第193話 ザスシクイーンネバートラスツエニワン⑥
前回のあらすじ:
鳥路さんの100m走のタイムは12.30秒ぐらい。
◆◆◆
鳥路さんが取り押さえた会場スタッフ扮した犯人の仲間は寿司王と他のスタッフに運営本部に連れて行かれた。一応、連れて行かれる前に寿司王にお願いして犯人の仲間に色々質問したけど大した収穫は得られなかった。
ただ、警備室に防犯カメラの映像を消す役割の仲間が居たのを漏らしたので、他の会場スタッフやホテルの人達が間に合えば、この件は完全に解決できるだろう。
「頑なに誰の指示か言わなかったわね……時間の問題かもしれないけど」
連れて行かれる犯人の仲間を見つめながら司先生が呟く。
「ガキ派のイナリスカウトだとは思うんですけどね……タイミング的にも」
鳥路さんの試合の直前だし、偶然では無いはずだ。
……笹垣志織の元に統率されたイナリスカウト軍団は規模が大きい。人材も豊富だろう。それに狐のお面を外して一般人に擬態できるのは改めて凶悪だと認識できた。
「しかし、警備の穴を突いたり、会場のスタッフに紛れたりなんて外部の人間が簡単にできるでしょうか?」
金星さんが扇子を仰ぎながら疑問を口にする。
「……粕田が一枚噛んでると思うんだよね。その、本当に憶測なんだけど」
志苑も粕田と笹垣姉がつるんでいると言っていたし。
「あー、あのイメージ悪い審査員のおじさん!」
「良い噂は聞きませんし……可能性は高そうですわね」
賀集さんと金星さんにすら疑われる粕田の人格……審査の発言を聞いてるだけど、不思議とやってる感じがするんだよな。
「志苑も内部犯は粕田だと思うか?」
「え? いや、私は……別に……」
疑いの目は晴れたのにモジモジする志苑。寿司同好会の輪に自然に紛れ込ませようと思ったけどダメだった。
「……そうだ。賀集さんも金星さんも志苑を庇ってくれたけど、前からそう思ってたの?」
志苑と俺の協力関係は二人には教えていなかったから、ちょっとヒヤヒヤしていた。
「それもあるけど……昨日とりっじが山ちゃんと笹垣さんが協力してるって教えてくれてたからね」
「飲み物を買いに行く事を口実にして密談しているの、バレバレでしたわよ?」
……俺はもっと周囲の目を気にした方が良いのかもしれない。
「あと、とりっじがね! 山ちゃんが笹垣さんを名前で呼ぶのに」
「賀集さん」
「あ、ごめん」
鳥路さんが眼力と見えない圧力で賀集さんを黙らせる。何? 気になるんだけど?
と、とりあえず、そう言う事なら話は早い。
「実は、志苑のお姉さんが寿司罵倒協会の人間らしいんだ。俺を撃ったイナリスカウトとは別人ね。寿司王国の発展に大きく貢献してる人なんだけど、やり方がちょっとよろしくない感じで……志苑と内部告発の準備をしていたんだ」
「こ、告発なんてしないわよ!? お姉様にはやり方を改めて欲しいというか……こんな事やめて欲しいだけで……」
実際はそれでも告発に近い準備をしている。手に入れた証拠は全部志苑に託したので、どう使うかは志苑次第だけども。
「そこまで用意しているなら、スシバトル前に証拠をぶつけて失格にさせた方が良かったじゃない」
司先生から教師としてではなく鉄火の梨寿としての意見が出てきた。全盛期、本当に何でもしてたのかなぁ……
「そ、それはそうなんですけど。お姉様に大人しく話を聞かせるなら、真っ当に勝負に負けた直後が良いと思って……それが一番効くから」
基本負け知らずの人生らしいので、鳥路さんに負けたら相当精神にダメージを与えられるだろうと志苑は教えてくれた。なので、俺が勝負が終わるまでは泳がせる事を提案した。
「すみません。俺もまさか鳥路さんの包丁を折りに来るとまでは思ってなくて……事前に失格にさせておいた方が良かったかもしれないですね……ごめん、鳥路さん」
「私のせいでごめん、鳥路……」
ここは相手を甘く見ていた俺の落ち度だ。もしかしたら、スッシーフィンは無事だったかもしれない。
「私も同意した話だし、山本くんと笹垣が謝る必要は無い。それに負けに無駄な理由を付けられる方が不愉快だ。正々堂々と正面からスシバトルで笹垣志織を倒す」
鳥路さんは折れたスッシーフィンを撫でながら、意気込みを語る。
「問題は鳥路さんの包丁をどうするかね……寿司王からも会場で用意した包丁を貸してくれるって話だけど」
流石に折れた包丁を使う訳にも行かないし、ルール的にも包丁を借りる事になる。
スッシーフィンは万能包丁。万能包丁か三徳包丁あたりが候補になるだろうか。
「っと、寿司王のおっさんからチャットが来たわ。次の試合の開始は更に一時間後の14時からだと。ついでだし包丁の事もおっさんに確認しておくわ」
司先生と寿司王のチャット上の会話が気になる……まぁ、こんな事があれば遅延ぐらいはするよな。中止にならないだけマシか。
「ピンポンパンポーン。えー、13時から午後の部を開始予定でしたが……機材トラブルにより、14時からの開始に変更となりました。ご来場の皆様にはご迷惑をおかけしますが、開始までもうしばらくお待ちください。ピンポンパンポーン」
……司会の人のアナウンスだ。なんでチャイムを口で?
とにかく運営は機材トラブルって事でこの場は納める方針らしい。寿司王にも何か考えがあるのだろうか。それとも粕田の隠蔽か?
「そう言う事だから。改めてお昼に行きましょう。食べたい物はある?」
両手でパンと音を鳴らし、場を取り纏める司先生。
「寿司」
鳥路さんが即答する。少し元気になったようで良かった。
「……回転寿司なら可」
司先生が回らない寿司を封じる。
「ねこまた寿司って銀座にありましたっけ? 賀集さんはご存知ですわよね?」
「銀座は無いんだよねぇ」
銀座にねこまた寿司は無いらしい。どこにでもありそうで、案外無かったりするんだよなぁ……回転寿司のお店。
「す、寿司王国なら……ある! このホテルからも近いし……優待券もあるから安くなるし……場所も確保できるし、だから、その、嫌だったら断ってくれていいけど……」
声のトーンが徐々に小さくなる志苑。そんなの決まってる。
「俺は寿司王国に1票。リニューアルしたガリの味も確かめたいし」
「私も! ライバル店の視察になるもんね!」
「実は回転寿司に行くの初めてですの! 楽しみですわ!」
賀集さんと金星さんも賛成してくれた。それより金星さんは本気で言ってる?
「安くなるなら賛成よ。鳥路さんも寿司王国で良いかしら?」
財布事情が厳しそうな司先生が鳥路さんに尋ねる。
「問題ありません。銀座で戦える回転寿司……寿司ネタに気合いが入ってるはず」
そういえば銀座って寿司屋の激戦区だっけ。場所でチェーン店の味が変わるかはわからないけど。
「……自分で言っておいてあれだけど、本当に良いの? お人好しすぎない? お姉様のお店みたいな物よ?」
提案者が何か言ってる。
「お前が守りたい店でもあるんだろ。良いから案内してくれよ」
志苑は口を開けたまま硬直し、閉じたと思ったら少し顔が赤くなる。ちょっと涙ぐんでるし……
「え、ちょっと、なんで!?」
「はー……これだから山ちゃんは……」
「よく一年も放置されてましたわね、この物件……」
「何!? ぐふっ! と、鳥路さん!?」
鳥路さんが背中に頭突きしてきたんだけど!?
「……足が滑った」
「いや、明確にヘッドバットしたよね、いたっ!? 絶対わざとでしょ!?」
俺が何をしたってんだ!?
「はいはい、行くわよー。そんなに時間も無いんだから」
痛がっていたら、女性陣が志苑を連れて先に控え室から出ていってしまった
「ちょ、ま、待ってください! 俺も行きますってば!」
本当に何が起きたんだよ! 誰か答え合わせ! 答え合わせしよう! ねぇ!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




