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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
200/206

第200話 アンフォゲタブルスシ⑤

前回のあらすじ:

笹垣志苑、キレた!


◆◆◆


「いつもいつもいつも! 自分勝手! 私が何を考えてるかなんて考えた事も無いんじゃないの!? あったら私に弱みなんか握られないもんねぇ!」


「なっ……」


 姉の前では大人しかった志苑が怒りを爆発させた。

 そして、妹に反撃されると思っていなかった姉は驚いて受けに回っている。


 志苑から聞いてた作戦と違うんだけど……冷静に立ち回って理論で分かってもらうって言ってたよね?


「運動も勉強も出来て、お父さんがやらかした寿司王国も復活させた! 大きくした! 私のお願いも馬鹿にしながら聞いてくれた! 尊敬してた! でも、欲しい物を手に入れるために相手の邪魔をしたり、嫌な事を突っついたり……真似したからわかる! 絶対上手くいかない! いつか自分に返ってくる……! 最悪の形で! 今もそうなってる!」


 志苑のスシバトル部のあれそれは姉の真似事だったのか……成功している姉のやる事は正しいという勘違い。だからあの頃は迷いなくダーティープレイに徹していたのか。

 でも、鳥路さんに負けた。それに、帯刀さんが最終戦で負けたのは志苑の入れ知恵が原因だろうし……その頃から姉のやる事に疑問を持っていたのかもしれない。


「それに何よイナリスカウトって! 良い歳した大人が集団コスプレしてイキってるだけじゃない! 恥ずかしくないわけ!? やってる事も犯罪だし、所詮は寿司罵倒協会の犬でしょ!? 馬鹿じゃないの!?」


 切れ味の鋭い志苑の罵倒、いや忠告。でも、実際そうだしな……


「言わせておけば……! 殴られたいわけ!?」


 笹垣志織の反撃にキレが無い。暴力に訴えるのはレスバで敗北を意味する。

 流石に止めに入るべきか?


「殴れば良いでしょ! それで満足するような人間ならお姉様は馬鹿よ! 馬鹿! 雑魚! 馬鹿!」


 ……罵倒のレパートリーはともかくレスバは志苑の勝ちだ。

 笹垣志織もこれには歯軋りしているんじゃないか?  


「返してよ……誰よ、あんた……かっこ良かったお姉様を返してよ……」


 この声色……志苑の奴、泣いてないか? 感情がジェットコースターすぎる。

 笹垣志織も黙ったままだ。その場にいないのに、俺が一番気まずい空気を味わっている。


「……馬鹿な妹。格好良さなんて邪魔なだけなのに」

 

 笹垣志織の声のトーンが少しだけ弱々しくなった。


「例えどんなに実力があろうが、成功し続けるなんてのは無理な話。泥を啜って勝ちにしがみつくぐらいの執念が必要。それが無理なら諦めるか……ルールの外で戦うしかない」


 笹垣志織が吐露する。


「勝たなきゃ舐められる。大人の世界ってのは……そう言うもの。不相応な肩書きを守るために手段を選ばない、笹垣志織は所詮はそんな女よ。残念だったわね」


 自嘲気味に語る笹垣志織。

 鳥路さんとのスシバトルの前に他人を信用しないと彼女は言っていたけど、一番信用していないのは自分自身って事か……

 志苑はマジ泣きしてる感じの音を出しているけど、大丈夫だろうか…… 


「はっ、幻滅したかしら? あんたの言う格好良い姉なんて最初からどこにもいない。それに気付いたから、私を排除する証拠を集めてたんでしょ?」


「ち、違う……」


「クソみたいな姉だもの! 鳥路英莉の包丁を折った罪をあんたに被せようとしたのも私! 憎いでしょう!? 邪魔なのでしょう!? お望み通り、消えてやるわ! あんたの、勝ちよ……!」


「違う! そんなんじゃ……私、私はそんなつもりじゃ……!」


「違わないでしょ。それとも何をされたか覚えてないぐらいの馬鹿? 正直、舐めてたわ、馬鹿な妹って……それ以上の馬鹿が私だったってオチ、笑いなさいよ……!」


「違うもん! そんなんじゃ……私、ううっ……うわああああああん!」



「……やめろよ」


 我慢できなかった。

 気付けば泣きじゃくる志苑を背にして笹垣志織の前に立っていた。


「盗み聞きは感心しないわね。山本葵くん、だったかしら?」


 名前を覚えられていたのは意外だけど……


「妹の前でカッコつけたい気持ちはわかるけど、それでまともに話も聞かずに泣かせるのは……ダサいよ」


「……知った口を。何がわかるってのよ、赤の他人のあんたに!」


「志苑が何のためにこんな事をしたのか……赤の他人で馬鹿の俺でもわかるぞ」


「そりゃ、志苑と一緒に証拠集めしていたようだし? わかったでしょ、志苑が私を憎んでるって」


「逆だよ。志苑は……あんたの事が心配だったんだよ」


「……は?」


「手にしたら死ぬかもしれない呪われた包丁を欲しがる姉、寿司業界では悪名高いイナリスカウトに変装してどこかに向かう姉……どっちが先かは知らないけど、本当に危ない包丁なのか、姉が変な事件に巻き込まれていないか……きっかけはそこだ。調べたら、あんたが主犯格だったってだけで……」


「そ、そんな訳!」


「そもそも、あんたは別に志苑の事そこまで嫌いじゃないだろ。妹が外出先で知らない男と話してるのが気になって喫茶店に直接乗り込むぐらいだからな」


「それは違う! 志苑が私を疑っていると思ったからで……そんなつもりじゃ……!」


「巻き込みたくなかったんだろ、自分の悪事に妹を」


「違う……! 私は……そんな人間じゃ、ない!」


「あと、回転寿司屋のあんたがどうして寿司を握れるのか気になってたんだけど……俺にも身に覚えがあったわ。妹の期待に応えるためにコソ練して、できる兄を演出した事があるからな。同じだろ、あんたが寿司を握れる理由。しかも相当やってる。寿司は……嘘をつかないからな」


「……チッ!」


 少なくともこれは正解だな。


「お姉様……?」


 志苑も少し落ち着いてきたようだ。目の前の等身大の姉を見て、希望が出てきたと思いたい。


「そんな目で……! 私を……! 私を見るんじゃない! 私は……!」


 両手で顔を覆い、狼狽える笹垣志織。

 

「はぁ……はぁ……! 最悪よ、最悪! ガキのくせに! わかったような! 本当は何もわからないくせに……好き勝手言いやがって!」


「わからないから話し合うんだろ。もっと会話した方がいいよ、笹垣姉妹は」


「……」


 沈黙する笹垣志織。纏っていた殺気立ったオーラが消えたような気がする。


「……どいて、少し時間を頂戴」


 力なく俺を押し退けて、ふらふらと自分の控室に入る笹垣志織。

 ……多分、大丈夫。あれだけ気が強い人なんだから、これぐらい乗り越えてくる。


「山本……私、あんたにお姉様の事を調べたきっかけなんて言ったっけ? それに……さっきの話、本当なの?」


 赤い目を擦りながら志苑が俺に尋ねる。


「……そうだったら良いなって」


「呆れた……でもね、思い出したわ。小さい頃、お姉様が握ってくれたヘッタクソな寿司の事。ううん、本当はずっと覚えていたのかも……じゃないと、忘れちゃうじゃない、昔の話なんて」


 まぁ最初から握れる人間なんて稀だろうしなぁ。鳥路さんだってそうだったらしいし。


「……ありがとう、山本。私も、お姉様と、ちゃんと話せる気がする」


 まだ涙が残っている状態で笑顔を見せてくれた志苑。

 

 この後どうなるか俺にはわからない……きっと大変な事が待っていると思う。

 それでも何とかなるはずだ。正しい方向に向かうと俺は信じている。

 二人には互いを思う気持ちが確かにあったのだから。



◇◇◇

アンフォゲタブルスシ おわり


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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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