めた空気に笹垣から焦りが見える。
「そもそもお前は賀集さんとスシバトルをするために来たのだろ? 早くルールと場所と日時を言え。お前は何をしにここに来た? おしゃべりするためか? 目的を忘れた馬鹿か?」
周囲から笑い声が聞こえ、笹垣の顔が赤くなる。
やはり鳥路さんはレスバが強い……!
「言われなくても今から言うつもりだったわよ! 私と賀集のスシバトル! 勝負のお題はサーモン! 勝負は二日後! 審査員は会場に来た人から五名! 食材は各自調達……ただし!」
大体わかったけどまだ他にルールがあるのか。
「賀集はねこまた寿司、私は寿司王国の仕入れで手に入るネタだけを使うこと! 調味料とかは別に自由だけど、サーモンはその店のものを使う! 良いわね!」
それぞれが属する回転寿司屋の寿司ネタで対決するって事か……それってつまり……
「す、スシバトルだ!」
「ねこまた寿司と寿司王国の代理戦争だ!」
「明後日やるのか!? 塾休むって連絡しないとじゃん!」
俺が何か言う前にクラスメイト達が言ってしまった。
「と、とりっじ!? 私、お寿司握れないよ!?」
肝心な事を失念していた。賀集さんはスシバトラーでも寿司職人でもない!
そもそも受けるべきじゃないだろこの話!
「問題ない。そこの馬鹿に負ける賀集さんじゃない」
鳥路さん!? その根拠はどこにあるの!?
「と、鳥路英莉! 他人事だと思ってそんなこと言ってるんでしょうけど! 私が勝ったらあんたはスシバトルに強制入部よ! 自分の命運を素人に委ねるなんて……ぷぷっ、あったまよわよわぁ!」
笹垣が調子を取り戻してきた。
「取らぬ狸の皮算用とは滑稽だな」
鳥路さんもキレッキレだ。
「ふ、ふん! 吠え面かくのはそっちよ! 私はこの日のために連休中ずっと寿司の握り方を部長から教わっていたんだからね!」
「連休全部? 物覚えが悪いのね」
「うぎいいいいいいいい!」
もう空中戦は鳥路さんの勝ちだろう。相手が悪すぎる。
「ふん! 逃げんなよ! ざぁこ! 退いて! 邪魔!」
集まっていたクラスメイト達を押し退けながら笹垣は教室を出て行った。
「と、鳥路さん、本当に大丈夫なの? あと二日しかないよ?」
「何か秘策があるの? とりっじ?」
不安が拭えない俺と賀集さん。
それに対する鳥路さんの回答は……
「美味い寿司を握って勝てば良い、それだけ」
それができないかもだから聞いてるんだけど!? 鳥路さん!? ねぇ!? 本当に大丈夫なのこれ!?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




