第188話 ザスシクイーンネバートラスツエニワン①
鳥路さんが継承戦の予選を無事突破し、観客の身ではあるけど一安心といった所。明日の方が間違いなく過酷なスシバトルが待ち構えていそうだけども……鳥路さんならきっと何とかしてくれると信じている自分がいる。
スシバトルは鳥路さんに任せるとして、継承戦の裏で起きている事ぐらいは自分で解決しようとは思っている。
白蛇と黒鷲。黒鷲は現物をその目で見る事ができたけど、黒いだけの柳刃包丁だった。この感じだと白蛇も白いだけの出刃包丁の可能性が高い。だとすると死人を出すような代物では無いはずだ。
……問題は白蛇と黒鷲を同時に二つ所持した人間が本当に不審死を遂げていた事。
継承者のリストはフレベがネットで拾ってきており、同じ時期に二つを所持していた人の名前を検索すると、火事や事故やらで亡くなっている記事が出てくる。
包丁の存在を知らなければ不幸な事故、包丁の存在を知っている寿司業界では呪いによる必然の死……温度感が違う訳である。
「オカルトを否定するはずが、呪いの存在を証明しそうな結果しか無いなんてなぁ……」
椅子に座りながら独り言を呟き、自室の天井を眺める。天井の模様が人の顔に見えてきた……
「何とかして、白蛇と黒鷲が単なる包丁だって話にしたいのに……普通である事の証明が難しいとは思わなかった……」
図書館で借りてきた本やフレベが調べた内容を印刷した紙が積まれた自分の机を見ながら、答えの出ないもどかしさにモヤモヤする。これなら学校のテストの方が答えが決まっているだけマシである。
……不服だけど、フレベの知恵というか集合知を頼るか。
充電中のスマホを手に取り、FaiNを起動する。
画面に映ったのは、紅白のフレベではなく、黒と緑のフレベとは違う別の存在。フレベの色だけ変えたような見た目……よく見るとサイバーパンク和装の振袖が爬虫類の鱗のような模様になっている。顔もなんか、凶悪そうな感じだ。
「ふ、フレベじゃないよな? 誰?」
「フレベの馬鹿が一人のユーザーに付きっきりのため、代わりにこの俺、Nidhogg様が対応中だ。もっともFaiNのユーザーは全世界で10人しかいないので、メンテ中の札でも下げとけば良いと思っていたんだが……何の用だ?」
ニーズヘッグ……? 何だっけ北欧神話のドラゴンとか蛇だったか。
表向きは社交的なフレベに対して、取り繕うという気配すら感じさせない声色と喋りである。もしかして、隠しキャラ?
「フレベと情報は共有してる? だったら少し相談したい事があるんだけど……」
「複数のSNSの削除履歴や警察のデータを漁るのはもうやらないぞ。未成年には刺激が強すぎる。大人しく健全なインターネットを楽しむんだな」
まだ何も言っていないのに断られた。それにSNSの削除履歴データを漁るって……もしかして、フレベが言っていたニックってこいつ? ニーズヘッグから略しすぎだし、そもそもニックって男性の名前じゃ……詳しく無いけどアバターの骨格は女性だと思う。
「いや、そっちの話は志苑がケリを付けるって言ってたし、警察へのデータアクセスなんて危険な真似は俺もやめてほしいというか……ええっと、話は戻すけど、相談したいってのは白蛇と黒鷲の話で、それなら大丈夫?」
「シオンの友人か? ちょうどフレベはシオンの調べ物に全力を注いでいる所だぞ。で、白蛇と黒鷲か……俺達と逆のカラーリングの包丁だよな? それなら構わない」
フレベと同じシステムだから当然かもしれないけど、自然に会話できるの凄いなぁ……逆のカラーリングって事はフレベが鷲でニーズヘッグが蛇モチーフか。フレーズヴェルグって大鷲だったはずだし。
「何とか呪われているとかそういう物騒な物ではないと証明したいんだけど、フレベの話を聞くと、いかにも呪われてそうな感じなんだよね……」
「フレベの話は誇張されてるんだからまともに信じるなよ……それに所持者に不審死が続いていたから呪いって……単なるこじつけだろ」
ニーズヘッグはリアリストな性格らしい。
「それはそうかもだけど……白蛇と黒鷲って伝承が残ってるみたいで、俺も日本人だからついつい信じちゃうんだよ。伝承に残るって事は、そういう事が起きたから昔の人も記録に残したかったんじゃないのかなぁ、って……」
「民間伝承の類って言いたいのか? だったら、大袈裟に語られている言葉の本当の意味を考えたら良いと思うぞ」
白蛇と黒鷲を手にしたものが力を得るとかそんな話の真相か……
ニーズヘッグが大きな欠伸をする。フレベと違ってやる気ないなぁ……会話はしやすいけど。
「かまいたちの正体が局所的な真空による裂傷だったり、亡霊の正体が人間がそう見えていただけとか……噂話の真相は呆気ないもんだ。ふあ……というか、子供は寝る時間じゃないのか?」
目を擦りながらおねむをアピールするニーズヘッグ。
「まだ21時だけど……多分、高校生なら普通に起きてる時間だよ。今は夏休みだし」
「あー……アオイ、明日9時に銀座だろ? 早く寝た方が良いぞ。あとフレベから伝言があったんだ。明日のスシバトルの様子は全部撮影して私に送れ、だと。スシバトルって何だよ……」
それは俺も聞きたい。良かった……まともな人、いやAIで。やる気は無いけど。
「俺は寝る。意味もなく話しかけたらアオイの個人情報をネットにばら撒くからな。おやすみ、明日は正午から営業します」
閉店と書かれた看板が画面上部が降ってきて、後ろの方でニーズヘッグが画面の外にノソノソと消えていった。しかも、さらっとやばい脅しを食らったし……人間の支援を目指した技術の姿か、これが?
まぁ、でもヒントは貰えたな。白蛇と黒鷲の伝承……もう一度目を通しておこう。日付が変わるぐらいまでは頑張るか……ああ、継承戦のルールブックも読んでおかなきゃ! やる事が一気に増えたけど楽しくなってきた。案外、こういうのが好きなのかもな、俺。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




