第159話 ダブルトラブルメイカーオブザスシビジネス⑤
前回のあらすじ:
かつての敵、笹垣志苑と協力する事に。
◆◆◆
笹垣志織が去って少し落ち着いた所で、俺と志苑はファミレスを出て近くのカフェで作戦会議を開く事にした。少し騒いで迷惑かけてしまったからね……
学生は夏休みだけど、社会人にとって今日は平日のはず。その割にはカフェに結構人が入っている。空いているテーブルがあって良かった。
「……あんたそれ何頼んだの?」
志苑が俺の注文した飲み物を見て訝しみながら尋ねてくる。
「何って……シングルベンティキャラメルアーモンドエキストラホイップキャラメルソースバニラクリームフラペチーノだが?」
「長い長い長い! 何で無駄に女子力高いのよ!?」
「妹はもっと長いの頼むぞ」
「とんでもない兄妹ね……」
妹の輝理のおかげで無駄にオーダーに詳しくなってしまったからな……
志苑はコールドブリューのアイスのグランデか、しかもブラック。輝理の奴は絶対飲めないな。
「……お姉様が悪かったわね。誰にでもあんな感じだから」
あれが許されるのは実力と権力が両方備わってるという事だろう。
そうでなきゃ滑稽だし、そもそも志苑が尊敬する要素も無くなる。
「気にしてないよ。お前の方こそ大丈夫なのか? 日頃からあんな感じ?」
「まぁ、私の出来が悪いのが良く無いから……昔はもうちょっと優しかった気がするけど」
遠くの景色を眺めながら志苑が答える。
うーん……そういう問題じゃ無い気もするんだけどな……
「それより、どうすんの? 寿司罵倒協会をぶっ壊すって言ったけど、具体的な策とかあるわけ?」
志苑は少し目を細めながら俺に策を聞いてくる。
「それは……これから考える所だ。こいつも含めて、な」
「こいつ?」
首を傾げる志苑を横目に俺はスマホを取り出し、FaiNを起動する。
「フレベ、特定の個人の情報を調べたりってできるか?」
「バカ鷲の事? 確かに調べ物は便利だけど」
「その声はシオンですね!? いつもバカ鷲では無いと言ってるではありませんか! 私は! 真実の大鷲、Hraesvelgrです! そもそもアオイもフレべ呼びをやめてください! その呼び方を許しているのはナルだけです!」
スマホの画面で地団駄を踏みながら怒りをアピールするフレべ。
「え、声で誰が喋ってるかわかるの!?」
志苑は普段一人で使ってる感じか。普通はそうだよな。
「五人ぐらいで話をしていても普通に会話に参加してくるよ。で、フレべ、できるのか?」
「はぁぁぁぁ……エリの友達じゃなかったら無視するんですが……それで? できますけど何を調べれば良いのですか?」
この場に居ない鳥路さんに救われたな!
「笹垣志織について調べて欲しい。寿司王国のお偉いさん、目の前にいる志苑の姉だ。寿司屋を潰し回っているとかそう言う不穏な噂があれば嬉しい!」
「わかりました! 少しお待ちください!」
分厚い辞書を開いて調べ始めるフレべ。モーションが豊富だよなぁ……
「てか、山本はどうやってFaiN-Proを手に入れたの? 一部ユーザからの招待制でしょ?」
「あ、そうなんだ……俺と鳥路さんは函館のオープンキャンパスで開発者の人の話を聞く機会があって、なんだかんだでフレべと鳥路さんがスシバトルする事になって……そこからかな」
「函館まで行って何してんのよ……」
志苑の言う通りである。改めてとんでもない旅行だったな。
「そう言う志苑はどうやって知り合ったんだ?」
「……バカ鷲から夏休みの前に何度もメールが届いてたんだけど、全部無視してたらパーフェクトメカニックのドメインメールで届いて……そっから」
「必死すぎる……てか、何でフレべは帯刀さんじゃなくて、志苑にアプローチしたんだ?」
帯刀さんに比べたら志苑の寿司の技術はそこまでだし、立ち位置も副部長だしな。
「部長はその……普段はメールとか全然見ない人だから。電話は反応早いんだけど」
「意外だな……」
SMSは使ってたし、別に機械音痴って訳じゃないよな?
「笹垣志織について調べ終わりましたよ! 悪い噂やコメントは一切確認できませんでしたね!」
「マジか、意外だな。あ、いや、ごめん、志苑は尊敬してるんだもんなお姉さんの事……」
とは言え、あんな側面を見せられたらなぁ……
「別に良いわよ。お姉様は表面上は寿司王国を盛り上げた第一任者で人格者って事になってるから」
「俺にはいきなり裏の顔だったんだけど?」
「お姉様は相手を敵認定すると豹変するのよ……」
俺が何したってんだよ……
「フレべが調べて何も出ないなら……どうしようもないか」
「いえ、何も出ないのはおかしいですね! 私の経験上、どんなに素晴らしい人に対してもアンチや妬みコメント、意味不明な誹謗中傷が存在するものです! ナルに対してアンチコメントするようなアカウントは全員凍結させてやりましたけどね!」
しれっと何やってんだこのAI!?
それより、何も出ないのは確かにおかしいのかもしれない。笹垣志織は自分に都合が悪いコメントとかを消し回ってるって事?
「少し時間は掛かりますが……ニックに削除された情報をサルベージしてもらいましょうか? 私はあくまで表面上の情報しか見れないので。大変不服ですが仕方がありません!」
ニックって前にも言ってたけど……誰? 仲は悪そうだしビジネスパートナーみたいなものか。AIが?
「頼む他ないんじゃない?」
志苑の言う通り、他に手掛かりもないしな……
「そうだな……フレべ、お願いするよ。参考までにどれくらい掛かるんだ?」
「わかりました! まぁ、ニックはやる気が無いですが24時間程度あれば終わるんじゃ無いですかね。私もしばらく席を外します! 何かあればチャット欄に書き込んでおいてください!」
長いのか短いのかわからんけど、丸一日か。あとやる気が無いって表現は本当に正しいのか? フレべは離席中の看板をぶら下げ、本当にどこかに行ってしまった。
……便利なのか不便なのかわからないな、このアプリ。
「さて、俺達は俺達で何するか決めるか……そうだ。志苑も包丁継承戦について調べたんだよな? 何か知ってる? 俺はネットに落ちてるよくわからん創作ぐらいしか知らないんだけど」
俺がそう尋ねると、志苑はおでこに手を添えて少し考えてから口を開いた。
「噂話よ? うちの従業員というか寿司職人の間では結構有名な話なんだけど……」
志苑はあまり信じていないのか、溜め息をついてから話を続ける。
「……白蛇と黒鷲の両方を手にした寿司職人は非業の死を遂げるって話」
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




