第198話 アンフォゲタブルスシ③
前回のあらすじ:
笹垣志織と鳥路英莉のマゴチの寿司対決!
見た目の違う二つの寿司……審査の時だ!
◆◆◆
会場全体が審査員に注目する時間。たった三人の評価で結果が決まるシビアな世界……審査員の責任感もそれ相応に大きいのかもしれない。
「では、笹垣さんの寿司から頂きますよ! いやぁ、見事な寿司という見た目が食欲を湧かせてくれますな! 味は……文句無しですな! 昆布のグルタミン酸がマゴチの旨みをブーストさせる完璧な寿司! これは素晴らしい!」
粕田は例外かもしれない。食べてすぐのベタ褒めで他二人の印象を操作しているようにすら見えてきた。有名になるぐらいには舌は確かなのだろうけど……一連のムーブで全く信用できない。
「シンプルながらわずか30分で深みを加えた良いお寿司ですね。数滴の酢橘の清涼感が全体をまとめ上げているのも素晴らしいです」
斉藤先生は料理研究家だけあって知識が凄そうだ。マゴチの寿司の基本形を知っていてそれと比較するような、そんな感じの評価をしてくれる。
「むう! 昆布茶の量が計算されているのか塩っけが絶妙! 簡単なように見えて、隠し包丁による食感の工夫もできている! 昆布の旨味と鮮度の良いマゴチの食感を楽しめる、熟成とは違うマゴチの寿司! 良い仕事だ!」
美味い寿司を食べると唸る寿司王。勿論これは高評価! 会場も盛り上がる!
一時は会場を恐怖で支配しかけていたのに、味一つで会場を味方につけた! 笹垣志織……今までに無い強さのスシバトラーだ!
三人の高評価を聞き、勝ちを確信したような笑みを見せる笹垣志織。まだ勝負は付いていない……! なぜなら、鳥路さんの表情に負けたという感情は一切無いからだ!
「笹垣さんのマゴチは三名から高評価のようです! さぁ、鳥路さんはこの評価を覆す寿司を繰り出せるのか……! 注目です!」
司会者の言葉に続いて、審査員の三人が鳥路さんの寿司の皿を手に取る。
「薄造りのマゴチを数枚シャリに巻いてタレを塗った寿司だね……このまま頂く形か……弾力の強いマゴチを噛み切れるように薄造りにする意味はわかるが……その分旨味の供給が減ってしまうはずだ」
寿司王が鳥路さんの寿司を分析する。食べる前から厳しくない?
「見た目は少し大きくてユニークですね……味はどうなるでしょう。このままでは普通のマゴチの寿司に劣りそうですが……」
斉藤先生まで!
「ははは! これは、もう、決まりましたな! 私ぐらいになると味の想像もできてしまいますが、これは笹垣さんの勝ちですな! まぁ、食べてあげますがね! どれ……」
くそ、粕田め……他二人が懐疑的だから調子に乗ってるな!
粕田が鳥路さんの寿司を雑に口に放り込む。そして……目を見開いて固まった。
「な……!? な!? そんな……!? なぜ!?」
冷や汗を垂らしながら0点の食レポをする粕田。何が起きているんだ!?
粕田の様子を不思議そうな目で見ながら、斉藤先生と寿司王も鳥路さんの寿司を食べ始める。そして、粕田と同じように固まる。
「く、口の中でマゴチの旨みが……広がった!? 薄造りの味じゃないわ!? な、何が起きているの!?」
口を抑えながら興奮気味に味を語る斉藤先生。比較的冷静な人なので珍しい光景に見える。
「むうううう! マゴチの旨みが爆発する! これは薄造りの寿司じゃない! そ、そうか! シャリの中にマゴチのたたきを忍ばせていたんだな!? だから寿司が大きめのサイズに! 表面の薄造りに加え、中骨周囲の身、頬肉、カマ……マゴチ全てを堪能させてくる大胆さ! そして、それらをキリッとした酢橘と醤油のタレでまとめ上げる抜かりの無さ! 美味い! 美味いぞ、この寿司は!」
寿司王が興奮して立ち上がる! 湧き上がるギャラリー!
「た、立った! 寿司王が立ったぞ!」
「マジで美味い寿司を食うと立ち上がるんだよな、あのおっさん!」
「継承戦だと初じゃない!?」
ギャラリーも立ち上がった寿司王に興奮している。
寿司王にそんな癖が……今までは想定内の寿司で、今回の鳥路さんの寿司は寿司王の想像を超えてきたとかそんなところか? とにかく、凄い! 凄いぞ鳥路さん!
「な……!? そんなふざけた寿司が……!」
笹垣志織の焦る表情を初めてみた。鳥路さんの寿司が笹垣志織の予想を超えてきたのだ!
その反応を予想していたかのように、鳥路さんがゆっくりと笹垣志織の前に出向き、審査員に出した寿司と同じものを差し出す。いつの間に四貫目を……笹垣志織の審査中に作っていたのかな?
「な、なんの真似よ!」
「……誰も信用していないなら、自分で味を確かめると良い。ルール的にも別に問題ないはずだ」
鳥路さんの直接攻撃にギャラリーも大興奮だ!
「舐めた……真似を! 無意味で無駄な行い……! 寿司如きで人の心が動くとでも!?」
周囲の目がある中、拒否できない空気。笹垣志織は悪態をつきながら鳥路さんの寿司を食べる。
……笹垣志織が固まる。三人の審査員と同じ反応だ。
「くっ……ぐう……! ぐううううっ!」
唸りながら、まな板に拳を叩きつける笹垣志織! その姿はまるで……鳥路さんの寿司に屈服したような姿だ!
……鳥路さんはその姿を見ても何も言わず、笹垣志織に背を向け自分のスペースに戻っていく。
「そ、そんな笹垣さんの寿司は完璧な出来だったんですよ!? こ、こ、こ、こんな子供の!? こんなふざけた寿司が!? どうして!? あり得ない!? こんなの、許されないいいい! 私の完璧な計画がああああ!」
取り乱す粕田。計画とか言い出したぞ……やっぱこいつが主犯か。
「……その計画とやら、詳しく聞かせてもらいましょうかね。粕田くん」
「ヒッ!? いえ、そんな!? 私は妨害工作なんてしてませ、あばっ!?」
寿司王に詰められて、粕田が自白した……
騒然とする会場! どうするんだこの状況!?
「な、なんか凄い事になっちゃってますけど! 審査員の方は美味しかった方の札をあげてください!」
司会者が混沌とした会場を何とか延焼する前にまとめようとしてくれた!
斉藤先生と寿司王が手にしたのは……鳥路さんの札! 鳥路さんの勝利が確定した!
「あひゅっ」
状況を受け入れられず粕田が気を失ってぶっ倒れる。
……急な展開にも関わらず、寿司王の合図でスタッフの人達がスムーズに粕田をどこかに運んで行く。これ、寿司王は粕田が尻尾を出すのを待っていた感じかな……
「二回戦第一試合、勝利を掴んだのは……鳥路英莉だー!」
司会者の勝利宣言で会場に歓声が広がる!
色々あったけど……鳥路さんの勝ちだ!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




