第201話 カースドツインズスシナイヴズ前編①
笹垣姉の事は妹の志苑に任せ、継承戦の会場に走って戻る。
試合開始はこれからって所らしく、俺が思っていたよりも進行していなかった。
「金星さん! ごめん、間に合っちゃった!」
「あら、お帰りなさい。折角ですしこの試合は私が撮影してもよろしいですか? 触っている内に、ちょっと楽しくなってきましたの!」
目を輝かせながら撮影係を買って出る金星さん。
単純に撮ってみたいだけのようだ。
「それじゃあ、お願いしようかな!」
「お任せくださいまし!」
フレベも別に誰が撮るかまでは指定してなかったし。
金星さんの持つカメラからズーム操作の音が聞こえてくる。本当に楽しんでるな……
「それより、なんかトラブル? てっきり始まってるものかと」
飲み物を飲んでいた賀集さんに状況を確認する。司先生は……トイレかな?
「ほら、審査員の粕田さんが退場しちゃったから。代わりの審査員を急遽用意しなきゃならなくなって。でも、ほらみて!」
賀集さんが嬉々として審査員席を指差す。
そこにはガッチガチに緊張した面持ちで鯖江さんが座っていた。
「し、シメサバキャットさんがなぜ!?」
「勅使河原さんがシメニャンを知ってたみたい。で、会場にいるのを見つけてシメニャンを臨時審査員に任命したの! 寿司王も認める包丁の腕って事で今ネットで盛り上がってるよ!」
思わぬ形で有名になっていくのは、鯖江さんはそういう星の下に生まれているんだろうな……配信者向けっちゃ配信者向けだし、天職なんだと思う。でも、包丁の腕前だけは鳥路さん以上だったしなぁ……なるべくしてなったって事で良いんじゃないかな!
会場の中央では涼葉さんとイナリスカウトの格好の紫さんが待機している。涼葉さんは少し緊張しているような雰囲気があるけど、紫さんの方は落ち着いているように見える。仮面で紫さんの表情は見えないけど。
「そうだ。司先生は?」
「とりっじの白蛇の練習の付き添い! 近くのスーパーでお魚とか買ってきて練習するみたい!」
「ああ……なるほど。それもそうか」
……銀座のスーパー? 並んでいる商品が全部高そうな印象なんだけど、司先生の財布は大丈夫なのだろうか?
「皆様! お待たせしました! トラブルこそありましたが、継承戦を再開します!」
ステージ上の司会者のアナウンスで盛り上がる会場。今更だけど元気だな、この人達……
「えー、それではまず、審査員の粕田さんの代わりに審査をしてくださる事になりました、今寿司界隈で最も注目されているストリーマー! シメサバキャットさんから一言お願いします!」
鯖江さんの頬に司会者のマイクがめり込む。
鯖江さんは震える手でマイクを受け取り、挨拶代わりにハウリングをかます。
相当緊張しているようだ……
「え、えー。この度は、このような場に、立たせていただき、畏れ多いというか、はい。精一杯審査員として粗相をしないように努めますので、どうぞ皆様よろしくお願いいたします。あ、ニャン」
会場から生暖かい拍手が送られる。頑張ってくれ、鯖江さん……
「さぁ、継承戦第二回戦、第二試合! 謎大き狐面! イナリスカウトさんと! 寿司王の孫にして天才寿司職人の卵! 勅使河原涼葉さんのスシバトルです! この勝負に勝った方が決勝で鳥路英莉さんと戦う事になります! ワクワクしますねぇ!」
会場に活気が戻った。俺達としては涼葉さんに勝ってもらうのが一番良いのだけど、エンタメの目線だと白蛇vs黒鷲を見てみたいという感情もある。とにかく、このスシバトルのレベルは間違いなく高いはずだ。しっかり目に焼き付けておこう。
「注目のお題ですがー……じゃん! カワハギです!」
俺でも知っている魚だ! 肝が美味しいんだよな! 食べた事ないけど!
「カワハギかぁ! この時期だと身が美味いんだよなぁ!」
「夏は肝より身が美味いからな!」
ギャラリーからもそんな声が聞こえてくる。肝は旬じゃないらしい。それよりも、スシバトルの一番の問題点は見ている側も寿司を食べたくなる事である。会場全員分握るのは労力が凄まじいし、無理なのはわかっているんだけど……こうして寿司屋に観客を誘うのが金星さんの狙いか?
会場のスタッフの手で、涼葉さんと紫さんの前にカワハギが置かれる。二人とも特に何も言わないと言う事は鮮度的には問題はない感じかな。
「制限時間は30分! それでは……スシバトル、開始です!」
開始の合図と共に涼葉さんと紫さんはカワハギを掴んで頭の辺りに包丁で半分ぐらいまで切れ込みを入れる。は、早い!
そのまま頭を引きちぎるように引っ張ると、内臓が綺麗に取り出される。白くて大きいのが肝? 旬じゃない割には美味しそうだけど……違うのだろうか。
「お、おい、どっちのカワハギも立派な肝だぞ。夏なのに珍しい!」
「まじだ。審査員は運がいいなぁ!」
「それか養殖かもしれないわね。私、夏は養殖の方が美味しいと思うわ」
夏の天然のカワハギとしてはレアな状況らしい。というか養殖されてるんだ。解説の司先生がいないから、雰囲気で理解していくしかないな……
涼葉さんと紫さんが包丁を使わずに手でカワハギの皮を剥ぐ。こんなに綺麗に剥けるものなんだ。ああ、だからカワハギなのか。
……ここからは包丁の腕の見せ所になりそうだ。
肝が立派なカワハギ! 二人がどんな寿司を握るのか会場全体が注目している!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




