第52話 ネコマタズシクライシス①
楽しいゴールデンウィークが終わり学校が始まる。クラスの中には五月病患者らしき人がちらほらいるけど、俺は至っていつも通りだ。スッシー五巻の衝撃に比べたら休み明けの気怠さなんて些細な問題に過ぎない。
「おはよ」
「おはよう鳥路さん」
鳥路さんはいつも通りか。何なら機嫌が良いまである。俺と輝理のスッシー五巻の感想を摂取した影響か、それとも他に理由があるのか……
「ねぇねぇ鳥路さん! 今大丈夫?」
「聞きたいことがあるんだけどさ!」
「大丈夫」
クラスの女子数名が鳥路さんに駆け寄ってきた。スシバトルの活躍で連休前から鳥路さんはだいぶクラスに馴染んでいる。良い事なのだけどスシバトルというのが何とも皮肉である。
「連休中にオープンした寿司王国行った?」
「行った」
そういえば駅前にオープンしたとか宣伝してたなぁ。確か回転寿司のお店だったかな。で、鳥路さんは既に巡回済みと。ねこまた寿司の一件で回転寿司の抵抗が無くなったらしい。
「どうだった? 美味しかった?」
「回転寿司としては良かった」
高評価っぽい。回転寿司というジャンルの中での話ではあるけど。
「鳥路さんがおすすめなら絶対美味しいやつ! 行かなきゃじゃん!」
「ありがとう鳥路さん! 参考になった!」
女子達が元のグループに戻っていった。朝から元気だなぁ。鳥路さんもそんな感じで彼女達を見ている。それにしても寿司王国か……寿司同好会として視察に行った方が良いのかも。少なくとも寿司は泣いてはいないようだし。
「鳥路さん。寿司同好会で寿司王国の記事でも書いてみる? みんな新しい回転寿司に興味津々だし」
「私は良いけど……」
鳥路さんはあまり乗り気じゃない? いや、鳥路さんの目線の先には自席に座る賀集さんの姿。いつもなら女子グループに混ざって楽しそうにしているのに……少し元気が無さそうだ。
「賀集さんどうしたんだろう」
「寿司王国が前に皆で行ったねこまた寿司からそんなに離れていない場所にオープンしたから……ねこまた寿司のお客さんが寿司王国に取られているみたい」
なるほどそんな事になっているのか。ねこまた寿司ファンガールの賀集さんにとって寿司王国の件は面白い話ではないな……
「じゃあさ、ねこまた寿司特集とかやっちゃう?」
「それが良い」
鳥路さんは俺の提案を快諾してくれた。
「……それに寿司王国にねこまたロールは無い」
どういう意味だ? そりゃ別のお店だからあるわけないと思うのだけど……
ああ、司先生が来ちゃった。昼休みか放課後にでも賀集さんに話してみよう。
◇◇◇
昼休み、お弁当を広げるか購買に向かう生徒で大体二分される。たまに睡眠時間に費やしている生徒もいるけど……その日に夜更かしをしたとかで一時的なものだと思う。 寿司同好会メンバーは全員弁当派、俺と鳥路さんは席も隣なので一緒に食べる日が多い、たまに賀集さんが参戦する時もあるけど賀集さんは色んなグループをローテしているような感じだ。俺と鳥路さんには無いコミュ力の高さを感じる。
そんな感じで普段は受け身な俺達だが、今日は賀集さんとお昼を一緒に食べる理由がある。俺も男を見せるか……と立ち上がった時には鳥路さんが賀集さんを連れてきて俺の机に近くの机をくっつけて場が完成していた。俺は弱い。
「とりっじから誘ってくれるなんて珍しいね!」
いつも通りの賀集さんに見えるが、その表情には僅かに陰りが見える。基本表情筋が動かない鳥路さんと一ヶ月隣にいたので人の感情の機微に聡くなったのかもしれない。さて、ここは俺から話題を振るべき……
「寿司王国の進出とねこまた寿司の状況に悩んでる?」
鳥路さんが俺より先に賀集さんに聞きたいことを聞いてしまった。俺は遅い。
「え? いや、そんなんじゃなくて! ちょっと寝不足というか……」
鳥路さんは何も言わずに賀集さんを見つめる。そんな嘘は私には通用しないと言わんばかりの圧だ。
「……賀集さん、俺達は寿司同好会の仲間だろ? 悩みがあるなら相談して欲しい。それに仲間や友達を頼るべきだって初めに言ったのは賀集さんじゃないか」
鳥路さんが俺の言葉に同意するように頷く。
「山ちゃん……ごめん、そうだね。自分が言ったことには責任持たなきゃね!」
表情に自然な笑みが戻った賀集さん。それを見て俺は少しだけほっとした。
「とりっじが言ってくれたけど、ねこまた寿司のお客さんが寿司王国に取られているみたいなの。どっちも回転寿司ではあるんだけど、寿司王国の方が近い値段でクオリティが高いみたいで……」
やはり寿司王国が原因か……俺は行ったことないけど、鳥路さんの感想と賀集さんの話を聞く限り味に問題がないところか高品質な寿司を提供しているようだ。
「でも、ねこまた寿司だって安くて美味しい安心安全なお寿司でしょ? 今はオープンしたばかりで向こうが有利かもしれないけど、時間が経てばねこまた寿司にもお客さんが戻ってくるんじゃない?」
素直に思ったことを賀集さんに伝える。ねこまた寿司だって鳥路さん認定のお店だ。一応。
「そうだと良いけど……」
賀集さん的にはそういう問題ではないらしい。寿司王国は強力なライバル店というところか。
「賀集さんはどうしてねこまた寿司が好きなの?」
「それは……」
鳥路さんの問いに賀集さんが一瞬だけ目を逸らした。安心安全自由な寿司が好きだからという理由以外に何かあるのか?
「寿司同好会の賀集七津はいるぅ?」
扉の方から賀集さんの名前を呼ぶ女子の声。しかも寿司同好会名義ということは……嫌な予感がする。声に気付いて振り向いた賀集さんと目が合ったらしく、その女子はまっすぐに俺達のいる席に近寄ってきた。
「賀集七津! この私、笹垣志苑とスシバトルで勝負しなさい!」
やっぱりスシバトルだ! でもなんで賀集さんなんだ!? 賀集さんはスシバトラーでも寿司職人でもないぞ!?
「笹垣さんよ! 寿司王国の社長の娘さん!」
「性格はアレだけど可愛いよなぁ……」
クラスメイトの会話が耳に入る。この垂れ目で人を見下していそうな女子が寿司王国の社長の娘!?
「さ、笹垣さん? なんで私なの?」
当然困惑する賀集さん。スシバトルの気配を感じて身構えていた鳥路さんも首を傾げている。
「なぁにとぼけてるのよ。てか、その感じだとそこのアホ面二人も知らないのね? かわいそー!」
少なくとも鳥路さんはアホ面ではないと思うけど。それより俺達が知らないって、何のことだ? 賀集さんがねこまた寿司のファンって事ぐらいしか知らないのも事実だけど。
「……ねこまた寿司が好きな女子高生。賀集さんはスシバトラーじゃない」
鳥路さんが笹垣さんを睨む。
「ぷっ! あはは! 本当に知らないんだぁ! 友達に隠し事なんてサイテー!」
嘲笑う笹垣さん。隠し事……賀集さんが?
「その女はねぇ! ねこまた寿司の百鬼ホールディングスの会長、賀集寅治郎の可愛い可愛い孫娘なのよ! ねこまた寿司が好き!? そりゃそうでしょ! 大好きなお爺様の会社なんだから! 正体隠してねこまた寿司のステマまでしちゃって! あ、ダイマ? どっちでもいいか! あはっ!」
賀集さんがねこまた寿司の会長さんの親族!?
ほ、本当なのか? 笹垣さんの嘘ってことも……
しかし、賀集さんは笹垣さんの言葉を否定する事もなく、何も言わずに俺達から目を逸らすのであった。
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




