第206話 カースドツインズスシナイヴズ前編⑥
前回のあらすじ:
決勝第一戦は太刀魚勝負!
◆◆◆
白蛇と黒鷲、色も形も異なる包丁によって太刀魚が同じように捌かれていく。
「白蛇の嬢ちゃんは丁寧な仕事だが、黒鷲の姉ちゃんはそれに加えて早さもあるな……」」
「柳刃包丁で解体なんて狂気を感じるぜ!」
「実力で勝ち取った継承者ですものね……技量が違うわ」
ギャラリーが心陽さんの作業を見て感嘆の声を漏らす。
頭を落としたり、骨を切ったりする作業は本来柳刃包丁の領分ではないが、
見た目が柳刃なだけで用途が出刃の黒鷲には容易い作業なのかもしれない。
一方、鳥路さんの白蛇は用途が柳刃。実物を見ても刃が薄く、出刃用途で使うと刃こぼれしそうな感じに見えた。それでも流石は伝説の呪われた包丁。この数戦を戦って白蛇に刃こぼれが一切無かったと鳥路さんが教えてくれた。
「さぁさぁ! 太刀魚がいい感じに切り分けられましたよ! 水分を取って、先に切りつけに入ったのはイナリスカウトさん! 少し遅れて鳥路さんも切りつけに入っていきます!」
司会者が実況する通りの状況。早握り対決でも無いし、どちらが早いかは重要な要素ではないけれど、こうやって実力差が見えてくると俺なら焦りを感じてしまうだろう。
……鳥路さんはいたって冷静だ。自分の作業に集中している。
「鳥路さん! 皮目を上にして、細く切り込みを入れていきます! 太刀魚は皮が美味しいので皮ごといく感じでしょう!」
鳥路さんの技量の高さもあるけど、白蛇の得意分野だけあって、等間隔に綺麗な切り込みが入っていく。
「一方でイナリスカウトさんは皮目に少し大きめの切れ込みを入れています! え?」
司会者のトークが止まる! 心陽さんが何かした……調味料スペースから持って来たのは白い粉!? パッケージ的に片栗粉!? それを切れ込みを入れた太刀魚に薄くまぶしている!?
「い、イナリスカウトさん! 完全に揚げ物か焼き物の工程だー!」
騒めくギャラリー!
司会者の予想通り、心陽さんはフライパンを取り出して、オリーブオイルを敷いて火をつける!
塩を振って、少し太刀魚を休ませていた鳥路さんも心陽さんの様子を見て、驚いた表情を見せる!
そして、心陽さんはフライパンの上で片栗粉をまぶした太刀魚を焼き始める!
ズームで拡大して見た感じ、油多めの揚げ焼きか!
「太刀魚の唐揚げのお寿司かニャン!?」
「ふっくらして美味しいと思いますが……大胆ですね」
鯖江さんと斉藤先生も心陽さんの迷いのない加熱調理に驚いている。
ウナギとかアナゴも完全に焼いたり煮たりで火を通すけども……揚げるのは考えた事もなかった。回転寿司のフライメニューじゃあるまいし……
さっと揚げ終えた太刀魚を金属トレイに回収した心陽さんは、今度はボウルを取り出して、お酢や砂糖と塩を混ぜ始める。材料的に寿司酢? 寿司酢にこの継承戦でよく見る酢橘の果汁も加え、密閉できる保存袋に注ぐ。
その液体の中に細く切ったショウガとミョウガと……揚げた太刀魚!? 入れちまったぞ!?
「こ、この調理方法は、マリネ! マリネですか!? 寿司なのに!?」
司会者どころか会場全体が驚愕する!
しっかり密閉した袋を氷水の中に入れ、待機を始める心陽さん!
なんだこれ!? こんなスシバトル知らないぞ!?
「火を通した太刀魚の身は柔らかくなるが、味も同時にぼやけてしまう……マリネで味をしっかり付けることで、そこを補おうとしているのか……!」
寿司王が心陽さんの調理の意図を読み解く! そんな効果が!
鳥路さんの方も塩でしっかりした味を付けつつ水分を取るような調理をしているし、太刀魚自体がそこまで味の強くない食材なのかもしれない。
素材の味か、マリネの力か……どうなるんだ、この勝負。
互いに待ち時間が発生した事で会場が静かになる。実際には話し声は聞こえてくるけども、序盤の盛り上がりが嘘のような静けさだ。
「鳥路さんが先に動きます! 浮かんだ水分をしっかり拭き取り……握ります!」
鳥路さんが通常の本手返しで丁寧に太刀魚の寿司を握る。
皮目の隙間から見える白い身が模様のようで面白い見た目の寿司だ。
三貫を握り終えると、ガスバーナーを取り出す鳥路さん! 炙りだ!
「鳥路さんも加熱調理! これは皮を炙る感じでしょうか!」
司会者の実況と同時にガスバーナーの炎が太刀魚の寿司に襲いかかる。
皮が焦げ、太刀魚の身がより白く変化する。がっつり火を通す感じだ!
「これは長めの炙りでは無いでしょうか! 鳥路さんは新鮮な生の太刀魚とこんがり焼いた皮のコラボレーションで勝負! 当然ですがマリネとは全く違う寿司になりそうです!」
鳥路さんは更に太刀魚の寿司の上に少量の醤油をかけて焦がし醤油にしてから、ガスバーナーの火を止めた! 焦がし醤油の香ばしさは万能調味料だ!
出来上がった寿司の上に酢橘を一切れ乗せ……鳥路さんの太刀魚の寿司は完成だ!
心陽さんもマリネ液から揚げた太刀魚を取り出し、キッチンペーパーで余計な水分を取る。そして、小手返しで手早く三貫を握り終える! その上に一緒に浸かっていた細切りのミョウガだけを乗せ……心陽さんの寿司も完成!
それと同時に試合終了のブザーが鳴る! 時間配分も完璧だ……! やはり司先生とやり合ってたスシバトラー、戦い慣れている!
「両者の寿司が無事完成しました! 果たして審査員はどちらの寿司を選ぶのか……! スタッフさんよろしくお願いします!」
司会者の指示で会場のスタッフが鳥路さんと心陽さんの寿司を審査員の前に運んでいく。
大事な一戦目……ここで勝てば、精神的に有利だ! 会場全体が審査員の反応に注目する!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




