第187話 サクセッションスシバトルクオリファイア⑤
前回のあらすじ:
鳥路英莉、無事継承戦の予選を突破。
◆◆◆
「予選に残った皆様! おめでとうございます! ですが、本番は明日からです! そしてぇ、明日の対戦カードをこれから決めたいと思います!」
司会者に進行が円滑に進んでいく。今日のスシバトルは終わったので観客が帰り始めてるのも影響してそうだけど……色々な意味で激しい予選を突破した八名、観客は関係者ぐらいしか残っていない。
「本戦はトーナメント勝ち抜きとなります! 点数の高かった人から順に前の箱からボールを一つ取ってください!」
笹垣姉がトップで鳥路さんは四番目か。上位四名が女性というのは元々の参加者の男女比を考えると凄い状況である。
モニターに映るトーナメント表にはシード枠は無く、順当に三回勝利して優勝する感じの配置になっている。こうなると誰と当たるかが問題か。鳥路さんと涼葉さんがぶつかるのは何とか避けて欲しいところである。
参加者が順番にステージに上がり、ボールを手に取り、ボールに書かれた数字を掲げていく。鳥路さんは1番を引いて、2番との対戦。今の所2番は空いているから、男性との勝負……良く見たら1回戦目は全枠男性vs女性の形になるようだ。
「さぁ、綺麗に別れましたが、次で対戦カードが決まりますよ!」
司会者が会場を盛り上げる中、鳥路さんの次の男性が引いたボールの番号は……2番!
「おいおいおい、あの男は富山の一流店、寿司爽の今市爽太! あの女の子、終わったな!」
「ホヤの寿司は一点差で勝ってるとはいえ、いきなり一流店との直接対決なんて、運が無いな」
「どの道最後に残るのは本物って事よ!」
ギャラリーの反応的には強者らしい。今市さんは白髪まじりの角刈りでいかにもな寿司職人の見た目をしている。
「司先生、相手の人、凄い人なんですか?」
司先生に一応聞いてみる。
「富山の有名な老舗ね。味は……知らないけど、腕前は確かだと思うわ」
情報が少ない。
どうなるかは明日にならないとわからないな……
残りの男性陣もボールを引いていき、涼葉さんや紫さん、笹垣姉の相手が決まっていく。いずれの男性も今市さんのように寿司職人として格が高そうな雰囲気を出している。
「本日の予定は以上となります! 明日の朝9時にまたこの場でお会いしましょう! 最後に改めて! 参加者の皆様、予選通過おめでとうございます!」
司会者の拍手の後、会場は暖かい拍手に包まれ、予選は幕を閉じたのであった……
◇◇◇
「鳥路さんお疲れ様!」
予選を終えた鳥路さんと合流し、鳥路さんの健闘を労う。
「色々危なかった」
鳥路さんはそう言うけど、そこまで危なげは……無かったよな?
「とりっじ凄かったよ! 緊張とかしなかった?」
「特には」
「スシバトル慣れしてますわね……」
鳥路さんの反応に金星さんが素直な感想を漏らす。
賀集さんが聞いてくれて思ったけど、こういう場所って本来は緊張するよな……
そんな中でも平然としている鳥路さんのメンタルは流石と言わざるを得ない。
「本番は明日よ。鳥路さんはゆっくり体を休めるように」
司先生が体育会系の部活の顧問みたいな言葉を鳥路さんに掛ける。寿司同好会の顧問だから正しいのだけど……本来は文化系の同好会なんだよなぁ……
少し離れた所では涼葉さんが宗鮨の職人さんと思われる人達からもみくちゃにされながら頭を撫でられていた。愛されキャラのようで微笑ましい。
……そこから更に奥で志苑が俺に向かって物凄い勢いで手招きをしている。
「……あ、すみません。ちょっと喉乾いたので、自販機で飲み物買ってきます! 良ければ、まとめて皆の分一緒に買ってくるけど……」
「ありがとう。お茶を買ってきて欲しい」
「私はコーラとかサイダー!」
「私は水をお願いいたしますわ!」
鳥路さんがお茶、賀集さんが甘いシュワシュワ系、金星さんは水ね。
「私も水で。はい、お金」
「わかりました! 少し待っててください!」
司先生からお金を受け取る。ありがたい。
さて、志苑の奴は何の用事だ?
アイコンタクトで意思疎通し、自販機のあるスペースで志苑と合流する。
自販機の稼働音が聞こえるぐらいには静かな場所だ。
「こっちにくれば良かったのに」
「嫌よ。気まずいし」
気まずいなら賀集さんと金星さんと早く和解した方が良いと思う。
「それで、どうしたんだ?」
「……お姉様、今日の予選で何が起きるか、最初からわかってたみたい」
「え? 確かに落ち着いてるというか、そんな感じだったけど……何か証拠でもあるのか?」
何が起こるかわかっていたからこその落ち着きようだったのか?
でも、そんな不正ができるような環境では無いと思うのだけど……
「審査員の粕田って男……寿司王国でお姉様と話しているのを見た事があるの。最近の話じゃ無いけど、知り合いのはず。もしかしたらお姉様は粕田を買収しているかも」
……司先生の粕田評を聞く感じ、あり得なくも無い関係だけども。
「うーん……そんな感じは……あるなぁ。でも、はっきりお姉さんが粕田を買収しているって証拠は無いんだよな?」
「それは……そうなんだけど……」
志苑の気持ちはわかる。わかるけど、訴える素材が足りない。
でも可能性を捨てきれないのが現状だ。
「粕田に不審な動きが無いか注意して見ておくよ。情報ありがとう」
「わ、私もそうするわ。信じてくれてありがとね」
目に見えて工作とかはしないとは思うけど……可能性があるなら、疑うべきだろう。
「そういえば、桐谷さんは一緒じゃないの?」
予選の時は志苑の隣にいたはずなんだけど。
「鳥路の予選突破が決まったらすぐに帰ったわよ。明日も来るって言ってたけど」
「用事かな? まぁ、特に用があったわけじゃ無いから良いんだけど……」
「鳥路が勝ち上がるのが前提だけど……二回戦目はお姉様と当たるわよ。継承戦のルールブックに目を通して、何が来ても鳥路をフォローできるように準備しなさい」
今市さんの事で後の事を忘れていた。志苑の言う通り、トーナメント表は確かにそんな感じだった気がする……そして笹垣姉が勝ち上る事は志苑に取って確定事項らしい。
「穴が空くぐらい読んでおく……ああ、悪い、皆を待たせてるから、そろそろ行くよ。何かあったら、チャットにでも連絡してくれ」
「わかった。また明日ね」
志苑はあっさりと別れの挨拶を済ませ、立ち去ろうとする。
「なぁ、やっぱ、明日は寿司同好会と合流しないか? お前が鳥路さんのために色々してくれてるのを知ったら、みんな許してくれると思うんだ」
志苑の足が止まる。
「……鳥路のためじゃなく、私のためよ。勘違いしないでよね。それにどうせ……何でもない。ま、夏休みが終わったら、いつも通りよ! 私がどういう人間か、忘れないことね! キャハッ!」
久しぶりに甲高い志苑の笑い声を聞いた気がする……キレは無いが。
変な事を考えてなければ良いけど……
……鳥路さん達を待たせる前に早く飲み物を買って戻ろう。
考えるのは家に帰ってからでも遅くないだろう。
笹垣姉とのスシバトル。俺達の準備が無駄になる事を、俺は願っている。
◇◇◇
サクセッションスシバトルクオリファイア おわり
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




