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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
165/174

第165話 ゴーストオブスシ⑤

前回のあらすじ:

サボタージュ要素が消え、普通のスシバトルが始まる。


◆◆◆


 涼葉さんの寿司圧(物理)により、雑喉谷の妨害手段は封じられ通常のスシバトルがつつがなく進んでいく。

 ハモの捌き方はアナゴやウナギと同じと思っていたけど、背開きじゃなくてお腹からやるんだな。似ていても種類によって調理法が異なるのは料理の奥深さを感じる。


「私、ハモの骨切りのゴリゴリ音を聞くのが好きですわ」


「まぁ、良い趣味をしていらっしゃいますね。ASMRにしてはどうでしょう」


 ギャラリーの声量は普段より控えめだが、普段とは違い会話が聞こえてくる。

 涼葉さんと雑魚谷の包丁さばきは意外にも互角に見える。ハモの背骨が取り除かれ、身が開かれた状態になると、二人は無骨な包丁を手に取った。長方形のようなフォルムで中華包丁を少しスマートにしたような見た目。


「関東のレストランにハモ用の骨切り包丁があるなんて……ここのシェフは何者なんだろうね?」


「関西の方かしら。ハモといえば関西の夏の風物詩ですわ」


 確かに神奈川じゃあんまり馴染みがない魚だ。ギャラリーの方々の知識が豊富で勉強になる。生活圏が異なるとスシバトルの雰囲気も変わるんだな……金星さんがスシバトルをエンタメに昇華したい理由がこの場であれば理解できる。


「くっくっくっ……俺はサボタージュなんかしなくてもなぁ、関西の老舗で修行した調理技術がある。クソガキ相手に負けるはずがねぇぜ」


 雑喉谷はそんな事を言いながらも、丁寧な所作でハモを刻んで……いや皮一枚で繋がってるのか。小骨が多いから取り除くんじゃなくて、骨を切ってるんだな。なるほど。確かにギャラリーが言うようにゴリゴリやらコリコリという音が心地良い。

 涼葉さんも骨切りの作業に移っている。老舗で修行したという雑喉谷に引けを取らずきっちり皮を残して刻んでいるように見える。

 どことなく涼葉さんから鳥路さんと同じような雰囲気を感じる。


「なかなかやるな……口だけじゃねぇようだ」


 涼葉さんの調理する姿を見て、ずっと下衆な雰囲気を出していた雑喉谷の雰囲気が変わる。


「ただのクソガキなら適当にやっても勝てると思っていたが……話が変わった。おい、スタッフ換気をしろ。やすしは例の物も持ってこい」


 雑喉谷がホテルのスタッフに換気を指示! 何をする気だ!?

 スタッフによって窓が開けられ、夏の爽やかな風が僅かに入り込んでくる!


 一方で雑喉谷は七輪に木炭を入れて、ガスバーナーで火を付ける!

 さらに雑喉谷は部下が持ってきた小さめの壺を受け取った!


「……ハモの蒲焼ですか」


 その様子を見た涼葉さんが雑喉谷の調理方法を言い当てる!


「この壺の中には俺がハモの骨や身で煮込んだ特製のタレが入っている。クソガキ……いや、今のお前には届かない領域だ。そこで差を付ける」


 雑喉谷は涼葉さんの技量を認めて料理人として真面目に勝負を仕掛けてきている……! チャラ男とか鎌瀬みたいなヘボでは無い!


「なるほど……ではその努力に負けない技量で私はハモを握りましょう」


「へっ、お前に俺を挑戦者扱いするだけの技量があればの話だがな!」


 双方が改めて啖呵を切り、涼葉さんの表情がより一層引き締まる! 

 ……最初のサボタージュ要素いらなかっただろこの二人!


 雑喉谷が捌いたハモに金串を刺している間に、涼葉さんの方はお湯を沸かしている。霜降りか一回お湯に潜らせる感じな?


「涼葉は湯引き、相手は蒲焼きか。同じハモでも違う味わいの寿司になりそうだね」


 寿司王が語るように、同じ食材でも調理方法で違うものになる。どちらが寿司として完成度が高くなるのか……腕前以上にそこが重要になるのかもしれない。


「ハモは淡白ですが深い旨味を持つ魚。楽しみですが……そういえばどなたが審査員をされるのでしょうか」


「あ、確かに……」


 金星さんに言われて気付いた。何貫握れば良いのかわからないし、確認した方が良いだろう。

 とりあえず観戦に回っている雑喉谷の部下に聞いてみるか。 


「えーっと、康さん? であってます? ルールの確認なんですけど、審査方法は決まってますか?」


「あん? ああ……あっ! すまねぇ!」


 忘れていたっぽい。


「観客から適当に三人選んで審査させるぞ! 雑喉谷の兄貴、がきんちょ! 最低でも三貫は握ってくれよな!」


 涼葉さんと雑喉谷に必要数を伝える部下の人、それを聞いて頷く二人。

 観客から選ばれると聞いてギャラリーがちょっとだけソワソワし始める。

 まぁ食べたいよなぁ……ハモの寿司。


 このタイミングで雑喉谷がハモを焼き始める。香ばしい匂いが漂い始める。鰻屋は匂いで食わせるみたいな話があった気がするけど……その理由がよくわかる。

 一方の涼葉さんは沸いたお湯に塩を入れて……味見した。食材を潜らせるお湯の味見をする人は始めて見た。少し塩が足りなかったのか、涼葉さんはパラっと少しだけ塩を足した。雑喉谷に比べると絵面は地味である。

 

 雑喉谷の方は自家製のタレをハモの表面に塗り、もう一度焼き始める。これはもう一回タレを塗って二度焼きにする感じか。タレが炭火に落ちて更に良い匂いが会場を包み始める。

 

「良い香りですなぁ」


「食欲が湧きますねぇ」


 ギャラリーも香りを楽しんでいる。雑喉谷が蒲焼を選んだのはこれも狙っていたのかもしれないな……

 

 涼葉さんはそんな香りに惑わされる事なく、自分の作業に集中している。涼葉さんは沸いたお湯に20秒ぐらいハモを通すと、取り出して氷水で締めた。これが湯引きか。

 ハモの熱が取れたタイミングで氷水から取り出して、キッチンペーパーでしっかりと水分を取る……涼葉さんは一連の作業を流れるように作業を進めていく。


「女の子の方は用意されていた梅干しを手に取りましたな、梅肉ソースでしょうか」


「ハモと相性が良いですからね。だから置いてあったのでしょう」


 唐突にあるなと思ったらそういう事か。

 涼葉さんは梅干しを一つ口にして、酸っぱそうな顔をしながら頷く。

 ギャラリーの予想通り、涼葉さんは梅干しの種を除いてから包丁で叩き、梅肉のソースを作っていくようだ。


「さぁ、焼き上がりだ……!」 


 雑喉谷の蒲焼が完成する! 見ただけで美味しいとわかるビジュアル! ギャラリーも盛り上がる! やはりこの男……実力派! あとは握りの技術がどうか!

 涼葉さんも握りに移行している! 寿司の味の実力は知っているけど、握りの技術を見るのは俺も今日が始めてだ。両者どんな寿司を見せてくれるのか……!

 勝負を決めるであろう握りが始まる!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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