第162話 ゴーストオブスシ②
前回のあらすじ:
ゴールドスター小田原。
オーシャンビューを堪能できる高級リゾートホテル。
お値段は、まぁ、お察しである。
◆◆◆
ゴールドスター小田原に入ると、明確に教育が行き届いたスタッフの動き、そもそも綺麗な建物内部、高そうな絨毯、ほんのりと流れる優雅なBGM、そして程よい温度の空調……俺はこんな格好でここに来てよかったのだろうかと心が苛まれる。
すがるように周囲を見渡すと、金星さんみたいなビシッとしたフォーマルな感じの人もいれば、俺みたいなラフな格好の人もいる。ゆ、許された。
「何をキョロキョロしていますの? かえって目立ちますわよ」
若干呆れ気味に俺の行動を注意する金星さん。
「ごめん。でも、心の安寧は確保したから大丈夫!」
「なんですのそれ……」
金星さんに本当に呆れた口調で言われてしまった。
父さん、母さん、後学のために俺をもっと高い店に連れて行ってください。
金星さんの案内でレストランを兼ねているロビースペースに移動すると、寿司王と涼葉さんが待っていた。俺達の姿を見て二人とも立ち上がって出迎えてくれる。
「わざわざすまないね。少し遠かっただろう? 食事をしながお話をしようか」
「金星さんも山本さんもお疲れ様です!」
寿司王はいつもの着物姿、涼葉さんは俺と似たカジュアルな私服姿出会った。
よかった、仲間がいた。
「宗十郎様も涼葉さんもご機嫌麗しゅうございます。こちらのラウンジのメニューはいずれも金星グループ自慢の逸品ですわよ」
「すみません、急に参加しちゃって。よろしくお願いします」
金星さんの様になってる挨拶に対して、どこかぎこちない俺。
「食事は賑やかな方が美味しいですからね! ささ、お座りください!」
涼葉さんの案内でテーブルに座る。金星さんが気になる事を言ってたけど……まさかね、いや、そんなこと……三人とも和やかにメニューから料理を選んでるし、大丈夫だよな。
「うぐっ」
メニューを開くと……ハンバーガーが俺の知ってる十倍の値段だった。
和牛でスマッシュで「罪深い」からか?
「ん? ああ、もちろんここは私が出すので、遠慮なく好きな物を頼んでくれて良いからね」
ありがとう寿司王! 金星さんからの視線は感じるけど、俺だけ水にならなくて良かった!
◇◇◇
注文された品がテーブルに出揃う。
寿司王は鯵のなめろう御膳、涼葉さんは俺の目にも入った和牛のスマッシュバーガー、金星さんはクラブハウスサンド、そして俺はゴールドスター小田原オリジナルカレーである。これであの値段か……全員で静かにいただきますをして、まずは一口。
「おお……すごい」
スパイスが効いてる日本のカレーという味。風味が豊かでそこらのカレーとは格が違うというオーラを出している。付け合わせの小さいピクルスとアーモンドのスライスもすごく合う。流石は金星グループ自慢のメニューだ。
「涼葉さんはもしかして、鳥路さんのスマッシュバーグ寿司からそのハンバーガーを選びましたの?」
美味しそうに頬張る涼葉さんに金星さんが尋ねる。
「はい! この豪快に重ねられたいくつもの具材と合わさると格別です! 鳥路さんはよくこれを寿司にしようとしましたね……」
なんだかんだ涼葉さんの料理を見る目が職人のそれである。お母さんが元ホテルのシェフなのもあって、洋食に全然抵抗が無いんだな……塩一粒の涼葉なんて志苑は呼んでいたけど、正直涼葉さんは小動物的な可愛さはあっても、凄みとかはあまり感じない。
「さて、先に山本くんの話から聞こうかな」
お茶を一口飲んで寿司王が俺に用件を確認する。
「……白蛇の対となる包丁、黒鷲について教えてください。それと、前回、黒鷲の存在を教えてくれなかった理由についても」
寿司王は目を見開くが、首を横に振ってからまっすぐ俺の目を見る。
金星さんには事前に伝えており、寿司王に説明を求めるように視線を向けている。
「必要なかったから……と言っても君達は納得しないだろう。ここには梨寿くんもいない……他言無用を条件にお話しよう。約束できるね、金星くん、山本くん?」
頷く俺と金星さん。涼葉さんは知っている話なのか。それにどうして司先生が出てくるんだ?
……涼葉さんは変わらずハンバーガーを頬張っているけど、その目は真剣だ。
「黒鷲の前に……梨寿くんの元ライバル、紫心陽について説明せねばなるまい」
「ライバル……ですか」
元々スシバトラーだった司先生にはライバルがいたのか……スシバトルのライバルって何? そんな感情込みで言葉が口から漏れ出した。
「心陽姉様は鉄火の梨寿と互角の腕を持ったスシバトラーです。冬の心陽とか、吹雪の心陽みたいに呼ばれていたそうです」
涼葉さんが紫さんについて補足をしてくれた。お名前に対して異名が寒そうな感じだし、鉄火の梨寿と対になってそうだ。そして、涼葉さんは心陽さんと面識があるようだ。
「心陽くんはかつて寿司を守る会に所属していたメンバーの一人だったのだが……ある事件をきっかけに行方不明になっている」
「行方不明!?」
寿司王の口から不穏な単語が飛び出し、聞き返してしまった。
「少し誇張しすぎたね……正確には音信不通、所在不明。生きてはいるはずなんだが、寿司を守る会から突然消えてしまった」
少し訂正する寿司王。そこまで意味は変わってないけど……生きているのがわかっているならまだマシか……
「勅使河原様。その紫さんというお方と黒鷲はどのような関係をお持ちなのですか?」
金星さんが紫さんと黒鷲の関係を寿司王に聞く。
黒鷲の話題に出てきたと言う事は関係があるのは間違いないのは俺でもわかる。
金星さんは早く結論を確認したいがためにそのような聞き方をしたのだろう。
寿司王は呼吸を置いて、静かに口を開く。
「……彼女こそが、共に所在がわからない黒鷲の……記録上、最後の所持者なのだ」
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




