第177話 スシマニュアル②
前回のあらすじ:
滋賀県から帰還した鳥路さんと合流。
◆◆◆
「ごめん……ちょっと時間が欲しい」
「お、俺もちょっと頭の中を整理するよ……」
「何で悪い方向に話が繋がるのよ……」
落ち着けそうなBGMが流れる喫茶店のテーブルで全員の情報共有が終わると、全員が頭を抱える状況になった。
白蛇と黒鷲の事、紫さんの事、滋賀県で遭遇したイナリスカウトの事、イナリスカウトに派閥が存在する事、学校で俺が撃たれた原因が俺っぽい事、笹垣姉がイナリスカウトで一連の事件における黒幕である事、寿司罵倒協会の裏に警察がいる可能性が高い事……あと、先日の鳥路さんのスシバトル動画がまたバズってしまった事も追加で。
俺も鳥路さんも志苑も同時に飲み物を飲み、そして一息ついて再び沈黙する。
……最初に口を開いたのは志苑だった。
「ええっと……お姉様のイナリスカウトの派閥が多分ガキ派で、ガキ派がサキ派と揉めていて、サキ派のトップが黒鷲の所持者で、黒鷲の記録上最後の持ち主が紫って人で、だからサキ派って事?」
笹垣のガキ、紫のサキでそれぞれの派閥の名前になってる感じか……とにかく、志苑が言う通りの状況で間違いないだろう。
「で、サキ派というか紫さんは寿司罵倒協会に恨みがあって、イナリスカウトとして内部から寿司罵倒協会を破壊しようとしてる感じ? 黒鷲と白蛇を揃える事も何か関係しているのかな? あと……桶ヶ丘襲撃の犯人で、演技のつもりがうっかり俺を撃った人も紫さんって事ね……」
目標である鳥路さんに初弾が当たらず、連射できるソルトガンで再び鳥路さんを狙わなかった上に速攻で逃げた理由が、まさか、俺達に当てる予定が無かったのに俺が急に飛び出してびっくりしちゃって撃ったからって……わかるかよそんなの! なんか俺が悪いみたいじゃん! 銃口向けて引き金に指置いてるからそうなるんだよ! そうだとしても、撃たれたもんは撃たれたんでちゃんと謝ってほしい。なんというか……怒りの矛先が半端になった事に苛立っている自分がいる。
「ガキ派の連中は大した腕前じゃない。でも、寿司罵倒協会のビジネスにはスシバトルで有利に立つ必要があり、寿司の技術が必要。ガキ派のトップである笹垣のお姉さんが帯刀さんの寿司マニュアルを欲しがっているのは自組織の強化のため……」
鳥路さんの発言内容も恐らく正しい。
全体的に俺達の推測の域はまだ出ていないけど……ほとんど正解な気がする。白蛇と黒鷲のオカルト話は結論が出ないのでしょうがないから除外するとして……俺達が置かれている状況は把握できた。
「あ、でも、志お……じゃなくて、笹垣のお姉さんって寿司職人としての腕前は確かなものがあるんだろ? 帯刀さんの寿司マニュアルがなくても、自分で部下を育てられるんじゃないの?」
寿司マニュアルはだいぶ分厚い内容だし。
「お姉様……人に物を教えるのが致命的に下手なのよ。性格がその……アレじゃない?」
「あ、納得した」
志苑がオブラートに包めない笹垣姉の弱点。容易に想像できてしまう。
笹垣姉を知らない鳥路さんは首を傾げるけど、鳥路さんは知らなくて良いと思う……
「スシバトル部に寿司を教えてくれていた寿司王国の社員も基礎的な部分だけだし、そもそも回転寿司のレベルだからね。部長の監修がなければ、お姉様のお眼鏡に叶わないのよ」
そんな人居たなぁ。寿司王国には立派な研修施設もあるのに、それはあくまで回転寿司としてって話になっちゃうのか。スシバトルがそれだけ特殊とも言えるけど。
改めて、帯刀さんは寿司罵倒協会にとってかなり重要な人物だったようだ。
「そうだ、鳥路! あんたが寿司マニュアルのUSBメモリ持っているんでしょ? どこにあるの!?」
鳥路さんは鞄からスマホを取り出し、スマホにぶら下がる新撰組スッシーを指差した。
「……スッシーじゃない。私、USBメモリって言ったわよね?」
意外にもスッシーの存在を知っている志苑。いや、俺が疎かっただけで有名なのか?
「小物入れになってる」
鳥路さんがスッシーの着ている新撰組の羽織を捲ると、背中にファスナーがあり、そこを開くと確かにUSBメモリが入っていた。
……小物入れにしても収納容量が小さすぎる。逆に何を入れるんだこれ。隠し場所としてはある意味最適解ではあると思うけど。
「あるわよね……何入れるか想定されてないぬいぐるみの小物入れ……というか、二人共、私を信用しすぎじゃない? 目の前にいるのはイナリスカウトの妹でちょっと前まで寿司同好会に喧嘩を売っていた奴よ? いきなり裏切るとか考えてない訳?」
……考えてなかった。鳥路さんもそんな顔してる。
「あんたらねぇ……」
呆れた表情を見せる志苑。そうは言っても裏切る様子は見せない。俺と鳥路さんの判断は正しいのでは?
「賀集さんと金星さんには迷惑をかけてるから謝った方が良いとは思うけど、私は笹垣が人を裏切る人間だとは思っていない」
鳥路さんははっきりと言い切った。
「その二人は……今は関係ないでしょ。それより、何で裏切らないって言い切れるのよ」
志苑と二人の確執はそう簡単には解消しないか……逆に賀集さんと金星さんはどう思っているんだろうな。それよりも、鳥路さんがどう考えているかが先か。
「結果はどうあれ、最後まで帯刀さんを裏切ったりしなかった。嫌がらせ目的の買い占めもちゃんとお店で消費する手立てありきだったし……アカマンボウもくれたし……食べ物を粗末にしない人間はそれだけで信用できる」
鳥路さんの記憶の中でアカマンボウは嫌がらせにカウントされていないらしい。当時は言い返していたと記憶してるんだけど……まぁ、美味しかったからなぁ……アカマンボウ。
「俺はあの姉の下で良くこの程度で済んだなって気持ちだよ。それに、利害が一致していれば頼もしいと思ってたところだし」
志苑にちょっと睨まれた。まぁでも本音ではある。
「はぁ……何なのよ、あんた達……」
そうは言いながらも少しだけ微笑む志苑。
相変わらず店内には落ち着く感じのBGMが流れ続けている。
……静かすぎる。おかしい。周囲には人が座っているのに、俺達以外の話し声が聞こえてこない。まさか……いや、そんな事あるか!?
「……二人共、この店から出よう。嫌な予感がする」
「え!?」
「いきなり何言ってんの!?」
驚く二人を横目に飲み物を一気に飲み干す。どこからともなく視線を感じる。
いつからだ? 三人で会話に集中していた時から? それとも初めから!?
俺が立ち上がると、周囲の人間も同時に立ち上がる。
立ち上がった全員が……姿格好は違えど、同じ狐のお面を被っていた。
「なっ……!」
鳥路さんも立ち上がり、咄嗟にスマホと新撰組スッシーを隠すように掴む。
「うわっ!?」
志苑は驚いて立ち上がれずにいる。
狐のお面を被った人間に囲まれている状況……怖すぎる。当然の反応だ。
「どうも、イナリスカウトです」
男の一人が俺達に話しかけてくる。方向はわかるけど、誰が喋っているかわからない!
「大人しく寿司マニュアルを渡しなさい。痛い目を見たくなければ、ね」
今度は女性の声! こいつらの目的は鳥路さんが持っている寿司マニュアル!
何でここにあるってわかったんだ!?
……くそ、一瞬でも志苑を疑ってしまった。こんな怯えた表情の奴がする訳ないだろ!
どうする? いや、どうしようもない……!
ここまでしてくるのか! 寿司罵倒協会は!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




