第48話 スシガールズホリデー①
ゴールデンウィーク! 高校生の俺達に取っては新学期の初動を癒す大型連休だ!
少し遠出するのも良いだろう! まとまった時間を趣味に費やしたって良い!
この俺! 山本葵のゴールデンウィークの過ごし方は……!
「お兄ちゃーん! 買い物付き合ってー! 夏服買いたいの!」
妹の輝理が俺の顔を覗き込むように話しかけてきた。
「見てわからないか妹よ。俺は今とても忙しい」
「……ベッドの上で暇そうにスマホ弄ってるようにしか見えないけど」
とても暇をしていた。俺も鳥路さん達のスッシーコラボカフェに便乗すれば良かったか? いや、あのスッシーファンガールズの会話に耐えられる自信がない! そもそも何日に行くか知らないし!
「仕方ないなぁ……てか買い物って一人で行けるだろ? 俺いるか? 友達と行けば良いだろ」
「友達以外の客観的な視点が欲しいの! それにお兄ちゃんは無駄にセンス良いから頼ってるんだよ!」
無駄にセンス良いって……褒めてるのかそれ?
「はぁ……そんな事言って俺になんか奢らせるつもりだろ? 今日はなんだ? クレープか?」
「へへ……正解!」
そういうのは少しぐらい隠すもんだぞ妹よ。
「しゃあないな……準備するから待ってろ」
「やった! お兄ちゃん大好き!」
そう言って輝理はドタドタと俺の部屋から出て行った。
中学になったら兄離れするもんだと勝手に思っていたけど、輝理にその時期は一向にこない。俺が甘いのもあるかもしれないが……月一のおねだりぐらい可愛いもんだし。別にベタベタに甘えん坊でもないし気にしなくても良いだろう。ここは仲良し兄妹ってことで。
俺はベッドから伸びをしながら起き上がり、街に行く準備を始めた。
◇◇◇
輝理の服選びは結構難航したが、最終的に満足の行く夏服を買えたようで何よりだ。俺は色とか柄とかに対してそれっぽいコメントをしていただけなんだけどな……本人が良いなら良いだろう。
「クレープいこ! クレープ!」
ご機嫌の輝理に腕を引かれてクレープ屋へと向かう。俺も折角街に来たんだし、本とかゲームとか覗いていきたいが……クレープ食べてからでも良いか。
ふと視界に入ったゲーセンのクレーンゲーム機に大きなスッシーのぬいぐるみが見えた。俺が知らなかっただけで人気キャラなんだな……鳥路さんはカバンに一つだけキーホルダーをぶら下げていたけど、部屋の中はスッシーグッズまみれだったりするのだろうか。
ちょうど一人の女の子が大きなスッシーにチャレンジしている。クレーンゲームのガラス面に顔を近づけたり、角度を変えたりして、かなり真剣に……
「鳥路さん!?」
「え!? ああっ!?」
俺の声で驚かせてしまったのか、鳥路さんが操作するクレーンはスッシーの背中にめり込んだだけで微動だにしなかった。
「ああああ……」
クレーンゲームにもたれ掛かる鳥路さん。予算はかなり厳しいことになっているっぽい。
「ご、ごめん鳥路さん」
「気にしないで……」
それだけ落ち込まれると気にしないのは無理があるよ……
「寿司屋のお姉ちゃんじゃん。そのスッシーが欲しいの?」
輝理に気づいた鳥路さんはハッとした表情を見せ、高校生としての威厳を保つためにスッと立ち上がる。
「すごく……! 欲しい……!」
が、マジで欲しいんだなという悔しさが滲み出る感じで話す鳥路さん。年上としての威厳はあまり感じない。
「お兄ちゃん取ってあげたら?」
「ええ? 取れるかなぁ」
妹に言われ鳥路さんが狙っていたクレーンゲームを覗いてみる。
つっかえ棒に乗ってるタイプか。鳥路さんが頑張った跡が見える。
「結構惜しいところまで来てるな……数回やればいけるかも。俺がやってもいい?」
「い、良いけど……」
鳥路さんに許可を得てクレーンゲームに五百円分入れる。
スッシーの重心を考えて焦らずに取れる体勢に持ち込む。追加投入はしたくないが確実に丁寧に……
ゴトンとスッシーが取り出し口に落ちた。
「おおおお!?」
鳥路さんから珍しく興奮した声が聞こえる。
「さすがは私のお兄ちゃん! 狙った獲物は逃さない!」
輝理にねだられている内に勝手に鍛えられただけなんだけど……役に立って何よりだ。
「よいしょ……はい」
取り出し口からスッシーを出して鳥路さん前に差し出す。
「え、山本くんが取ったものだし……」
「鳥路さんのために取ったんだから受け取ってよ。あと俺の部屋にこいつを置く場所が無いから困る」
「でも、ほら、お金とか……」
あぁ、しまった。妹のおねだりの感覚で投資したからその辺の事を考えてなかった。鳥路さんは普段から大胆に行動する事が多いけど、その辺の配慮は欠かさないような人だし……とはいえスッシーは受け取ってもらいたい。
「そうだ! クレープ奢ってよ! この後妹に連れて行かれる予定だったんだ。それと交換って事で! だから、はい!」
再びスッシーを鳥路さんの前に出す。
少し困った様子を見せる鳥路さんだったが、俺目線での等価交換に納得してスッシーを受け取ってくれた。
「……ありがとう、山本くん」
嬉しそうにスッシーをぎゅっと抱きしめる鳥路さん。スシバトルとか寿司が関わらなければ普通の女の子なんだなぁと俺は改めて思った。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




