第196話 アンフォゲタブルスシ①
前回までのあらすじ(本物):
継承戦本戦、二回戦目を前に愛用の包丁、スッシーフィンを何者かに折られてしまった鳥路英莉。対戦前に代わりの包丁を選ぶ事になった鳥路だが、審査員の一人である粕田の策で左利き用の包丁しか選択肢が無く、右利きの鳥路に不利な状況を押し付けられてしまう。
このまま左利き用の包丁を使うしかないと思われたその時、白蛇を守っていた強化ガラスケースが爆発四散。誰もが白蛇が鳥路を選んだと思えるような状況が作り出される。ルール的にも白蛇の使用は問題がなく、優勝を前に一時的に白蛇を手にした鳥路。
出刃包丁の見た目ながら、薄刃で柳刃包丁ような切れ味を持つ白蛇。それを使いこなす鳥路を見て、周囲はうっすらと鳥路の勝利を確信する。しかし、ここまで力を隠していた対戦相手の笹垣志織が豹変、邪悪な寿司圧を纏いながら確かな腕前で周囲を圧倒する!
◆◆◆
笹垣志織の包丁捌きは殺気すら感じるレベルのプレッシャーを感じた。早いのは早いのだけど、切り刻んでいるようにすら見える。結果的に綺麗な三枚おろしができているので、あくまで錯覚だけども……カメラを持つ手が少しだけ震える。
「うおっ……な、何だこの感じ……笹垣は魚を捌いているだけなのに怖いんだけど!?」
「で、でも、マゴチは綺麗に捌かれてるわ!」
俺だけじゃなく、ギャラリーもそれを感じているようだ。
殺意や敵意……寿司には無関係な感情。何があったらこんな事になるんだ……
「白蛇の子も負けてないぞ! 若いのにベテランの風格が出てやがる!」
「捌き方一つでレベルの高さがわかるものなのね……」
ギャラリーは鳥路さんの動きを見て驚いている。
この異様な寿司圧に鳥路さんは呑まれていない! 白蛇を初めて握っているのに……それを感じさせない動きだ! 色々な寿司屋でスシバトルをして、その度に包丁をお借りしてきた経験が生きているのかもしれない。
しかし、先にマゴチを三枚に捌き終えたのは笹垣志織、少し遅れて鳥路さんもそれに続く。
双方のレベルの高さにこれまでの継承戦で一番の盛り上がりを見せる会場。
「新鮮なマゴチは弾力が強い。切りつけで勝負が決まるわよ」
司先生は二人の勝負から視線を外さずに寿司同好会メンバーに向かって瞬きをするなと忠告をする。メンバーどころか、会場全体が鳥路さんと笹垣志織の動きに集中している。
……鳥路さんの手が止まる。包丁を一度置いて、目も瞑ってしまった。
普段なら迷いなく切りつけに移行しているのに……何かトラブルが?
違う。単純に集中しているだけだ。イメージしている……マゴチをどうすれば美味しくできるのかを。
「鳥路の手が止まったぞ! 何か策でも練っているのか!? この土壇場で!?」
「マゴチに策なんているか? 普通に美味い魚だぞ?」
ギャラリーが鳥路さんの行動に疑問視している中、笹垣志織が動く。
「おおっと! 笹垣さん、捌いていた時とは違って、滑らかな切りつけ! 厚さも均等に見えます!」
司会者の評通りの動きだ。寿司ネタサイズに切り分けられたマゴチは均等な厚さで、使用する三枚は大きさと形も同じ。これだけの技量があるなら裏工作なんて必要ないだろうに……ますます何を考えているかわからない。
そのまま握りに入るのかと思ったけど……笹垣志織が調味料置き場に移動する。手にしたのは昆布茶の缶。昆布茶!?
ギャラリーも騒つく!
「さ、笹垣さん! 昆布茶を手に取り、金属バットの上に振りかけています! その上に先程切ったマゴチを置いて……さらに昆布茶を振りかけました! 寿司王! ありなんですかコレ!?」
司会者も驚く行動! 昆布締めはわかるけど、昆布茶でもできるの!?
司会者のマイクが寿司王の頬に押し込まれる。何か見たことあるなこの光景……
「お、落ち着きなさい。即席の昆布締めみたいなものだね。普通の昆布締めよりも短い時間で旨みを加算できる方法だよ」
「なるほどぉ!」
寿司王の解説に感心する司会者。
「10分程でしょうか……時間を有効活用していますね」
斉藤先生も笹垣志織の下処理を評価する。料理研究家なので、どのくらいで終わるかを把握しているのは流石である。
「いやぁ、この気遣い! 素晴らしい! 美味いものを提供してやるぞという気概を感じます! 得点形式なら加点! 加点ですよ!」
粕田は別にいいや。ただ、本戦から得点形式じゃなくて、三人の投票制なんだよな……粕田票が100%入らないから、確実に寿司王と斉藤先生から票を貰わないと勝てない。
「おおっと! ここで鳥路さんが動き出す! 切りつけ……う、薄くないですか?」
司会者が困惑する。寿司ネタ用の厚さではなく、刺身用……いや、もっと薄い。透けてるぞ!?
それに三枚以上切ってる。寿司に使うのは一枚じゃない?
「……夏のフグだからフグ刺し? 食感は良くなってもシャリに負けるわよ。暑さで頭でもやられた訳?」
昆布茶締めの仕上がりを待つ笹垣志織が鳥路さんを煽る。逆に安心するな……
しかし、鳥路さんは笹垣志織の煽りをスルー。良い集中力だ。
鳥路さんは包丁を置いて、今度はスプーンを手に取る。
スプーン!?
何をする気なんだ!? いや本当に!? 鳥路さん! 本当にご乱心してないよね!?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




