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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
203/205

第203話 カースドツインズスシナイヴズ前編③

前回のあらすじ:

またしても大きく見た目が異なる寿司対決……勝つのは涼葉さんかイナリスカウト(紫さん)か……


◆◆◆


 審査員の三名が涼葉さんの寿司の審査に入る。

 カワハギの身の上に肝が乗っているだけに見えるけど、握られたことで滑り落ちるような様子は感じられない。審査員は添えられた酢橘を絞り、醤油を少し付けてから、涼葉さんの寿司を口に入れる。


「これは……美味しいですね! 鮮度の良いカワハギの肝を大胆に乗せて、カワハギの淡白な味を補い、その身が食感を与えて噛み締めるほどに美味しい寿司です!」


 斉藤先生は高評価だ!


「異なるネタを握りで融和させ、甘みと旨みを酢橘で引き締める……よく出来た寿司だ! 美味い!」


 寿司王からも高評価を得ているが、涼葉さんはどこか不服そうな表情を見せている。

 ……立ち上がらなかったからか? いや、食事中に立ち上がるのってあんまりよくないし、寿司王も我慢してると思うんだけど。それでも立ち上がるレベルって事なのかな?


「うーん、どうしても肝が生臭いけど、肝ってそういうものだしニャア……でもでも味はバッチリ美味しいニャン! 今まで食べたカワハギの寿司で一番美味しい!」


 鯖江さんは肝が苦手なのか。魚を捌いているチャンネルだからその辺は平気なものだと思っていたけど。あ、でも、好きなネタが酢で臭いを消してるしめ鯖だっけ……好みの問題かな?


「涼葉さんの寿司は審査員に好評のようです! それでは続けてイナリスカウトさんの寿司に行きましょう! お願いします!」


 司会者の進行に従い、審査員が紫さんの寿司の皿を手に取る。海苔の代わりに薄く切ったカワハギの身を使い、その中には液体というかペースト状の肝が入っている。


「変わった形ですが……軍艦という事で良いのでしょうか?」


 斉藤先生がそんな感想を漏らす。


「むう……へたらない程度の絶妙な厚み、それに隠し包丁で噛み切り安くしているね。高い技術が無いと作れない軍艦だよ、これは」


 寿司王が寿司に使われている技術を褒める。


「まぁ、美味しければ何でも良いニャン!」


 さ、鯖江さん! それはそうなんですけども!

 緊張が解けすぎて、自然体になりすぎているんじゃないか!?


 それにしても、見た目だけでも異質な寿司だ。同じ食材だから味はほぼ同じはずだけど……審査員が紫さんの寿司を口に入れる……!


「はわっ! 旨みが一気に口に広がってから、もみじおろしがピリッとアクセントになって……お、美味しいわ!」


 斉藤先生が高評価を出す。はわっとか言うんだな……


「うっ!」


 寿司王が立ち上がりそうになるのをグッと堪える! 鳥路さんの寿司が不意打ちだっただけで、普段から結構耐えてるんじゃないか、この人!?


「美味い……! 奇天烈な見た目からは想像できない完成度の高い寿司……! 口の中でカワハギが泳ぎ回っているような、それにこれは……」

 

 寿司王がなぜか鯖江さんの様子を伺う。


「美味しいニャン! 肝の臭みが全然なくて、美味しいカワハギの寿司一位が更新されたニャン!」


 鯖江さんが文句無しの高評価を出す! 

 鯖江さんの反応を見て、ギャラリーが湧き上がる!


 臭みが無い!? 同じような食材だぞ!?

 肝に何か差があったのか!?


「な、何で!?」


 涼葉さんが鯖江さんの反応に困惑する! 俺と同じ事を考えていそうだ。


「……」


 紫さんは特に対戦相手用の寿司を握っていないようだ。静かに審査結果を待っている。


「ほぼ同じカワハギだったのに、なぜ、こは……あなたの肝だけが臭みを感じさせなかったんですか!?」


 涼葉さんが食いかかる。そして、イナリスカウトの本名を言いかけた。特に誰も気にしていないようだから良いか……何で鯖江さんはちょっと驚いてるんだ? 鯖江さんは紫さんと面識は無いだろうし、イナリスカウトとも会った事が無いはずなのに。

 涼葉さんの問いに対し、紫さんは無言でまな板の上を指差す。なぜ急に無口キャラに。

 まな板の上にはカワハギの肝がまだ残っている。三貫分だから余るだろうけど……いや、よく見ると薄皮のような破片が混ざっている所とそうでない部分で分かれている。


「単純に叩いていただけじゃなくて、その間に臭いの原因となる薄皮と血管を除いていたのですか……!?」


 涼葉さんがそれを見て答えを導き出した! 頷く紫さん! あのシンプルな工程でそんな細かい所まで!? これにはギャラリーも驚きの声を上げる!

 

「それに加えて、もみじおろしの大根の成分が化学的に臭みを消してきている……徹底して生臭さを除去する調理……! この鮮度の肝でも完璧な下処理を怠らないとは……そして、それを見抜くシメサバキャットくん、見事だ……!」


 寿司王が紫さんの寿司に補足を入れる。もみじおろしにそんな効果が……そして株が上がる鯖江さん。ギャラリーからも鯖江さんを褒める声がちらほら聞こえてくる。

 ……鯖江さんが一番何もわかっていない顔してるんだけど、気にしない方が良いかな。


「涼葉も表面の薄皮と血管は除きましたが、寿司にする関係で中までは……! ペースト状にしたのは、裏ごしのため……しかも包丁だけで! す、凄い……!」


 涼葉さんが紫さんの技術を素直に認める。裏ごしってザルとか使うんだよね? 包丁だけでできるの? いや、できてるのか……すごく繊細な作業になるはずなのに。


「これは……涼葉の完敗ですね……」


 涼葉さんが負けを認めてしまった! ま、まだ、審査員が審査結果を出していないのに!


「え、ちょ、審査員の方、美味しかった方の札をどうぞ!」


 司会者が慌てて審査員に審査結果を求める!

 審査員も少し慌てながら一斉に札を上げる!


 全員が……イナリスカウトの札!


 ギャラリーから盛大な拍手が送られる!


「あの若さで素直に負けを認められる度量……お孫さんは今後伸びるぞ!」


「あの狐のお面の人も凄いわ……! お孫さんも相当な腕なのに、レベルが高すぎる!」


「料理と寿司の専門家を出し抜いて、生臭さを指摘したストリーマーやばくね?」


「ああ、帰ったらチャンネルをチェックしないとだな……」


 涼葉さんの完敗だけど、涼葉さんはとても清々しい表情をしている。

 今出せる実力は出し切ったという感じだろうか。涼葉さんは紫さんのスペースに歩み寄り、 右手を差し出し握手を求める。

 イナリスカウトもそれに応えて涼葉さんの右手を握る。

 爽やかなスシバトルの決着に会場からさらに大きい温かい拍手が送られた。

 

「流石です。心陽お姉様……腕は衰えるどころか、さらに磨き上がっていると感じました……!」


「……私は単なるイナリスカウトです。あなたも見事な寿司でした。普通の審査員ならどちらが勝ってもおかしくなかったわ」


 涼葉さんが下の名前を言ってしまった。紫さんはシラを切る感じだけど、ちゃんと涼葉さんの寿司を褒める。


「あー!」


 鯖江さんが紫さんを指差しながら叫ぶ! な、なんだ!?


「やっぱりマネちゃんだニャン! 榎本えのもと心陽こはるさんだよね! 昨日と今日はお休みって言ったけど、どうしてそんな変なお面を付けてこんな所に!? ニャン!」



 鯖江さんがとんでもない事を言い出した。

 むらさき心陽こはるじゃなくて、榎本えのもと心陽こはる!?


 榎本さんって確か、鯖江さんのマネージャーさんで……俺と鳥路さんも一度会っている……榎本さんはメガネを掛けてて……あ! 雰囲気は全然違うけど、メガネを取り除いたら……紫さんに似ていたかもしれない……!


 でも何で苗字が違うんだ!?


 つ、司先生! それか有識者の人! 誰か助けて!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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