第181話 スシマニュアル⑥
前回のあらすじ:
関西イナリスカウトこと桐谷飛鳥と鳥路英莉のスシバトル。二人は涼しげな寿司をどう表現するのか。
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スシバーのスシキリでのスシバトル。普通のバーなので、ネタを置くスペースが見える所に無く、鳥路さんと桐谷さんの手元がよく見える。案外スシバトル向きの設備なのかもしれない。
……スシバトル向きの設備って何?
「鳥路はイカとイワシ……白と光もので見た目は爽やかな感じになりそうね。桐谷さんの方は……イカはともかく、マグロの切り付け小さくない? え、サーモン?」
志苑が実況しながら桐谷さんの手元を見て驚く。確かに、寿司ネタにしては小さい、しかも薄い? 包丁の技術の高さはわかるけど、これが寿司になるの?
「鯉でも泳がせるつもりですか?」
紫さんはそれを見て桐谷さんが何を作るかわかったらしい。鯉?
「ネタバレはあかんやろ。まぁ、鳥路の嬢ちゃんは違うもん握るからええか」
桐谷さんは余裕の表情を見せながら、イカに切れ目を入れていく。包丁が迷いなく引かれていくと、皮一枚残して線が次々と生まれていく。かなり細かいのに……すごい。
鳥路さんはどうだ? キュウリを薄く切ってまな板の上で塩をまぶしている。急に野菜が出てきたな……
「夏野菜は体温を下げますからね。涼しげな寿司のネタとしては適切でしょう」
そうなんだ。紫さんの表情は狐のお面のせいで何を考えているのか良くわからないけど……専門的な知識を教えてくれるのは助かる。
「桐谷さんが握りに入る!」
志苑の声を聞き桐谷さんの方に注目する。
桐谷さんはシャリを手に取り、その手でシャリ玉を作り……綺麗なまな板の上に置いた。それをもう一つ。
「え、終わり? 綺麗な形だけど、寿司ネタは?」
思わず声に出てしまった。
「ははっ、命を吹き込むのはここからや」
俺の反応に笑いながら答えてくれる桐谷さん。
桐谷さんは箸を使って、先程薄く切った小さなマグロとサーモンをシャリの上に乗せ始める。そ、そのために小さく切り分けていたのか!?
さらにそこに小さく切った海苔まで置き始める。こんな寿司ありなのか?
でもこのカラーリング、錦鯉の色っぽいかも? でも、これで鯉と呼ぶには……
「仕上げと行きますか……!」
桐谷さんは具材の乗ったシャリの上に、忘れていたイカを乗せ、それを手に取って軽く握って見せた。このタイミングで!
お皿の上に乗せられたその寿司は……上から見た錦鯉! イカの透明感が下の食材をぼかし、模様のように見える! すごい!
「腹ビレと尾ビレもいつの間に……! 流石はスシキリのトップ!」
志苑が興奮気味に桐谷さんの寿司を評価する。よく見ると細かく飾り切りしたイカの表面が鯉の鱗のように見えてきて、その完成度の高さに驚く事しかできない。
桐谷さんはもう一つの寿司を皿の上に置くと、尾の向きを調整し、二匹が円を描いて泳いでいるような配置にする。水が無いのに、水の中を優雅に泳ぐ二匹の鯉が見える……!
「……!」
鳥路さんも桐谷さんの寿司を見て驚いている。見た目もさることながら、寿司としての完成度も高い。味も一口ちらし寿司になると想像ができる食材しか使われていない。
「そうだ、鳥路さんの寿司……!」
桐谷さんの寿司に見惚れていた。鳥路さんはイカを握り終え、イワシをたった今握り終わったところ……どちらも直線の切り込みがくっきり見えており、特にイワシに関してはひかりものらしく、綺麗な寿司に仕上がっている。
シンプルながら美味しそうな寿司として見れるのは鳥路さんの方か。鳥路さんは手をしっかり洗い、最後のきゅうりを握り始める。
「塩揉みしたきゅうりの寿司……薄く切って二枚重ねてる感じね。飾り切りも素晴らしい。それを維持して握れるか、というところね」
紫さんが鳥路さんが握っているきゅうりの寿司を評価する。
鳥路さんはそんなプレッシャーを跳ね除け、見事にきゅうりの寿司を握って見せた。
シャリを包むような長いきゅうりが海苔で止められているような寿司。カッパ巻きの見た目を豪華にした感じだろうか……確かに薄く切られたきゅうりが重なっている。先端の飾り切りは草を模しているようで技術力も感じる。
「できました」
鳥路さんの寿司が完成。三貫揃うと夏らしい寿司だ。それでも色合いから涼しげさは感じる。桐谷さんは見た目、鳥路さんは寿司として、二人は別方向から涼しさを表現したようだ。評価の基準をどこに置くかで勝敗は変わってきそうだけれど……
「技術もある。知識も悪くない。ただ、自由やない」
「じ、自由?」
桐谷さんの発言に鳥路さんが反応する。寿司に自由って……何!?
「寿司が基本の寿司という形に収まっとる。動画も見せてもらったけど、紅白の海鮮丼も食べ物としての盛り付けの範疇やな」
函館の一件か。チャラ男のは論外として、鳥路さんの紅白のグラデーションが効いた海鮮丼は俺としては良かったと思っている。ただ、桐谷さんの言う通り、盛り付けの範囲といえばそうかもしれない。
「食べ物で遊ぶのは良くないと思います。桐谷さんの寿司がそうとは思いませんが……」
美味しさを高める事は鳥路さんにとって重要な指針だ。
「……とりあえず、うちの鯉ちゃんを食べてみるとええ」
桐谷さんに薦められ、鳥路さんは鯉を一匹、醤油を少しつけて食べる。
「……! シンプルなイカの寿司……でも、噛むと複数の魚介の旨みがやってくる! 互いを殺さずにしっかり一つの寿司として成り立っています……!」
スシバトル中にも関わらず、鳥路さんの目が輝く。やはり美味しい寿司のようだ。
「そう、見た目と味は両立できる。つまり、うちが言いたいのは……鳥路はもっと上に行けるって事。ただ、このまま行くと……」
桐谷さんの目線が紫さんに向く。
「継承戦、うちのボスには勝てへんな」
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




