第158話 ダブルトラブルメイカーオブザスシビジネス④
前回のあらすじ:
笹垣姉襲来!!
◆◆◆
「あなたが……笹垣のお姉さん……!」
平和だったファミレスの空気がひりついている。
目の前に座る二人の笹垣! 歳の差が離れているせいなのか、それとも単純に似ていないのか、笹垣とは雰囲気が全然違う!
「私が添え物みたいな言い方やめてくれない? こっちが笹垣妹ならわかるけどさぁ」
不遜な態度を崩さない笹垣姉、いや、笹垣志織!
笹垣志織は顎で俺に座るように指示してくる。俺も立ったままじゃ目立つし、大人しくそれに従う。
「……志織さんはなぜここに?」
ソファに座って笹垣志織がここにいる理由を問う。
「私がどこに居ようが勝手でしょ? 少なくとも赤の他人のあんたよりは妹に会う理由があるとは思わない訳? 可愛い妹だから、ねぇ? あんたこそ何?」
微塵もそんな事を思っていないとわかる口ぶりだ。怯える笹垣……志苑の表情を見れば赤の他人の俺でもわかる。
「俺と志苑さんは同じ事を調べていただけです。あなたが思っているような関係じゃない」
「それぐらいわかってるわよ。イナリスカウトでしょ?」
笹垣志織は俺を見ずに、自分のネイルを見ながら話す。
志苑が既に話をしたのか、それとも最初からその事を知ってここに?
「得体の知れぬ寿司業界の亡霊……その正体が実の姉である私? どういう頭をしていたらそんな結論に至るのかしら? 一度頭を見てもらった方が良いんじゃない? ねぇ、志苑?」
少し強めに志苑の頭を叩く笹垣志織。
「ごめんなさいお姉様……でも、私……」
普段なら手を払い除けそうな志苑も無抵抗のままだ。まずい、空気も流れも良くない。
「志織さんは自分がイナリスカウトじゃないと言い切れるんですか? 志苑さんにその証拠を見せれば良いだけでしょう?」
俺が睨むと、笹垣詩織も睨み返してくる。明確な敵意を感じる……!
「逆。私がイナリスカウトだという証拠を出しなさい。お馬鹿な妹の戯言が証拠だなんて言わないで頂戴ね? 状況証拠ばっかで、何一つ、私である証拠は無いのだから」
「それは……!」
くそ! 確かにそうか! 直接本人である証拠はない。たまたま同じエリアに居ただけと言われればそれまでか!
「……志苑と違って多少は頭の回転が良いみたいね。それなら私が言いたい事はわかるわよね?」
「それ、自分がイナリスカウトって言ってるようなもんですよ」
笹垣志織は俺達にイナリスカウトの正体を追いかけるのはやめろと言いたいのだろう。
「学生は夏休みの宿題がお似合いって言ってんのよ。良い大学に入らないと、負け犬人生まっしぐらよ? 学年一位どころか、一桁順位も取れない馬鹿妹の勉強の邪魔をしないでくれるかしら?」
さぞ良い大学を出たんだろうな、笹垣志織は。学年順位の話をされると俺は何も言い返せないけど、志苑って学力どんなもんだっけ……結構上位に居たような居なかったような……
「話はそれだけですか? 」
用が無いならさっさとご退席願いたい。志苑に聞きたい事が山ほどある。
「帯刀冴の寿司マニュアルを寄越しなさい。子供には不必要な代物でしょ」
帯刀さんの?
……いや、なんで笹垣志織がそれの存在を知っているんだ!?
「志苑、お姉さんに寿司マニュアルの事教えたのか?」
俺の目を見ながら首を横に振る志苑。
「……情報が古いですね。今頃、滋賀県にありますよ。あんたがお探しの寿司マニュアル」
鳥路さんが持ち歩いていればの話だけどね!
「どうしてそんな所に……ちっ、馬鹿が余計な事をしなければ楽に手に入ってたのに……そもそも! 鳥路英莉とかいうイレギュラー……! どいつもこいつも私の邪魔ばかり!」
こいつも寿司マニュアルを欲しがっている人間か。寿司罵倒協会の関係者?
……志苑は信じられないモノを見る目で笹垣志織を見ている。
そうか、こいつが……!
「何その目?」
「お姉様が……部長を騙して、あんな事をっあぐっ!」
志苑の頬を強い力で払う笹垣志織! 強烈な音に周囲が騒つく!
「な、何してるんだ!? あんたの妹の顔だぞ!?」
「家族の問題に口を挟まないでくれる? 二回も姉を疑う愚かな妹にはお仕置きが必要、そうは思わない?」
「思わないから言ってるんだろ! 都合が悪くなったら暴力って……それでもあんた大人かよ!」
席から立ち上がり、笹垣志織の考えを否定する!
「はっ、子供が何をわかった気になってるやら。さっきから証拠も無しに人を犯人呼ばわりして……常識って言葉を知らないのね」
「犯人の自覚があるんだろ。帯刀さんの感情を利用して自分の利益になるように利用した……そういう自覚がな! 帯刀さんの寿司マニュアルを欲しがる奴なんて俺は寿司罵倒協会の人間しか知らない! お前が……! イナリスカウトなんだろ!」
声を張り上げて笹垣志織に感情をぶつける。
本来起こるはずの沈黙は周囲の騒音で打ち消されていく。
「……お話にならない。時間の無駄だったようね……馬鹿が集まって何をしようと無駄って事を貴重な青春を消費して実感すればいいわ」
立ち去ろうとする笹垣志織。ここで逃して良いのか?
でも、何もかも証拠が無い。悔しいけど、全部俺達の推測の域だ。
それでも、こいつから情報をもう少し引き出したい!
何か……何か無いか? イナリスカウトの目的と笹垣志織の共通点!
寿司を握れる可能性が高い? だから何!?
し、志苑の話で他に何かなかったっけ!?
「ほ、包丁継承戦……あんたも出るつもりだろ?」
志苑が調べていたもう一つの話題! 根拠は無いけど……可能性はある!
「……だから何? 私が寿司王国の代表って良く知っているわね。志苑
が話したのかしら?」
合ってた! いや、まぁ、本当にだから何だな……
「どうして白蛇が必要なんだ? ネットに転がってるオカルト話を信じているのか?」
「それでも大衆は伝承を疑いなくうっすら信じるもの。あの包丁を手に入れれば、私はさらに成功する。多かれ少なかれ、ね」
笹垣志織から凄い自信を感じる。どれだけの実力を持った寿司職人なのか全くわからないけど……寿司王国のどの職員よりも実力があるって事なのだろう。
それに、意外にもオカルト話を信じてるんだな……何を考えているのか余計わからなくなった。
「……それこそ時間の無駄だな。あんたが包丁を手に入れる事は絶対に無い」
「はぁ? 私を舐めてるわけ?」
「勝つのは……鳥路さんだ! 少なくともあんたにはな!」
笹垣志織は鳥路さんを知っているような口ぶりだった。警戒しているはずだ、鳥路さんの実力を!
「ちっ。他人頼りのダサい男め。志苑、私の可愛い馬鹿な妹……誰が一番正しいか、よく考えて行動する事ね。馬鹿と付き合っていたら馬鹿が加速するわよ」
そう言って笹垣志織は店から出て行った。
修羅場が収束し、野次馬も自分の席に戻っていく。
力が抜けて、どさっとソファに腰をおろす。
「……お前のお姉さん、ちょっとおかしいよ。てか、殴られた所大丈夫か? とりあえず冷やしておいた方が良いぞ」
志苑の頬がちょっと赤くなっている。
「う、うん。大丈夫。ありがとう……」
こうも素直な志苑を見ると心が痛むな……もしかして、こいつの普段の生意気なムーブって姉の真似をしてるのか? 気になるけど、今は……聞くタイミングじゃないな。
「はぁ……で? どうする?」
「ど、どうするって?」
「言われっぱなしじゃムカつくだろ。見つけてやろうぜ、お前の姉がイナリスカウトの証拠。そんで身内のお前が止めてやれよ、間違ってるってさ」
「それは……でも……」
煮え切らないな……あの感じだと恐怖政治で洗脳気味なのか?
「……俺の知ってる笹垣志苑なら、絶対そうする」
驚いた表情を見せる志苑。今のこいつと普段のこいつだったら、普段のこいつの方がマシだ。
「ぶっ壊してやろうぜ……寿司罵倒協会の悪巧み!」
「……うん。そうよ……! やってやるわ! このスシバトル部副部長、笹垣志苑が部長を舐めた奴を許す訳が無いじゃない! 手を貸しなさい! 山本葵!」
元気になったか。そうでなきゃ!
俺は志苑が差し出した右手を握り返した。
さぁ、楽しくなってきたぞ! 夏休みの宿題……!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




