第207話 カースドツインズスシナイヴズ前編⑦
前回のあらすじ:
マリネされた寿司と炙りの寿司の対決。美味い方が勝つ。
◆◆◆
鳥路さんの太刀魚の炙り、心陽さんの太刀魚のマリネ……審査員はどちらから食べるのだろうか。
「……先に鳥路くんの寿司を頂こう。マリネの方が味が濃いはずだ」
寿司王が鳥路さんの寿司を手に取ると、他二人も寿司王にならって鳥路さんの寿司を手に取る。小さな酢橘の一切れから果汁を搾り終えると、三人はほぼ同時に鳥路さんの寿司を口に入れた。
「……これは……美味しいです! 焦がし醤油の香ばしさと太刀魚の皮目の脂の甘みを引き立てています! 長く炙ったことでふっくらとした身と食感を残した身も絶妙!」
斉藤先生は絶賛! いいぞ!
「醤油の香りだけじゃなく酢橘もシンプルな太刀魚を美味しくしているニャン! 臭みもなくて何個でもいけちゃう奴ニャン!」
鯖江さんも突破! これは行けるぞ!
「皮目を表にし、しっかり包丁を入れて食感にも拘っている! 職人魂を感じる素晴らしい仕事……! ここまで勝ち残ったのも頷ける美味い寿司だ!」
寿司王も褒める! 凄いぞ、鳥路さん!
三人の審査員から高評価が出てギャラリーも盛り上がる!
「さ、さすが決勝だ! 美味い寿司は当たり前って感じだぜ!」
「私も食べたいわ!」
「これは……白蛇の子の勝ちだな……!」
ギャラリーも鳥路さんが優勢と判断しているようだ。
まだ勝敗はついていないけど、この評価を覆すのは難しいはずだ。
……マリネの寿司という回転寿司でもあまりみないスタイルの寿司がどこまで評価されるのか。唯一の心配はそれを握っているのが心陽さんだと言う事。
いつもの事だけど鳥路さんの表情は緩んでいない。勝負はここからだ……!
「えーっと、次はイナリスカウトニャンの寿司ニャンねぇ……マリネというか南蛮漬けに近いのかニャア……?」
鯖江さんの言う通り、揚げた太刀魚だし南蛮漬けの方がジャンルは近いな……そう考えると有りなのか?
三人の審査員が心陽さんの寿司を食べ始める。
さぁ、どうなる……? 美味いのか、心陽さんの寿司は……!
静まる会場。
静寂を破る形で……寿司王が立ち上がる。
「美味い!」
たった一言。そこに込められた思いはあまりにも俺達には重い一言だった。
「シャリの味を殺さない繊細な揚げた太刀魚のマリネ……! シャリに合う配合や漬け時間をこの場で見つけたのですか!? それに酢橘の酸味とショウガのほのかな辛味とミョウガの香りが調和して脂っこさを感じさせない……! マリネしたことで余分な油も落としているのね!? な、なんて凄い寿司なの!?」
斉藤先生が驚愕しながら心陽さんの寿司を褒め称える。
「火を通したふっくら感は維持してるのに、味付けはしっかり……気分も爽やかになる美味しい寿司です!」
鯖江さんの口調から「ニャン」が消える! キャラ付けを忘れる美味さなのか!?
「多くは語るまい……見事な逸品だ」
騒めく会場! その原因は寿司王が立った事にある……!
「おいおい……寿司王のおっさん、また立ち上がったぞ……」
「そんなにうめぇのか、あの南蛮漬けの寿司……」
「これは……黒鷲の姉ちゃんの勝ちだな……」
そんな声が周囲から聞こえてくる。これは……かなりまずい……!
「こ、これはどうなるのでしょうか!? 審査員の方々! 美味しかった方の札を上げてください!」
司会者の一声で審査員が一斉に札を上げる!
三枚全てが……イナリスカウト!
か、完敗だと!? 会場も心陽さんの圧倒的勝利に湧き上がる!
「うおおおお! 鳥路の寿司も絶対美味い奴なのに、あの狐野郎はそれを超えてきやがった!」
「流石は黒鷲の継承者ね……!」
「あんな調理法の寿司を完璧に提供するなんて、どんな腕前なんだよ!」
ギャラリーも認めざるを得ない心陽さんの実力。
イナリスカウトの姿でも腕前は本物なのだ……!
「鳥路くんの寿司はとても素晴らしい太刀魚の寿司だった。だが、イナリスカウトくんの寿司は太刀魚の強みを生かしながら、弱みを潰し寿司としての完成度をより高くしたものだった」
寿司王が審査の意図を説明する。斉藤先生も鯖江さんも頷いているので似たような感想なのだろう。
鳥路さんも負けてはいないが……心陽さんはそれを超えてきている……!
鳥路さんの額に一筋の汗が流れる。動揺している……!?
「鳥路さん! まだ負けてない! 次、取り返そう!」
鳥路さんは振り向き、力強く頷き、再び前を向く。大丈夫、まだ負けてない!
「いきなりレベルの高い寿司が激突! イナリスカウトさんがまず先取! 鳥路さん、後が無いぞー! まずはイナリスカウトさん、意気込みをどうぞ!」
次負ければそこで終わり。勝てば勝負は続行だ。鳥路さんも二本で終わるなんて甘い覚悟で挑んでない! それに鳥路さんは逆境に強い……!
司会者のマイクが狐の仮面にぶつかる。司会者の人、テンション高くなると絶対これやるな。
「相手は諦めている……と言う目ではない。次も油断せずに寿司を握るまで」
心陽さんに油断は無い!
「いいですねぇ! 続きましてぇー……鳥路さん! いかがですか!?」
二人の距離が離れているのにマイクを持って走る司会者。元気だなこの人。
そして、鳥路さんは司会者のマイク攻撃を回避。冷静だ!
「……次は絶対に勝ちます」
鳥路さんの勝利宣言! 勝つしかないから、そう言うしかないけど! 言えるかどうかはとても大事だと思う!
二人のマイクパフォーマンスにギャラリーも満足気に歓声を飛ばす!
「それでは、次のお題にいきましょう! モニターにご注目!」
司会者の誘導で会場の全員がモニターに注目する!
モニターに映った魚は……魚じゃない。岩? いや、これ貝か!?
「決勝二戦目は岩牡蠣だー!」
岩牡蠣っ!?
「牡蠣って冬じゃないんですか!?」
「岩牡蠣は夏が旬よ、山本くん。冬は真牡蠣ね」
俺の疑問に即答する司先生! 知らなかった……牡蠣に種類がある上に季節も真逆とは……
ま、まぁ、鳥路さんなら大丈夫だろ……
「い、岩牡蠣を、寿司に!?」
鳥路さんが困惑している!? 岩牡蠣って寿司に向いてないの!?
「岩牡蠣自体が旨味の塊。シャリと合わせるメリットがないとも言えるほどにね……とんでもない食材を出してきたわね……!」
そうは言いながらも嬉しそうな司先生。スシバトラーの血が騒いでいるのか?
心陽さんは狐のお面のせいで何考えてるかわからないし!
ど、どうなるんだこの勝負!? 大丈夫だよね!? 鳥路さん!?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




