第195話 ザスシクイーンネバートラスツエニワン⑧
前回のあらすじ:
白蛇を守っていたガラスケースが爆散した。
◆◆◆
突然の爆発に騒然とする会場。試合開始を急かしてたギャラリーを黙らせる程の衝撃だ。物理的な意味ではなく、展開的に。
「お、おい、白蛇のガラスケースが爆発したぞ!?」
「強化ガラスって聞いてるぞ!? 木っ端微塵じゃねぇか!」
「呪いの噂は本当だったのね!?」
何かの間違いだと思いたいけど……こんな場面に出くわしたら信じたくもなる。
「これは包丁が鳥路英莉に自分を使えって言うてるんと違いますかねぇ!」
聞き覚えのある関西訛りの女性の声、桐谷さんの声か!? 俺もさっき思っていたけど、やはりそう解釈しても良い状況だよな!
「鳥路さん! ルール的に白蛇も使えるはずだ! 会場にある包丁だからね! 昔の記事とかも読んだけど、左利き用みたいな記載はなかったから、右手で使える包丁だよ!」
桐谷さんと俺の声を聞いた鳥路さんが頷き、寿司王に向かって手を挙げる。
「勅使河原さん、白蛇をお借りしたいです!」
鳥路さんの一声で会場は更に混沌とした盛り上がりを見せる!
「ちょ、ちょっとちょっと待ちなさい! そんなの理屈が通る訳が無いでしょう!? 白蛇は賞品ですよ!? なぜ継承者でもない女に使えると!? あり得ない! あり得ませんよ!」
寿司王が何か言う前に粕田がしゃしゃり出てきた。
「しかし、ルール的には問題がないはずだ、粕田くん。それに右利き用の包丁を用意できなかった君に落ち度があるのだよ? 今すぐ用意できるのかね?」
「そ、それは……も、もちろん、難しいかもですけど、時間が許されれば……必ず……」
寿司王に詰められる粕田の目線が笹垣姉に向く!
「……どうでも良いわ。所詮は昔の包丁……勝負の結果に何も影響しない。使えば良いじゃない、白蛇」
粕田を切り捨てて、流れに乗っかる笹垣姉。対戦相手から許可が降りた事で会場が湧き上がる。
「時間もありませんし、良いのでは? 予選や一回戦の彼女の包丁の扱い方であれば白蛇をお貸しするのも問題ないかと」
「うぐぐぐぐ……し、仕方ありません。許可しますよ! 私は寛大ですからね!」
斉藤先生も賛成のようだ。所作とかもしっかり見てるんだなぁ……
「鳥路くん! 緊急事態につき、一時的に君に白蛇をお貸しする! こちらに!」
寿司王が砕けたガラスの中から慎重に白蛇を取り出し、審査員席のテーブルの上に置く。その間に鳥路さんは早足でテーブルに向かう。
そして、鳥路さんは白蛇を握り、刃の状態や柄を確認し……頷いた。
「問題ありません……こちらをお借りします」
鳥路さんの言葉で歓声が上がる!
「試合で継承者を決めるより、ある意味正当に継承してるんじゃないか?」
「呪われた包丁に選ばれた訳だし……ねぇ?」
「でも一応、決まりは決まりだし……あの子が本物なら勝ち進むだろうし……」
ギャラリーからそんな声が聞こえてきた。
それを聞いたからかはわからないけど粕田が悔しそうな表情を見せている。こうなる事を避けたかったんだろう。
「えーっと、色々起きすぎて頭がついてきていませんが……鳥路さんの包丁が決まったという事で、改めて二回戦、第一試合を始めます!」
司会者の期待に応える形でギャラリーが盛り上がる! 予選の時なんかよりも観客が明らかに増えている声量だ。
鳥路さんのスッシーフィンが折れた時はどうなる事かと思ったけど、その代わりが白蛇ならスッシーフィンの代わりとして十分だろう。勿論、一番はスッシーフィンと同じ包丁だけど、今はこれが最適解な気がする。
でも、白蛇って見た目が出刃包丁の柳刃包丁なんだよな……変な包丁だけど、鳥路さんは本当に大丈夫だろうか。
「さぁ、一試合目の食材は……これだぁ!」
司会者がテーブルを覆っていた布を勢いよく引き剥がす!
会場全体が注目するその食材とは……!?
……いや何だこの魚? 潰れた頭に愛嬌を感じる目……色はカレイとかみたいに砂に擬態してそうな感じで……何?
「こ、コチ!? マゴチね!」
司先生が司会者より先に答えを言ってしまった。完全に知らない魚だ。
「夏のフグ……マゴチだー!」
フグという単語を聞いて会場が湧く! そしてやはりマゴチのようだ。
自論だけど、魚って変な見た目の方が美味しかったりするよなぁ……フグなんて呼ばれるぐらいだから美味しいのだろう。俺はフグも食べた事無いけど。
「マゴチだとぉ!? こ、こ、この試合はマナガツオのはずでは!?」
粕田がでかい声で叫ぶ。マナガツオ?
「二尾の内の一尾の鮮度が悪くてね。急遽、宗鮨から持ってきて貰ったんだよ。どちらも良い鮮度だし、問題ないね、粕田くん?」
寿司王! 粕田の仕込みを見破って別の食材を用意してくれたのか!
「いや、それは、ははっ、勿論、もちろんですとも? ははは!」
冷や汗をダラダラと流す粕田。笹垣姉は粕田を無視して包丁の確認をしている。
午前中とは異なる会場のスタッフ達がマゴチを鳥路さんと笹垣姉のスペースに運ぶ。俺達の見えてない所で運営にも動きがあったようだ。流石は寿司王。
「制限時間は30分! マゴチ対決! 開始です!」
勝負が始まった! 鳥路さんと笹垣姉は同時にマゴチを手に取り、下処理の準備に入る! ヒレとか硬い部分は包丁ではなく、ハサミで取り除くんだな……ウロコ取りも水の張ったボウルの中で金たわしを使ってるし、二人とも良くこの魚の調理方法を押さえているなぁ……鳥路さんは見慣れているけど、笹垣姉も当然のようにやっている。回転寿司の経営には不要なスキルな気がしないでもないけど、どうして笹垣姉は握れるんだ?
頭や内臓が取り除かれ、ついにマゴチをおろしていく時がきた。鳥路さんが白蛇でマゴチの背に包丁を走らせる……! まるで空を切るようにマゴチの背を切り裂く白蛇! 昔の包丁とは思えない切れ味に鳥路さんも少し驚いている!
「すげぇ切れ味!」
「これが伝説の包丁かよ!」
「おいおいおい、道具で差が付くんなじゃないだろうな?」
ギャラリーも白蛇の想像以上の切れ味に驚愕している!
それに加え、初めて握る伝説の包丁を使いこなしている鳥路さんにギャラリーは大盛り上がりだ!
完全に鳥路さんに流れがきている! 不正も完全に封じているはずだし、笹垣姉もこれには……
俺の目に映ったのは加虐性を感じる不気味な笑みを浮かべながらマゴチを捌く笹垣志織の姿。予選や一回戦の時はこんな感じじゃなかったはず……
その不気味な変化以上に高速で捌かれていくマゴチに目を奪われる。
甘かった。白蛇を握ったぐらいで勝ちが確定する相手じゃない……!
笹垣志織は……このタイミングで本気を出してきた!
◇◇◇
ザスシクイーンネバートラスツエニワン おわり
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




