第176話 スシマニュアル①
ゴールドスター小田原でのスシバトルの翌日。鳥路さんが午後に神奈川に戻ってくるとの事で、急遽、新横浜駅で合流する事になった。
「鳥路の奴、マジで滋賀県でスシバトルしたの……? しかも、このイナリスカウトの偽物みたいな奴と……ほとんど手元の映像なのに再生数伸びてるし。それにしても、この配信者、後付けとはいえトークが上手いわね……」
俺は賀集さんから共有された動画を志苑と視聴しながら鳥路さんを待っていた。
「滋賀県の有名ストリーマーだったみたいで……運が良いのか悪いのか……」
鳥路さんは琵琶湖を三輪車で一周するとかで有名な人に遭遇してしまったらしく、滋賀とかそういうの関係なく再生数が伸びまくっている。鳥路さん、この事に気付いているのだろうか……
「それより、昨日のバカ鷲の話……信用して良いのね?」
「フレべは嘘だけは言わないからね。ただ……ちょっと話が大きくなりすぎてるってのが俺の感想だよ」
「お姉様や寿司罵倒協会に関する情報の削除依頼に警察が絡んでいるなんて……正直信じられないわ」
開示請求はもちろん削除依頼等も警察からの発信だったらしく、フレべも興奮気味だった。まるでオモチャを見つけた悪ガキのような……そんな感じ。気のせいだと思いたい。
とにかく、寿司罵倒協会の無茶苦茶なビジネスが通用していた理由の一つが裏に国家権力がいたからって事なので、笑えない話である。
「志苑も何かわかったからわざわざ俺達に会いに来たんだろ?」
「衣装は見つからなかったけど……部長に会っていた寿司罵倒協会の人間がお姉様だってわかった。部長に確認したから間違いない」
「それは……すまん、どうやってわかったんだ? 帯刀さんは直接顔を見ていたって事?」
「いえ、狐の仮面をつけていたそうだけど……声と話し方、香水の匂いの話ではっきりわかった。神奈川であんな馬鹿高い香水つけてるのはお姉様ぐらいよ。部長にも同じ香水を嗅いでもらって間違いないって言ってたし」
声や話し方はともかく香水か……直接会った時に匂いまで気にする余裕はなかったけど……わかる人にはわかるものなのだろうか。妹の志苑が言ってるのだから、信じても大丈夫か……
「ん? 昨日帯刀さんと会ったって事?」
「そうだけど? そろそろ例の寿司屋のおっさんが旅行から帰ってきて、修行で忙しくなるって言ってたわ。それまでは与えられた課題をこなすために家に篭ってるって。まぁ、顔色は良かったけど」
「あの寿司屋の人、結構スパルタなのか?」
「さぁ? 部長なら大丈夫だと思うけど」
まぁ、色々あったけど元気そうで何よりだ。
「と、とにかく、志苑のお姉さんは寿司マニュアルを欲しがっていたし、そのイナリスカウトはお姉さんで確定で良さそうだな……」
「部長にマニュアルを私に託すように言ったのもお姉様だったみたい。お姉様にとって妹の私から物を奪うのなんて造作も無い事だから都合が良かったんでしょうね」
姉の話になると志苑の言葉にキレが一切無くなる。身内が国家権力と連んで暴れているんだ……無理もない。
「志苑が俺達に寿司マニュアルを託してくれなかったら、もっと大変な事になっていたかもな」
「逆よ。寿司同好会を巻き込んで、こんな面倒な話にならなかったわ」
自虐的な志苑はこっちも調子が狂う。面倒な話にはなっているけど、いずれこうなったとは思うんだよな……それに、笹垣姉はなぜ寿司マニュアルに固執している? 黒鷲も欲しがっていたし……姉は姉でよくわからない人物像なんだよな。
「山本くん、お待たせ」
「うおっ! 鳥路さんか! 長旅の帰りに時間取ってくれてありがとう! あれ、荷物はそれだけ?」
鳥路さんが合流! 滋賀で二泊したにしては荷物が少ない気がする。
「お父さんが持ってくれるって」
鳥路さんの目線の先には桜香さんと明仁さんがおり、笑顔でこちらに手を振ってくれていた。俺と志苑は慌てて頭を下げる。ご両親は特にこちらに近づこうとせず、そのまま立ち去ってしまった。
「それより……どうして笹垣がここにいるの?」
「い、いちゃ悪い訳?」
「目的を聞いているだけ」
目を細める鳥路さん。まぁこの反応は仕方が無い気もする。
「志苑とはたまたま同じ事を調べてたみたいで……協力して調べ物していたんだ」
「そうよ! そういう事!」
志苑も俺の話に合わせてくれた。協力的で助かる。
「……志苑? なぜ下の名前で? 本当に何があったの?」
鳥路さんから、なんか、すごい、突き刺さるようなオーラが……これが、寿司圧?
「ヒッ! いやいやいや、違う違う違う! 鳥路が思ってるような関係じゃ無いから! 山本は私とお姉様を区別するのに下の名前を使ってるだけだから! わかった!? ここら辺の気温下がってるからね!?」
俺より先に志苑が詳しく事情を説明してくれた。俺は鳥路さんに向かって頷いて志苑の話が真実である事をアピールする。
「はぁ……そういう事……理解した」
呆れたような安堵したかのような溜め息をつく鳥路さん。誤解が解けたようで本当に良かった。
「それより……どうして笹垣のお姉さんが出てきたの?」
「ちょっと話が長くなるんだよね……喫茶店に移動してから話さない?」
「……わかった」
鳥路さんも笹垣の様子を見て何かを察したらしく、大人しく俺の提案に同意してくれた。
この数日で状況は一変している。それも、とても悪い方向に……鳥路さんに上手く説明できると良いけれど……
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




