第156話 ダブルトラブルメイカーオブザスシビジネス②
前回のあらすじ:
笹垣!? なぜ貴様がここに!?
◆◆◆
ファミレスのテーブル席で笹垣と一緒に無言でポテトを摘む俺。なぜこうなった?
笹垣志苑。俺と同じ桶ヶ丘高校の二年生。現在のスシバトル部の参謀……副部長? である。性格は控えめに言って悪く、買い占めによって寿司同好会の食材調達の妨害をするぐらいに手段を選ばない。
笹垣とは学校でしか会った事がないので制服の姿しか知らなかったけど、正面に座る笹垣はお金持ちの娘って感じの白系統のワンピースを着ている。隣には日差し避けのおしゃれな帽子も置いてあるし、清楚系のコーデは意外である。黙ってれば、まぁ……アリかもしれない。
「……で? 何であんたがここにいるわけ?」
露骨に不機嫌そうな顔で笹垣が俺の存在理由を聞いてくる。
「こっちの台詞なんだよな。どうして笹垣が包丁継承戦とイナリスカウトの話を調べてるんだよ。俺は鳥路さんが継承戦に出る事になって、包丁にまつわるオカルトみたいな噂の真相を知っておきたかっただけだ。イナリスカウトは……俺が被害者だから正体を明かしたいって感じ」
不服だが聞かれたからには素直に答える。どんな反応が返ってくるやら……
「イナリスカウトの被害者? 寿司屋でもないのに?」
意外にも素直に驚いた表情を見せる笹垣。
「ちょっと前に寿司罵倒協会の刺客に俺が撃たれたって話しただろ? その資格がイナリスカウトだったんだよ」
「ああ……あの時の。何であんた銃で撃たれて生きてるの?」
今度は怪訝そうな目で俺を見る笹垣。
「本物じゃなくて、違法改造されたソルトガンだからだよ! 結構痛かったぞ!」
「サブリナの奴が持ってるアレね。ぷ! 男ならそれぐらい避けなさいよ。運動神経雑魚すぎでしょ!」
人を馬鹿にしたような笑みを浮かべる笹垣。これこれ。
夏休みの間は見なくて済むと思ってたんだけどなぁ!
「避けたら鳥路さんと賀集さんに当たってたかもしれないだろ。いや、避けれた自信はないんだけどさ」
「ああ……そういう。ふん、女の子の前でカッコつけて怪我しただけじゃない」
ポテトにケチャップをがっつりつけて口に入れる笹垣。
想像していたよりキレのない反応だな。もっと煽られると思ってた。
「そこは、まぁ、否定できないな……そうだ、スシバトル部と接触してきた寿司罵倒協会の人間ってイナリスカウトじゃないのか? 直接会ったのは帯刀さんだっけ?」
笹垣の発言を思い出しながら質問する。確か、そんな事を言ってたはず。
「部長が会っただけで、どんな奴かはわかんないわ。ただ、イナリスカウトみたいな特徴的な外見だったら部長もそれについて言及すると思うし、多分イナリスカウトじゃないわ。白い狐のお面に黒ずくめの格好なんて絶対記憶に残るもの」
論理的な結論だ。悪知恵が働くだけあって頭が良いのかもしれない。
「笹垣もイナリスカウトを見た事があるんだな? それで寿司王国と近所の寿司屋の話に繋がるのか! 頼む、教えてくれ!」
少し前のめりになりながら笹垣に情報の共有を求める。
「そっちが先に話しなさいよ。有力な情報だったら話をしてあげても良いわよ?」
ニンマリと悪どい笑みを見せる笹垣。こいつ……
ここで言い争っても不毛だし、最悪帯刀さんにお願いすれば良いか。
性悪な笹垣も帯刀さん相手だと素直になるし。あとは、フレベから何かしら聞き出せる可能性もある。
俺はため息を小さくついてから、函館の件と先日の魚組の件を笹垣に共有する事にした。
◇◇◇
「……そんな事が……函館……千葉……」
俺の話が終わると、笹垣はそう言って考え込んでしまった。
「笹垣? どうだ? 有力だったか?」
「え? ええ、そうね! 山本にしてはやるじゃない!」
「別に俺がどうこうってより巻き込まれただけなんだけどな」
普通に有力情報として認めた感じか? 色々言い訳して自分の情報は言わないと思っていた。ちょっと笹垣を馬鹿にしすぎか?
「次、笹垣の番だぞ」
「そ、そうね。仕方ないけど、教えてあげるわ!」
……何か様子が変だな。さっきも何か考えてたみたいだし。
「まずは、そう、神奈川の将吉の話ね。白い狐のお面……イナリスカウトが寿司屋である将吉に入店する所が目撃されている。その後、将吉は閉店、代わりにその土地に寿司王国が建ったわ」
「あれ? そこって、もしかして、ねこまた寿司の近く? 最近の話ってこと?」
「……そうよ」
バツが悪そうな顔をする笹垣。流れ的にこれじゃあ……
「それ、寿司王国とイナリスカウトが関与してるって事じゃないの?」
「違うわよ! そんな事、お姉様がするわけないでしょ!」
お姉様? 笹垣に姉がいるのは初めて聞いたぞ。
「笹垣ってお姉さんいたの? 初耳だよ。いや、大して親しくもないからそれが普通か」
「当たり前でしょ。そもそもお姉様の話は学校でするなって言われてるし……」
何だそれ。仲が悪いのか? でもお姉様って呼ぶぐらいだから、笹垣本人は笹垣姉を慕ってるって事で良いのかな。
「お姉さんってもしかして、寿司王国の経営に関係してたり?」
「そうよ。お父さんが設立した時は神奈川ローカルだったけど、お姉様が入ってからは全国規模に一気に成長したわ! お姉様は凄い人よ! 私のアイディアとか企画もしっかり形にしてくれるし!」
少し自慢げに姉を紹介する笹垣。やっぱり尊敬はしてるようだ。
これまでの笹垣の無茶な作戦の裏には姉の力があった感じか。
「お姉さんも笹垣の事が好きなんだな、俺達の妨害するために会社まで動かして」
「……だと良いわね」
何でそこは自信がないんだよ。妹のワガママに付き合うのなんて、妹が大事だからとかじゃないのか? 輝理なんてそれに付け込んで俺に奢らせてくるしな!
まぁ、今は笹垣姉妹の事情を気にする必要はないだろう。
「ええっと、話を戻すぞ? イナリスカウトは誰かの指示で寿司屋を潰す手伝いをしていると俺は思ってたけど、自分からスシバトルするケースもある感じ? 今の話だけだと確信はできないけど」
「……本当に美味しい店相手だと出てくるみたい。神奈川だと将吉以外にも目撃されてるし、東京や千葉でもちらほら……」
「しょ、将吉だけじゃないの!? 場所はわかる!?」
フレべが関東圏って言ってたのはそういう事かよ!
笹垣はハンドバッグから紙の地図を取り出す……寿司王国の店舗マップじゃないかこれ。
「……ここと、この辺。あとここ」
「全部寿司王国の店舗のある場所じゃん。え、マジで無関係なの?」
笹垣が押し黙ってしまった。
……笹垣、お前、何か知っているのか?
「……寿司王国での目撃情報について、教えて貰っていい?」
「……」
笹垣は呼吸を整えてからゆっくりと口を開く。
「……寿司王国の神奈川本店の裏口からイナリスカウトが出てきた。逆にお店に入った形跡は、防犯カメラのどこにも映ってなかった」
それはまるで笹垣本人が見て調べたような言い方だった。
「お姉様は……八月の頭から函館にいた。二年前は千葉の方の支店に常駐していた」
笹垣、お前……
「お姉さんを疑っているのか……?」
笹垣は無言で頷く。
イナリスカウトの正体。
笹垣の中ではとっくに答え合わせができていたのだ。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




