第199話 アンフォゲタブルスシ④
前回のあらすじ:
継承戦第二回戦第一試合は鳥路英莉の勝利。
◆◆◆
鳥路さんと笹垣志織のスシバトル……鳥路さんの勝利が告げられた後も会場の熱は残り続けている。
「いやぁ、寿司握ってるのを見てるだけなのに、熱くなっちまったよ!」
「レベルの高いスシバトルはエンタメ力が凄いわね!」
「審査員がぶっ倒れたのはびっくりしたけど、試合自体は良かったよな!」
今のスシバトルに満足するギャラリーの声が聞こえてくる。
粕田の妨害はあれど、俺も真っ当なスシバトルだったと思う。
もっと笹垣志織の妨害が飛んでくると思ったけど……でも、粕田に指示して鳥路さんの包丁を折らせた可能性もあるし、これまでの所業は許されるものでは無い。
俺はビデオカメラの録画をオフにし、自分の目で会場の様子を伺う
……あらゆる物事で負け知らずだった自分を真っ向勝負で打ち破った相手を睨んでいる。志苑の言う通り、効いていると見て間違いないだろう。
鳥路さんはそんな笹垣志織をじっと見つめている。何を考えているかはわからない……いつもそうだけど、勝利に浮かれていないのは確かだ。
「とりっじー! おめでとー! 凄かったよー!」
「流石は鳥路さんですわー!」
「良い寿司だったわ、鳥路さん!」
寿司同好会のメンバーの声を聞いて、体をこちらに向けて、緊張が解けて少しだけ微笑む鳥路さん。転校してきた頃に比べて表情が柔らかくなったような……そんな気がする。
鳥路さんが去り、孤立する笹垣志織。彼女に声を掛ける者は誰一人居ない。
誰も信用しなかった笹垣志織らしい状況ではあるけど……それ以上は俺から言える事は何もない。
「ちょっと山ちゃん! 何ぼーっとしてるの? とりっじの勝ちだよ!」
「ほら、気の利いた事を言いなさいな!」
「え!? いや、勝ったのは知ってるって!」
賀集さんと金星さんに袖を引かれ、前に立たされる。
当然、鳥路さんと視線が合うけど……気の利いた事!?
「お、お疲れ、鳥路さん! カッコ良かった! あとめっちゃ美味しそうな寿司だった! 次は決勝だね! このままの勢いで優勝しちゃおう!」
「うん」
鳥路さんがいつもの調子で頷く。
な、なぜ、女子二人は俺の脇腹を肘とかで突いてくるんだ……!?
手加減されてるとはいえ、そこそこの痛みに耐えていると、会場から出ようとする笹垣志織の背中が見えた。そして、姉を追いかける志苑の姿も……
「え、あ! 笹垣さん!? 笹垣志織さん!? 行っちゃった……ええ、手遅れですが、惜しくも敗れた笹垣さんにも拍手を!」
本人不在の中、それなりの数の拍手が彼女の健闘を讃える。
……あとの事は志苑に任せて大丈夫だろうか? 志苑は自分でやると言っていたけども。でもなぁ……
「山本くん、笹垣の件は任せる。私は決勝までに白蛇をもう少し手に馴染ませる」
鳥路さんからゴーサインが出た。俺に何ができるかわからないけど……そんな事を言われたら行くしかない。
「……わかった。金星さん! 俺が戻ってこなかったら、涼葉さんのスシバトルをこれで撮っておいて!」
「えっ!? 構いませんが、どこに行きますの!?」
「最悪、喧嘩の仲裁!」
金星さんにビデオカメラを手渡し、俺は会場の外に向かって走り出した。
◇◇◇
笹垣志織が向かう先……控え室の方面に向かって小走りをする。
志苑が先に捕まえている可能性の方が高い。人混みを避け、隠れるように二人を探す。
「何の用? 負けた私を笑いにきたって訳?」
「ち、違う!」
いた! 声が聞こえる位置で隠れる。盗み聞きしているみたいで、良い気分では無いけど……いきなり俺が出てきたらややこしくなるだろうし。
「スシバトル中のお姉様はかっこ良かった。鳥路がそれ以上に強かっただけで……」
「話はそれだけ? 退いてくれる? このくだらない時間で仕事が溜まってるのよ」
相変わらずの姉妹だな……
「……何の仕事? 寿司王国の仕事じゃないよね? だったら、行かせない」
志苑が覚悟を決めた……!
「自分が何をしているか……わかってる訳? 私のやる事に指図するんじゃないわよ」
視界に入ってなくても笹垣志織のプレッシャーを感じる。
「わかってる。イナリスカウトとして寿司屋を襲撃していた事も、寿司マニュアルを奪おうとした事も、SNSの悪い噂も本当の事だって……証拠もある!」
志苑の言う通り、フレべの力も借りて一連の事件の主犯格が笹垣志織である事はわかっている。偽りの予定表と実際の犯行時間……それに、消されるはずだった笹垣志織からの指示書。これに関しては杜撰な管理をしていた配下のイナリスカウトに感謝だ。
「……その面、嘘は言ってない。あんた、勝てる時にしかしないものね、それ」
姉妹だからわかる癖みたいなものだろうか……
笹垣志織の返しに志苑は沈黙を貫く。恐らく、姉を睨んでいる。
「ああ……わかったわ、あんたの目的。良いわよ、もう飽きちゃったから。あんたの好きな寿司王国は晴れて笹垣志苑の物よ。無能な父親をどうするかは……ま、ご自由に」
違う。確かに志苑にとって寿司王国は大事な物だけど、それ以上に大事なのは……
「……るなよ」
「何? はっきり言ってくれないと聞こえないんだけど」
俺も志苑の声を聞き取れなかった。
「馬鹿にするなよ……! 私を何だと思ってる! この、馬鹿姉!」
し、志苑が……キレた!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




