第155話 ダブルトラブルメイカーオブザスシビジネス①
鳥路さんが滋賀の祖母宅に帰っている三日間、俺は様々な宿題を終わらせる事に決めた。その記念すべき初日である今日は……自室の机で先に包丁の件とイナリスカウトの件を片付ける方針で行こう。決して数学の宿題で詰まったからとかではない。
とりあえず、FaiNを起動するか……
「フレベ、鳥路さんに送った白蛇と黒鷲の創作が書かれたサイトを俺にも教えて欲しい」
「久々に呼ばれたと思ったらその件ですか! どうぞ!」
サッとURLリンクが表示され、タッチすると背景が黒のレトロなホームページに飛ばされた。確かこれ、鳥路さんのスマホで調べた話だよな……どういう仕組みなんだろう……考えても仕方ないか。
白蛇を使役すれば技を高めるが、代償に力を奪う。
黒鷲を使役すれば力を与えるが、代償に技を奪う。
その二匹を使役すれば技も力も手に入るが、代償にこれまでの記憶を失う。
その二匹は持ち主の大成を望むが、その大成は持ち主が望む結果にならない。
無名の刀鍛冶の手記より
……何だこれ。白蛇も黒鷲も包丁だとすると、ろくでもない代物って事?
大成するって話も書かれてるから、確かに例の包丁のエピソードだと思うけど……寿司業界はどこまでこの包丁の話を信じているのだろうか。
ただ、鯖江さんの呪われた包丁という評価も納得がいく話ではある。
白蛇と包丁に関する記事は……白蛇の持ち主だった吉村修吾さんのインタビュー記事っぽいな。「一度使ったが私に扱える柳刃包丁ではない。なまくらではないが、鑑賞目的の飾り包丁だ」と吉村さんは答えた、か……これも寿司王から聞いた話のそれだな。
「あれ? 白蛇って出刃包丁じゃなかったっけ?」
記事を読んでいて、記憶と差異がある部分が一箇所だけ見つかった。
寿司王も鯖江さんも白蛇は出刃包丁と言っていたはず。記事が誤字ってるのか?
……いや、三つの別の記事で吉村さんは柳刃と答えているな。
でも、このスラッとしてない無骨な感じは、出刃だよな……うーん……
考えても仕方がないか、寿司王にもう一度話を聞いてみても良いかもしれない。黒鷲の存在を隠していたのも気になるし。しかし、あの人に簡単に会える気はしないなぁ……
「フレベ、イナリスカウトの情報は更新されてない? それか潰れた寿司屋の話と白い狐のお面の話とか……関連しそうなもの何でも良いから」
FaiNに戻り、フレべに別の事を尋ねる。
曖昧すぎる聞き方だったせいか、フレベは腕を組んで悩む表情を見せる。
「イナリスカウトについては……変わりないですね! 狐のお面と潰れた寿司屋ですか……うーん……これなんてどうです?」
フレべが表示したリンクを押すと、女性のブログページに飛ばされた。
題名は「バ先が潰れた件」か。
……狐のお面を被った変態が入店、店長と裏で何かしていたと思ったら翌日店を畳むことになった、か。スシバトルしたのかな? だとすると手掛かりになりそうだ。
残念ながらどの店かまでは書いていない。ブログを読めばどの辺で起きた話かは推測できそうだけど……
「フレベ、かなり良い感じだよ! この調子で似たような話探せない?」
「残念ながらこれだけですね!」
「そうなのか……函館の件や魚組の件で、結構寿司屋に現れてるみたいなんだけどなぁ……」
インターネットの情報が全てではないけど、イナリスカウトの手掛かりや正体を明かすのはかなり難しそうだ。
「アオイは今暇ですか?」
フレべが唐突に俺を暇人扱いする。
「調べ物に詰まって、宿題以外やる事がなくて暇になったところだよ!」
「良いですね! アオイと似たような話を調べているユーザーが神奈川県にいます! 会ってみてはいかがですか?」
俺と同じような事? 包丁とかイナリスカウトの話? そんな奴いるのか?
鳥路さんは今滋賀県だし、鳥路さんじゃないよな……
「そんな人がいるなら話してみたいけどさ……実在するの? てかあって大丈夫な人?」
「アオイと同じ高校生ですよ! 少しお待ちください! 向こうは会ってみたいそうです! 今メッセージを入力中ですね!」
もしかして、その人もFaiNを使って調べ物を? 別のフレべが他の人の相手をしてるのか? アプリだから当たり前なんだけど、なんか変な気分だなぁ……
「ごほん! 読み上げます! 『こんにちは。イナリスカウトと継承戦の包丁について調べているのですか? 私も同じ事を調べていて、手詰まりの状況です。もし良ければ直接お会いして情報を交換しませんか? 私は口頭で聞いた寿司王国と関東圏のお寿司屋さんでの目撃情報を持っています。包丁はネットの創作しか知りません』……だ、そうです!」
イナリスカウトは寿司王国にも出没したのか! 笹垣が何とかした……訳ではないだろうけど。それに地元のお寿司屋も多分俺が知らない話だ。あと、丁寧な文章だし、悪い人じゃなさそうだ。これは会っても良いだろう!
「フレべ、俺からも! ええっと、私も同じ件を調べています。私は新鮮サークル魚組と函館の寿司屋でのイナリスカウトの目撃情報を持っています。今からお会いできますか? って感じで送って!」
「わかりました! お二人の位置は結構近いですね! 中間地点でお話しできそうな場所を候補に出しますよ!」
フレべがファミレスの位置情報を教えてくれた。歩くには少し遠いけど行けない距離じゃない。
「俺はそこで大丈夫! 向こうの都合も聞いてくれ!」
「わかりました!」
伝言ゲームみたいで楽しくなってきた。直接通話した方が早いんだろうけど、こういうコミュニケーションも悪くないな!
とりあえず、外に出る準備をするか! 忙しくなってきたぞ!
◇◇◇
自転車を使って、約束の時間の数分前に集合場所であるファミレスに到着した。
いざ会うとなると緊張するけど、高校生なら大丈夫だと信じたい。最悪に備えて、逃走経路は確認しておくか……
そんな事を考えながら俺は入店し、先に待っている情報提供者のテーブルに向かう。
ここだな。間違ってない。
「あの、フレべ、じゃないFaiN経由で会話したユーザーの方です……か?」
「あ、初めまして! そうです! そのユーザー……あ?」
お互いの顔見た瞬間固まる俺と女性!
なぜなら、俺は、この人、いや、こいつと知り合いだからだ。
「さ、笹垣っ!? 何でその席に座ってるんだよ!?」
「な、な、な、なんで山本葵がここに居るのよ!?」
夏休み中に最も遭遇したくない奴と邂逅してしまった。
イメージした逃走経路は……店員さんに塞がれてしまっている。
どうして笹垣が伝説の包丁とイナリスカウトの事を調べてるんだよ!?
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




