第160話 ダブルトラブルメイカーオブザスシビジネス⑥
前回のあらすじ:
白蛇と黒鷲は伝説の包丁から曰くつきの呪われた包丁に称号が変化した。
フレべには笹垣志織の本性を調査するように依頼をした。
◆◆◆
「非業の死……? 単なる昔の包丁だろ? 変なオカルト話がくっついただけの」
高校生二人が夏の怪談話をするところから始まるホラー映画の導入かと思ってしまった。昼下がりのカフェだから怖さは半減だけれども。
……話を切り出した志苑は真剣な表情のままだ。
「昭和に白蛇と黒鷲を両方揃えた寿司職人がいたのだけど、所持してから一年で繁盛していたお店は火元不明の火事で全焼、自身もその炎に焼かれて死んだ。何一つ残っていない現場から出てきたのは無傷の二本の包丁……それ以降、その包丁は呪われた双子の包丁と呼ばれるようになり、別々で管理されるようになった……噂話をまとめるとこんな感じね」
まとめたって事はバラバラに広まった噂を志苑が整理したのか?
呪われた双子の包丁ね……やっぱ二本で一組なのか。寿司王は何を隠している?
「本当は過去の事件の記録とかから現実の話か検証してやりたかったけど……ちょっと難しそうだから諦めたわ。人によって言い方とか違うし……今話した内容も本当かは確証がないわよ」
そう言って、アイスコーヒーを飲んで一息つく志苑。
俺も話の合間に自分の飲み物を飲んでいるが、甘すぎて体が塩っけを求め始めている。
「……いや、知らない話だったから助かる。それに、二本セットが危険なのは正しい気がするな。寿司王のおっさんが黒鷲の事を隠してたし……何かあるよ」
咽せる志苑。
「ゲホッゲホッ! 今なんて!? 寿司王!? あんた勅使河原宗十郎に会ったの!?」
やっぱ有名人なんだな寿司王。
「お孫さんの天才寿司職人とも知り合いだよ、寿司同好会全員」
「塩一粒の涼葉とも!? どんなコネ使ったのよ!?」
涼葉さんにそんな称号が!?
「いや、まぁ、函館旅行の帰りの新幹線で色々あって……そこで寿司王が鳥路さんを気に入ったのがきっかけかな……」
「はぁ……やっぱり鳥路英莉か。寿司に愛されてるというか呪われているというか……そういえば今日は一緒じゃないの?」
志苑はストローでアイスコーヒーの氷をかき混ぜながら鳥路さんの所在について聞いてくる。
「家族で滋賀県のおばあさんの家だってさ」
「それで寿司マニュアルが滋賀にあるとか言ってたわけね……」
鳥路さん、朝から出発するとか言ってたし、もうとっくに着いてそうだな。
「それより旅行なんてしてる暇あんの? 包丁の話したって事は出るんでしょ継承戦。流れ的にも鳥路英莉が」
「寿司同好会代表なら鳥路さんしかいないしね。しかも顧問のお墨付き。志苑のお姉さんも寿司王国代表で出るんだろ?」
イナリスカウトとして出るなんて言うはずも無いしな。
「その通りよ……怪しげな包丁をお姉様が欲しがる理由はわからないけどね。電話で何か揉めてたし……」
「揉めていた?」
「継承戦の話を電話でしていたみたいなんだけど、邪魔をするなとか余計な真似をするな、とかなんとか。お姉様の邪魔するやつなんて余程の命知らずか、かなり格上の相手って所かしらね?」
少し自嘲気味に笑う志苑。俺達はこれから命知らず側になるわけだもんな。
「そう言えば……寿司王はイナリスカウトが出てくるとか言ってたな。志苑のお姉さんが寿司王国代表で出るなら、もう一人かそれ以外のイナリスカウトが出てくるのか」
「そもそも目立つ格好で継承戦に出るはず無いでしょ。格好も寿司を握る格好じゃないし」
志苑の言う通り、黒いコートに白い狐のお面、懐には大きなソルトガン隠しているイナリスカウトの装備は寿司を握るには少し無理がある。
「寿司罵倒協会名義で出るはずもないだろうし、やっぱお面外して出てくるよなぁ……」
姿を隠したい理由があるなら別だろうけど。
「ん……? 志苑のお姉さんがイナリスカウトなら衣装を持ってるって事だよな? 寿司王国の神奈川本店から出てきたとも言ってたし……もしかして、衣装はそこにあるんじゃないか?」
「あ! た、確かに……!」
志苑は飲んでいたアイスコーヒーを少し強めにテーブルに置いた。
戻ってきた姿がカメラに映っていれば確実だけど……現段階でも可能性はゼロじゃない。
「志苑の実家みたいなもんだろ。何とかならないのか?」
「なるわよ! なるけど……」
自信あり気な表情を見せた志苑だったが、すぐに目を伏せてしまう。
「……どうした?」
「これでお姉様がイナリスカウトじゃなかったら……私、実の姉を疑った馬鹿な妹になるわね」
「今更だろ」
「な!? ちょっと! どういう意味よ、それ! 私の事馬鹿だと思ってんの!?」
テーブルに乗り上げる勢いで突っかかってくる志苑!
「違う違う! 妹に疑われるような姉の時点でもうダメだろって話! むしろ見つからなかったらそれで良いだろ。お前の姉はスシバトルを悪用する人間じゃないって証明されるだけじゃないか!」
「そ、そうかもしれないけど……!」
誤解を解いて、何とか志苑を席に戻らせる事ができた。
「そうじゃなかったら……妹のお前が目を冷まさせてやれ。正直俺には酷い姉だとしか思えないけど……お前にとっては大事なお姉様なんだからな」
「……」
じっと俺の目を見る志苑。変な事は言ってないはずなんだけど……
「な、何だよ。そこまではちゃんと俺も手伝うって」
「あの時、あんたがスシバトル部に居てくれたら……いえ、何でもないわ」
首を振って言葉を飲み込む志苑。
「鳥路英莉があんたを選んだ理由がわかった気がする」
急になんか悟った雰囲気を出す志苑に困惑する俺。
「鳥路さんが俺を? 何に? ああ! 友達にって話か!」
「……あんた正気? それとも雑魚なの? はぁ……少しでも見直した私が馬鹿でしたぁ」
「何だよそれ!」
呆れを越して哀れんでるような目で俺を見る志苑。本当に何!?
「……正直その話はどうでも良いわ。とにかく、証拠集めはやってみる。お姉様にバレないようにはするけどね」
「お、おう」
俺はまだ引っかかってるんだけど……志苑から迷いのような物を感じなくなったから良いか……
「山本はこれからどうすんの? バカ鷲の結果を待つだけとは言わないでしょうね」
いつもの志苑に戻ってきたな。
「寿司王に話を聞きに行こうと思う。名刺の連絡先は俺もメモ取ってるし……アポを取ってから行けば何とかなるよね?」
「ならないわよ。寿司王を舐めすぎじゃない?」
「だよなぁ」
やっぱそう言う人かぁ……困ったなぁ……
「……金星瑠璃子。あいつに頼みなさい。あいつは私よりもこの手の話が得意だから、どうにかできると思う」
「金星さんか! 確かに何かコネありそう! 聞いてみるよ!」
金星さんなら本当にどうにかできそうだ。
金星さん、夏休みの間は何をしているんだろう。普通の学生の過ごし方は絶対にしていない気がするけども。
「ああ……あとは、ちょっと待って」
志苑は鞄からスマホを取り出し、少し操作してから俺に画面を見せてくる。
「ん」
「……ん? あ、ああ、QRコード! 連絡先ね!」
志苑が機嫌を損ねる前に気付けて良かった。
俺はスマホで志苑の画面からQRコードを読み込み、友達登録してから適当なスタンプを送った。
「……何これ?」
怪訝そうな顔で画面を見る志苑。送ったスタンプは「スッシーカッター!」である。確かに意味わからんな。
「スッシーのスタンプ。鳥路さんがいっぱい使ってくるから、俺も買っちゃった」
「はぁ……まぁ良いわ。何かあったら情報を共有しましょ」
志苑は俺に「よろしく」とだけ文章を送り返して、スマホを鞄に仕舞った。
「とりあえず今日の所はこの辺で良いかしら?」
「そうだなぁ……一度俺も自分で話を整理してみるよ。今日はありがとう。助かった」
「お礼を言うのは私の方なんだけど……と、とにかくありがとね! これからも私のために役に立って貰うわよ!」
「適当に頑張らせて貰うよ」
志苑は俺の適当な言葉に満足した様子を見せ、帽子を被り、飲み終わらなかったアイスコーヒーを持って立ち上がる。
「……少し早いけど、ここで失礼するわ。予定が無ければあんたがそれを完食する所を見届けてやってもよかったんだけど」
「別に面白くはならないぞ」
俺のシングルベンティキャラメルアーモンドエキストラホイップキャラメルソースバニラクリームフラペチーノはまだ半分ぐらい残っている。主にクリームが。
……冷静に考えたら男一人で飲むにはちょっと恥ずかしいなこれ。
志苑はその様子を想像したのかにんまりと笑みを浮かべる。
「それもそうね! 心置きなく帰れるわ!」
「ああ。とりあえず……気を付けてな」
「わかってる。じゃ」
志苑はそのまま振り返らずにお店から出て行った。
姉の圧力に負けずに頑張ってほしい。
正直、志苑に関しては生意気な子供という印象が強かったけど、こうして一対一で話してみると印象はガラッと変わった。
少し卑屈で真面目な側面を見ると、そんなに悪い奴では無いのかもしれないと思ってしまう。
……でもそうなると、ねこまた寿司の一件で賀集さんに酷い事を言ったのは、ちゃんと本人に謝ってほしい。あいつが賀集さんと金星さんを敵視しているのもなんか理由があるんだろうけど……
交友関係が広がると、こういう悩みも増えてくるんだなぁ……
爽やかなだけが青春ではないのだと感じながら、俺は甘ったるいフレペチーノを啜るのであった。
◇◇◇
ダブルトラブルメイカーオブザスシビジネス おわり
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




