第152話 チープスシアンドエラガンス④
前回のあらすじ:
パフォーマンス重視の鎌瀬に対し、鳥路さんは山田さんの効率重視の握り方を選択した。
◆◆◆
「早い! 謎の寿司少女Tも達人級だ!」
「鳥路英莉って名前なんだろ!? これ程の才能がどうして今まで埋もれていたんだ!?」
「鎌瀬の寿司がパフォーマンスと言い切るだけあるわ……!」
鳥路さんの握り方を見てギャラリーから色々な意見が聞こえてくる。
確かに綺麗なフォームではあるけど、俺と賀集さんだけが鳥路さんが普段と異なる握り方をしている事を知っている。味で勝負する今回のスシバトルに早さは不要、鳥路さんの慣れた握り方で充分勝負できるはずだ。
そうしなかった事に何か意味がある。鳥路さんはいつもそうだから……!
鳥路さんも五貫で良いのに六貫握り終える。正確に計測していないけど、同時に二貫握っていた鎌瀬よりも早かった気がする。
「そ、その握り方……! ワシが追い出したバイト女とそっくりじゃねぇか! なんなんだテメェは!?」
鎌瀬が狼狽える。まるで亡霊を見たかのような反応。鳥路さんが如何に山田さんの寿司を再現しているのかがわかる。
「寿司が好きな高校生……それ以上でもそれ以下でもない」
鳥路さんは鎌瀬の問いに静かに答える。その視線から発せられる圧は俺達の距離からでも感じるほどだ。
「こんなガキがいてたまるか……! おい! 狸のおっさん! 寿司が出揃った! 審査に移れ!」
鳥路さんの圧に押されながら、鎌瀬が狸塚に進行を催促する。
「そ、そうですな! まずは先に握り終えた鎌瀬先生の寿司から! 審査員の皆様お願いいたします!」
店員によって五人の審査員の前に鎌瀬の寿司が配られる。
女性三人、男性二人……年齢は間違いなく俺より年上、女性達に関しては母さんぐらいの年齢に見える。
「あら、美味しいわ!」
「少し生臭いけど、普通のヒラメって感じね!」
「でも、シャリが……いつもの魚組ねぇ……」
「回転寿司だからこんなもんじゃねぇか?」
「ああ、十分うまいぜ!」
そこそこの評価だ。鮮度の良いヒラメを使っただけはある。
……鎌瀬は臭み抜きの工程を飛ばしているのに、生臭いと言った人は一人だけ。やはり、魚を復活させるなんてインチキで鳥路さんのヒラメと鮮度で差を付けてきたんだな。
「ガハハ! これは勝負が決まったようなもの! 同じ食材でも魚復活術を使っていない貴様のヒラメでは勝ち目はない!」
こいつ……
鎌瀬にイラッとしながら鳥路さんの方を見ると、あら汁の味見をしていた。
魚の出汁がきいた味噌汁の匂いがちょっとする。美味しそう。
「こ、こいつ……!」
鎌瀬の顔が引きつる。鳥路さんの方が格上に感じる状況だ。
「では! 続けて鳥路さんの寿司を審査にいきましょう! よろしくお願いいたします!」
狸塚の合図で店員が審査員に鳥路さんの寿司を配る。
臭み抜きしたとはいえ、鮮度は恐らく鎌瀬の方が上。大丈夫だろうか……
「お、美味しいわ! それにそこまで生臭くない!」
「さっきの寿司よりも美味しくない?」
「シャリとヒラメのバランスが抜群! これよこれ!」
「回転寿司なのに回らない寿司屋みたいな感じだぜ」
「職人の技を味わうってこんな感じか!!」
鎌瀬よりも高評価じゃないか! 何が起きているんだ!?
「な、何いいいい!? 貴様らの舌はどうなっているんだああああ!?」
鎌瀬がまな板を両手で叩きながら、審査員を非難する! 怯える審査員!
「……今回は審査員の買収をしていなかったのか? それに随分とそのヒラメに自信があったようだな」
鳥路さんは鎌瀬を見上げているのに見下すような口調で話しかける!
「今回はしてねぇよ! それより、な、何をしやがった!? 死んでいるヒラメが生きているヒラメに勝てるわきゃねえ!」
鎌瀬のでかい声にも鳥路さんは眉ひとつ動かさない。
そして鎌瀬は審査員の買収経験があるようだ。
「私のヒラメは締められていた。少し時間は置かれていたようだけど、十分な下処理がされたもの。一方で、お前のヒラメは杜撰な管理で生かされていただけのヒラメ。弱った魚は不味くなる、常識のはずだが?」
鳥路さんが鎌瀬のヒラメの生臭い理由を言い当てる! そ、そういう事か!
「それに加えてパフォーマンス如きのために、シャリ玉を作り置きするふざけた真似。直前ならまだしも……長い時間置かれたこんなシャリ玉では固い仕上がりになるのも当然……! 魚組の寿司が劣化したのはこいつが原因だ!」
鳥路さんは鎌瀬の顔面を指差す!
まさかの糾弾! 鳥路さんは魚組の寿司がイマイチな原因をこの短い時間で突き止めていたんだ!
騒めくギャラリー! 困惑する審査員!
「ど、どういう事かね、これは!? 鎌瀬先生! この子は、まるで、あ、あの時の山田くんと同じ事を言っているように思えるのだが!?」
狸塚さんが鳥路さんから山田さんの姿を想起する!
山田さんは、鎌瀬の寿司を否定するために立ち上がったんだ!
……そして、鎌瀬の卑劣な策に気付かず……スシバトルで負けてしまったのか!
その時は審査員の買収でもしたんだな鎌瀬の奴! 山田さんが審査員というかお客さんに失望した理由も納得がいく!
「い、いやいやいや、嫌だなぁ、狸塚さぁん! 私があなたに嘘をついた事がありますか? いいえ、ありません! あの日も今日も強気な女が寿司を握ってお客様が驚いているだけ! 騙されちゃあいけませんよ!」
硬派な男を捨て、へりくだる鎌瀬! だ、ダサい! これが大人の立ち回りか!?
「どけ」
鳥路さんが鎌瀬を押しのけ、狸塚の前に立つ!
その手には、余計に握られた鳥路さんと鎌瀬の六貫目の寿司……!
「狸が化かされてどうする。自分の舌で確かめろ」
「た、狸って!? 私の事かね!? いや、確かに……鎌瀬先生は職人の寿司と大差の無い寿司を握ると言って、それをスシバトルで証明してくれたが……そんな、まさか……」
鳥路さんに言われ、恐る恐るそれぞれの寿司を口にする狸塚。
「ぜ、全然違う! どういうことだ!? そんな……! テイスティングの時はこんな寿司じゃ……待てよ、テイスティングの時は鎌瀬先生の隣に毎回狐のお面を付けた変なアシスタントがいたような……」
い、イナリスカウトだ! こんな所にも! そして鎌瀬が寿司罵倒協会の人間である事は確定した!
「はぁーっ! はぁーっ!? 馬鹿な! ワシの完璧なスシバトルが! こんなバカ舌どもに!? なぜ今になって味がわかる!? こんな場末の回転寿司屋如きの客が!? 人間がぁ!?」
息を荒げながら狼狽える鎌瀬! こいつの性根がよくわかる。
「審査員の皆さん、そして、狸塚さん。この店に相応しい寿司を決める時です。私の方が良ければ右手を、鎌瀬の方が左手を挙げてください」
鳥路さんが司会進行を乗っ取る!
「はっ! ガハハ! わかったぞ! この店に相応しい寿司! こんな味もわからん貧民のバカ舌どもに相応しい寿司はどちらか! このスシバトル! ワシの勝ちだああああ!」
鎌瀬はもはや狂っているようだ。まともな判断ができていない。
……鎌瀬の淡い願望も虚しく、審査員五人と狸塚さんの右手が挙げる!
「うぎゃああああああああ!?」
鎌瀬が汚い断末魔を上げながらぶっ倒れた。最後まで煩い奴だったな……
「こ、この勝負! 鳥路英莉さんの完全勝利です!」
自分が司会だった事を思いだした狸塚の言葉によってギャラリーが今日一番の盛り上がりを見せる!
この勝負、鳥路さんの勝利……いや、山田さんの勝利だ……!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




