第180話 スシマニュアル⑤
前回のあらすじ:
関西イナリスカウトから唐突なスシバトルの申し込み。
◆◆◆
普通のバーのはずなのに、シャリが用意されていたり、寿司に使う道具が次々と準出てくる。そんな様子を見て呆気に取られている間にスシバトルの準備が整っていた。
「な、何で普通のバーなのに寿司屋の一式揃ってるのよ!?」
志苑が関西弁のイナリスカウトにツッコミを入れる。
「バーはバーでもスシバーや。さぁ準備できたで、鳥路英莉の実力を見せて貰おうか」
カウンターの中で手を叩いて催促する関西弁のイナリスカウト。
もう完全にスシバトルの流れだ。助けて貰った手前、断りづらい。
鳥路さんも俺と同じ考えなのか、渋々カウンターの中に入っていく。
「……ルールは何ですか?」
「継承戦に向けて……飾り切りで勝負しようか。見た目重視、味は不味くなければ合格」
飾り切り……チャラ男のドラゴンみたいなやつか。確かに凄かったけど、味には何にも関係なかったんだよな。
関西弁のイナリスカウトは冷蔵庫を開けて食材を取り出している。今更だけど、勝手に使って良いのかな……一応聞いておこう。
「あの、ここって勝手に使って良いんですか?」
「ん? うちはこのスシバーの経営者やねん、何も問題ない。店の営業も夜からだしなぁ。全国に三店鋪しかない本格的な寿司と酒を楽しめるバー『スシキリ』をよろしく。ああ、もちろんお酒は君らが大人になってからな」
「え、ええ?」
そんな組み合わせアリなの? しかも三店鋪もあるって言ってるし、結構儲かってるのか? ……何でイナリスカウトしてるのこの人?
「スシキリの社長? 有名人じゃない……」
「笹垣、知ってるのか?」
「社長よりスシキリの店員の方が有名なんだけど、その人達をスカウト、教育しているのが社長って話は色んな所で言われてるわ。経営手腕は言わずもがな……凄い人だとは思ってたけど、まさか、関西弁のイナリスカウトだったなんて……」
志苑は憧れと困惑で半々といった表情を見せる。
「……って、そんなに有名なら顔と名前とかも?」
「桐谷飛鳥……さんですね。営業時間的に行きたいのに行けなかったのでお店の事はよく覚えています」
志苑ではなく、鳥路さんが彼女の名前を呼ぶ。そして行こうとしてたんだな……流石に高校生が行くお店では無いと鳥路さんは判断したようだ。
「なんや、知っとるんか。んじゃ、もうこれはいらんな」
関西弁のイナリスカウト……いや、桐谷さんが狐のお面を外す。
かなり顔は整っているけど、目付きは鋭い。ただ、怖いといった感想を抱かないのは桐谷さんの明るさやらキャラクターのおかげかな……
「え、外すんですか? 私だけ仮面被ってるのが馬鹿みたいじゃないですか」
またしても何も知らないコート姿のイナリスカウト、もう紫さんって事で良いかな。
「ボスも外したらええやんか。この子ら悪い子じゃないやろ?」
「この子達だから外せないんですよ」
何でだろうとは思ったけど……やっぱり一度どこかで会っている?
名前もわかっているし、ここまで来たら顔を見せても問題無い気がするんだけど……そうこう考えていたら、カウンターの上に食材がずらっと並んでいた。流石は寿司と酒のお店。
「ボス、何かお題出して」
「え。じゃあ……涼しげな感じで」
「うん、まぁ、ええやろ」
紫さんが言ったお題に若干の不満を見せる桐谷さん。主従関係とか、あんまり無いんだろうな、この二人。
「鳥路もええな?」
「涼しげな寿司ですね……わかりました」
鳥路さんが頷く。会話の間に道具の選定は済ませていたようで、鳥路さんはいつでもスシバトルできるようだ。鳥路さんが包丁を研いだりしていないから、このお店は手入れに力を入れているという証拠だ。
「よし。ぶっちゃっけ、勝敗はどうでもええ。あんたの力をうちとボスに見せてくれや……っしゃあ! スシバトルの始まりや!」
気合いの入った開始の合図で鳥路さんと桐谷さんが動き出す!
二人が手にしたのは同じ食材……イカだ!
「半透明で映えるから二人ともイカを選んだ感じね」
志苑が解説をしてくれる感じか?
「ケンサキイカの透明感は王道だと思いますが。それをどう活かすかまでは同じにならないでしょう」
紫さんもか。俺は黙って見てれば良いな。
普段ならギャラリーが盛り上がってるタイミングなんだろうけど、ここには観客が三人しかいない。ただ、歓声が無いにも関わらず、目の前の二人の動きを追っているだけで不思議とワクワクしてくる。実力者同士の戦い……久々に本物のスシバトルを見ている気がする。
イカが捌き終わり、二人は次の食材に手を伸ばす。
鳥路さんは、イワシ。桐谷さんは……マグロの赤身? 二人の作るものが異なる事が決定した気がする。
まだ二人とも準備段階でどのような形の寿司になるかは想像がつかない。
涼しげな飾り切りの寿司……二人はどう表現をするのだろうか。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




