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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
153/175

第153話 チープスシアンドエラガンス⑤

前回のあらすじ:

鳥路さんと鎌瀬のスシバトルは鳥路さんの完全勝利に終わった。


◆◆◆


「か、鎌瀬先生! これはどういう事ですか! あなたは魚組の職人制度を超える回転寿司システムを実現したのではなかったのですか!?」


 敗北して床に転がる鎌瀬に狸塚が詰め寄る。

 

「はっ!? い、いやいやいやいや! 狸のおっさん! こりゃあ何かの間違いですぜ! ワシの寿司が不味ければ業績は下がったままのはず! ワシの人件費削減パワーがシンプルに功を奏した結果だと思いませんかねぇ!」


「う、うう……それは確かに……し、しかしだねぇ、今日の君の寿司はその……魚組の寿司とかけ離れているというか……」


 必死な弁明をする鎌瀬、状況が飲み込めずハンカチで汗を拭く狸塚。

 このお店で何が起きていたのだろうか……


「魚組の寿司……イマイチな日とイケてる日があるんだよなぁ……」


 ギャラリーの一人がそう呟く。


「あ、わかるー! 今日はダメな日よね!」


「金曜日は確実に美味いぞ! 俺は詳しいんだ!」


 ギャラリーの連鎖的なコメントで魚組の寿司のクオリティにムラがあることが示唆されていく。


「き、金曜日はどの店舗でも鎌瀬先生が絶対に仕事をしない日……!」


 狸塚が冷や汗を垂らしながら、答え合わせをする。


「いやいやいやいやいや! そ、そんなの偶然ですよ! やだなぁ! ワシの寿司の技術を怠ったバイトがいるなんて! そう、ワシがいるときにだけ、ワシの目を盗んで! そ、そ、そうに決まっておる!」


「それだと先生の監督不責任では!?」


「うぐぐぐぐ!」


 鎌瀬の言い訳がそろそろ苦しくなってきた。狸塚もかなり怪しんでいる。

 鳥路さんは鎌瀬の言い訳に飽き飽きしているのか、出来上がったあら汁を飲んでいた。美味しそう。


「厨房スタッフのバイトリーダー! 来い! 説教してやる! ワシに恥をかかせおって!」


 鎌瀬が厨房の方に向かって怒鳴る。すると、厨房から魚組の料理白衣を身に纏ったブロンドヘアの女性店員が出てきた。海外の人っぽいな……この人がバイトリーダー?


「貴様! ワシに何の恨みがあって手を抜いた!? 説明しろ!」


 威圧的な態度で責め立てる鎌瀬。しかし、女性店員は怯える様子もなく口を開く。


「逆デース! かませのいない日だけ、ちゃんと寿司にぎってマース! 全店舗のバイトがそうやってマース! 普通に握ってたら、かませはうるさいデース! 邪魔してきマース!」


「なんだとおおおお!? 」


 どよめく店内。もはや告発現場のような空気だ。


「かませやかませの手下がいる日は従順なフリして、いない日は普通に寿司にぎってマス! かませのやり方、厨房はみんな反対してマース!」


「ま、待ってくれ! 全店舗、鎌瀬先生の最高効率握りマニュアルで統一したはずでは!? ふ、普通の握り方なんてどこで……誰が教えているんだ!?」


 狸塚が女性店員に駆け寄って問う! すると、女性店員は懐からかなり使い古された一冊のノートを取り出した。


「山田サンがいる時に残してくれたノートデス! 早くて美味しく握る方法……みんながわかるように書いてマス! かませとの勝負の日まで必死に練習して……この方法ならオーナーの要望を満たせると私に話してくれまシタ!」


「や、山田くんが!? これを!? 注文時の回転率の件の時に……!」


 狸塚は受け取ったノートを読んで、肩を震わせる。

 山田さんのあの無駄がない早握り……このために身につけたものだったのか。

 バイトの身でありながら、この店を思って……!


「わ、私は……なんて、取り返しのつかない事を……!」


 膝をつく狸塚。この人も被害者だったのか……


「よこせぇ!」


 鎌瀬が狸塚からノートを奪い取り、ビリビリに引き裂く!


「な、なんて事を!?」


「こんなものがあるから! バイト共はワシの方法の熟練度が上がらずに、不味い寿司を握るのだ! ワシの完璧な効率の寿司は生意気なバイトに勝った! その事実を受け止めろ! こんなくだらん女のノートは忘れてしまえ! ガハハ!」


 か、鎌瀬! 許せない!


「無駄デス! そのノートは確かにオリジナル……でもそのコピーは魚組全店舗で何冊も共有されてマース!」


 女性店員は鎌瀬に屈しない!

 そして、山田さんの意志は……今もこの店に残っている!

 

「な、何ぃ! だったら、そのノートを全て燃やし尽くしてくれる!」


「いい加減に諦めろ。お前の負けだ」


 静観していた鳥路さんが沈黙を破る!


「き、貴様ぁ!」


 矛先を鳥路さんに向ける鎌瀬! 鎌瀬はもはや何をやらかすかわからない! これ以上のレスバは危険だ!


「あの日、山田さんに負けていればお前は公衆の面前でこんな恥を晒す事もなかった。そして、今日の敗北で理解したはずだ。お前は山田さんに勝てない。お前が卑怯な手を使って得た仮初の勝利は……今この場で無意味だったと証明された!」


「んごぐぎいいいい! 死ねい! 鳥路英莉ぃ! 死ねい!」


 鎌瀬がその太い腕で鳥路さんに殴りかかる!


「危ない!」


「とりっじ!」


 俺と賀集さんの声と同時に鎌瀬の拳が鳥路さんの眼前に!

 鳥路さんは鎌瀬の右ストレートを軽々と回避! いや本当に危ない!


「グヌ!? だが! ワシは両利きじゃ! 往生せいやああああ!」


 鎌瀬の左拳が鳥路さんに襲いかかる!

 店内に金属音が鳴り響く! な、なんだ!? 鳥路さんの体の音じゃないよな!?


「ぐ、ぐわあああ!? ワシの左手が! 痛い!? 熱い!? うぐうううう!」


 左手を押さえながら地面で悶絶する鎌瀬! い、一体何が起きたんだ!?


 鳥路さんの手には……あら汁を作っていた鍋! 中身は全てお椀によそわれており、ほぼ空の状態! しかし、鍋底にはしっかりとヒラメの骨が残っており、鍋の熱さと合わさって鎌瀬の拳にカウンターしたのだ!


「……その手を暴力に使ったお前は寿司職人でもスシバトラーでもない……ペテン師がお似合いだ」

 

 鳥路さんがそう言い終えると、ギャラリーの人達が数人で鎌瀬を押さえつける。

 最初は鎌瀬も抵抗していたが、数分後には観念したのか大人しくなった。



 波乱だらけの鎌瀬とのスシバトルはこうして幕を閉じたのである……

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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