第190話 ザスシクイーンネバートラスツエニワン③
前回のあらすじ:
鳥路英莉の一回戦目の相手は自称富山一の寿司職人、今市爽太。
勝負のお題はアワビ。
今市はこの勝負を包丁の技術を見せる戦いと判断し、見事な飾り包丁でアワビを握って見せた。一方で鳥路は生ではアワビがシャリに馴染まないと判断。アワビを酒蒸しにし、最低限の飾り包丁でアワビを握った。
異なる調理法での勝負……結果は審査員全員が鳥路の寿司を選び、鳥路の圧勝に終わった。酒蒸しによって、アワビは程良い硬さになり、寿司としての完成度が上がったのだ。
腕前とは見せつけるものではなく、必要な場面で適切に使うもの……それを見誤った今市の敗北はもはや必然だった。
◆◆◆
「注目の一戦目は……! 今話題の天才寿司少女、鳥路英莉の勝利だー!」
司会者の勝利宣言で会場が湧き上がる!
「やった! 鳥路さんの勝ちだ!」
俺もビデオカメラに聞こえるように鳥路さんの勝利を讃えた。
生と酒蒸し……同じ食材でもここまで変わってくるのか。
今市の挑発に乗らず、冷静に美味い寿司を求めた鳥路さんは流石である。
「お、俺は富山で一番の寿司屋で……白蛇の継承者になって、日本一になるはずなのに……な、なぜだ!? なぜこんなガキに!?」
敗北を認められない今市が狼狽えている。
「食材の事も考えずに、技のお披露目会をすれば負けるのは当たり前。お前の寿司は……泣いている」
「う……くうっ……」
鳥路さんの言葉に今市は何も言い返せず、大人しく退場して行った。
今回の件で自分を見直して、本当の意味で富山一の寿司職人になって欲しい。
◇◇◇
「鳥路さん! まずは一回戦突破おめでとう! かっこ良かったよ!」
「ありがとう、次も頑張る」
本戦参加者用に用意された控え室で鳥路さんを労う。
鳥路さんは相変わらずのスタミナで疲れている様子は一切ない。次の試合まで少し休めるし、問題なく次の勝負もベストコンディションで臨めるだろう。
……現在会場では涼葉さんの勝負の準備が進んでいる。相手は北海道の蝦夷前寿司の達人らしい。蝦夷前が何かよく知らないけど強そうだ。
「山ちゃん、女の子にカッコイイはどうかと思うけど……」
「否定はしませんが、ねぇ?」
賀集さんと金星さんが俺に苦言を呈する。
いや、かっこよかったよな? と首を傾げると、鳥路さんも不思議そうな感じで二人を見ていた。
「本人が良いなら……良いか!」
「そ、そうですわね!」
変な二人だなぁ……
そんな事を思っていたら俺のスマホが鳴る。
山田さんからのメールだ。鯖江さんから山田さんが相当良いカメラを持ってきていると聞いたので、白蛇の写真を撮ってもらうようにお願いしたのだ。
「山田さんから白蛇のズーム写真を撮ってもらったのがもう来た! 本当に画質良いなぁ……」
俺もカメラ沼にハマりそう。今は動画だけど。寿司同好会のメンバー全員が俺のスマホの画面を覗き込むので、貰った画像を保存してから、見やすい位置にスマホを横置きする。
開幕式で公開された白蛇。紫さんの持つ黒鷲と対になるように綺麗な白……実際には銀色に近い出刃包丁だった。高画質のズーム写真だとその美しさがよりわかりやすい。
「呪われた包丁には……見えませんわね」
「うん。包丁として使うのが勿体無い感じ!」
正直、俺も金星さんと賀集さんと同じ意見だ。別のアングルで見ても不思議と気品を感じる。包丁なのに。
「……山本くん、一つ戻して」
「司先生? 何かありました?」
司先生に言われ、一つ前の写真を画面に表示させる。
少し見下ろした角度からの一枚だ。どうやって撮ったんだろう。
「出刃包丁にしては……薄いわね」
司先生がそう言うのならそうなんだろうけど……薄いと何か問題があるのかな。
「確かに薄い……出刃包丁は厚みと重さで硬い骨とか頭を切る物なのに……厚さだけなら柳刃包丁みたい」
鳥路さんも白蛇の写真を見て司先生と同じような感想を抱いたようだ。
白蛇の前の持ち主である吉村修吾さんも鑑賞目的の包丁とか言ってたし、見た目は出刃包丁だけど、白蛇はその用途を満たしていないのか?
「ん? そういえば……桐谷さんが黒鷲の偽物を見た時にもっと厚さがあるって言ってたような……だよね? 鳥路さん」
「確かにそう言ってた」
俺と鳥路さんの記憶が一致する。黒鷲をはっきりと確認すればわかる事だけど……今の紫さんにはお願いできないしなぁ……
「司先生、黒鷲の特徴ってわかったりします?」
「うーん……心陽が継承者なのは知ってたけど、全然黒鷲を使わないのよね。表舞台で黒鷲を持ち出したのも今回が初めてじゃないかしら……」
司先生でもはっきり覚えていないのか……
立派な包丁なのにどうして使わない? 使うのが勿体無いから?
ふと思い浮かぶ刀鍛冶の手記の内容。
白蛇を使役すれば技を高めるが、代償に力を奪う。
黒鷲を使役すれば力を与えるが、代償に技を奪う。
力を込める出刃包丁、技で切る柳刃包丁……白蛇と黒鷲は本来必要な要素を奪っている。逆……?
白蛇は出刃包丁の見た目をした柳刃包丁で、黒鷲は柳刃包丁の見た目をした出刃包丁?
「わかった! 逆なんだ! 本当は白蛇が柳刃包丁で、黒鷲が出刃包丁なんだ!」
黒鷲を見て答え合わせをしたいけど、証拠を合わせるとそう言う話になるよな。
「で、でも何のためにそんな包丁を!?」
「山ちゃんが言ったんだよ!? わかんないよ!」
「自分で仰った事に対して疑問をぶつけないでくださる!?」
混乱する俺に賀集さんと金星さんがツッコミを入れてくれた。ど、どういう事だ? 何のためにこんな包丁を!?
「継承者が使おうとしないのにそんな理由が……山本くんの仮説は正しいかもしれないわね。でも、どうしてそう言った記録が残っていないのかしら……」
司先生の言う通り、こんなメチャクチャな包丁は識者による解説とかがあって然るべきだと思う。それが無い事にも理由がある? わ、わからない!
「間も無く、本日二戦目が始まります! 観客の皆様は席にお戻りください!」
アナウンスが流れてくる。涼葉さんの応援に行かなきゃ……包丁の謎は今考えても答えは出そうにないし。
「……難しい事は山本くんに任せる。涼葉さんの試合を見に行こう」
鳥路さんはスッと立ち上がる。鳥路さんの方が俺より学業の成績良いんだけどなぁ……状況的にはそうなるか。
謎が解けたと思ったら余計に謎が増えた感じでモヤモヤするけど、一旦気持ちを切り替える。涼葉さんが勝ち残ってくれた方がこちらに有利だし……しっかり応援しよう!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




