第154話 チープスシアンドエラガンス⑥
前回のあらすじ:
鎌瀬は暴行罪やらなんやらで警察に連れて行かれた。
お会計については狸塚さんがお礼とお詫びと言うことで代わりに支払ってくれた。
◆◆◆
鎌瀬とのスシバトルの翌日。俺と鳥路さんは山田さんと連絡を取って、鯖江さんと行った例の喫茶店に集まっていた。賀集さんは手芸部の集まりがあるとかで欠席。
そこで俺達は魚組で起きた事と、山田さんの寿司が魚組で継承されていた事を説明した。
「なるほど……そんな話になったのか」
対面に座る山田さんはそう言ってコーラをストローで飲む。
「はい! だから山田さんの寿司が改めて正しかったって事が」
「はぁ……とりあえず、先、鳥路、顔、こっち」
俺は山田さんに話を遮られ、鳥路さんは山田さんに言われるがまま山田さんの方に顔を近づける。
山田さんが突然両手で鳥路さんの両頬を引っ張る!
伸びる鳥路さんの両頬! 何が起きたのか理解できずに混乱する鳥路さん!
「いふぁ!? ふぁひふふんへふは!?」
「店内で不味いとか言うのは駄目だろ! 馬鹿!」
そ、そこ!?
でも、それは、確かにそうだ! そうだけども!?
「くそ、すっぴんでこれかよ! 若さがよぉ! 次! 山本!」
「は、はい!」
山田さんが悪態を吐きながら、俺の名前を呼ぶ。
恐る恐る山田さんの方に頭を差し出す。
「ぐえっ!?」
結構な威力のチョップが俺の脳天に突き刺さる! 痛い!
頬を押さえる鳥路さんと頭を押さえる俺!
「反省しろ! 一緒にいたもう一人にも伝えておけよ!」
「わ、わかりました……」
鳥路さんも強く何度も頷いた。
「……まぁ、店側から喧嘩売ってきたとかだったら良いけどな。そうじゃなかったら心の内に秘めておくか、せめて離れた場所で吐き出せ」
「気を付けます……」
しょんぼりする鳥路さんはレアな気がする。鳥路さんが寿司屋でスシバトルに巻き込まれる時って大抵店側が喧嘩売ってきてたからなぁ……線引きが曖昧になっていたのかもしれない。山田さんのお叱りは当然だ。
「すみません……俺が言い出したから、鳥路さんも賀集さんも会話を合わせてくれただけで……俺が一番気を付けます」
「反省してくれれば良いよ。ガキなんて失敗してなんぼだ。だけどなぁ、ガキだからって許されねぇ事もある。ガキでも大人でも、間違えちゃいけない事は同じなんだからな」
素直に反省しなくては……父さんも同じような事言ってたな……
「はい! 反省終わり!」
パンッと両手を叩き、ストローを除いてコーラをグラスから飲み干す山田さん。
「けふっ、私も褒められた大人じゃないから、こんなのこれっきりだ。それに……偶然だろうけど、私の為に色々してくれたのは感謝する。少し気が晴れたよ」
山田さんはどこか心がスッキリしたような……そんな笑みを見せる。
「……山田さんは……これからどうするんですか?」
鳥路さんが頬を少し撫でながら山田さんに今後について尋ねる。
「どうするも何も……何もしねぇよ。今の私は配信者で、鯖江からサンダークロウとか変な名前まで貰ってる。今更回転寿司のバイトには戻らない」
その名前、鯖江さんのセンスだったんだな……
「だけど、せめて……狸のおっさんには恩でも売っておくか。私が配信業で食えなくなったら、魚組の経営顧問にでもなってやるさ。向こうも断れないだろ、ヒヒッ!」
悪い顔に豹変する山田さん。大人って怖い。
「狸塚さん、職人制度を戻すって言ってましたよ。山田さんに合わせる顔が無いとも言ってましたが……」
一応これも伝えておこう。山田さんがどうするか、俺達に決める権利はないけど。
「なおのこと、面拝みに行かなきゃなんねぇな! コラボの打診もしてやるかね!? 楽しくなってきたなぁ! おい!」
「そ、そうですね……」
山田さんがどこまで本気かはわからないけど……穏便に済むと良いですね、狸塚さん……
俺と鳥路さんはそれ以上何も言わなかったけど、二人できっとそんな事を考えていたと思う……
◇◇◇
喫茶店の会計を割り勘で済ませ、山田さんと別れる。上機嫌だったと思うので、結果的に伝えて良かった。多分、そう。これ以上はどうなるかわからん。
鳥路さんと帰路につきながら、夏休みに起きた事を少し振り返る。
……歴代最高の濃厚さだな。
「あー……なんか疲れた。短期間でいろんな事起こりすぎだよ」
「確かに。でも、それなりに楽しかった」
鳥路さんがそれなら良いけどさ……先には包丁継承戦が控えてるのにスタミナが持つのだろうか。主に俺の。
「鳥路さん、明日はどうする? 気になる寿司屋とかがあれば、そこに行く?」
「ごめん、明日は予定がある」
「そうなの? どこかに行く感じ?」
そりゃ鳥路さんにも予定はあるよな。俺が暇なだけで。
「明日から三日間、両親と滋賀の祖母の家に行く」
「滋賀県? 北海道じゃなくて?」
「お父さんが滋賀出身だから」
そういう感じなのか。
「そっかぁ! 楽しんできてね! 滋賀の寿司でも堪能しながら!」
「ありがとう。お土産、買ってくるね」
滋賀のお土産って何があるんだろう。琵琶湖……ぐらいしか思い付かない。
「……楽しみにしてるよ!」
無難な返事に留めた。間違った事を言ったら機嫌を損ねる可能性があるかもしれない。俺は今日の一件で少し大人になったのだ!
「山本くんは予定ないの?」
鳥路さんの無邪気な質問が俺を貫く。悪気が一切ないのはわかる。鳥路さんは単純に俺の予定を聞いただけ!
「……色々調べてみようかな! ほら、あれ、包丁の話とかイナリスカウトの話とか……フレべが調べた結果もちゃんと確認できていないし! 鳥路さんが帰ってくる頃には、何かしらわかってると良いかなぁ、なんて!」
「なるほど。流石山本くん」
鳥路さんにお褒めの言葉を頂いたが、苦し紛れに並べた予定である。
宿題が増えてしまったな……宿題?
「……鳥路さん、夏休みの宿題ってどこまでやった?」
「全部終わった」
「そ、そっかぁ。流石だね……」
この怒涛のイベントの中でどこに宿題をやる時間があったんだ?
俺もそろそろ現実と向き合う時なのかもしれない……
あ、夏の空が眩しいや!
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◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




