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スシ=エリ・トリジ〜寿司を愛する少女〜  作者: シャコヤナギ
カースドツインズスシナイヴズ
151/175

第151話 チープスシアンドエラガンス③

前回のあらすじ:

魚組の鎌瀬かませ健太郎けんたろうと鳥路さんのスシバトルが始まろうとしていた。


◆◆◆


 魚組の店員によってスシバトルの準備はものの数分で完了した。

 普段使われていないレーン内の隣り合う二箇所の調理スペースに鳥路さんと鎌瀬が立つ。そして、二人の目の前には五人のお客さん。この人達が審査員だ。


「それでは! これより新鮮サークル魚組主催のスシバトルを開催します!」


 狸塚の司会で盛り上がるギャラリー。スシバトル前より人が増えている気がするのは気のせいではないはずだ……


「注目の寿司ネタは……ヒラメ! もちろん、このお店で仕入れた食材でございます! シャリは同じもの! 勝敗を分けるのは腕前のみ!」


 腕組みをして勝負の時を待つ鎌瀬に対し、鳥路さんは借りた道具の調整をしている。包丁の切れ味がイマイチで念入りに研いでいるようだ。


「くっくっく。寿司職人の命たる包丁を借りるとはなんたる無様! 初めから勝負はついていたようなものぞ! 見よ! 我が包丁を!」


 鎌瀬が見せびらかす包丁は確かにお高そうな感じだ。手入れがされているというより、新品みたいな綺麗さだけど、それだけ大事にしているという事で良いのだろうか。

 店員が二人の前にヒラメを置く。鮮度は……普通っぽいけど、このお店にしては上等なものに見える。スシバトルなんかより普段のメニューに力を入れて欲しい。


「ここで一つ、ワシの寿司奥義……魚蘇生術をご覧に入れよう! はああああああ」


 鎌瀬が死んだヒラメに両手を使って気を送るような動作を取る。

 何やってるんだこいつ……ギャラリーや審査員は注目しているけど、鳥路さんは無視して包丁を研いでいる。


「かああああああっ!」


 鎌瀬の奇声と同時に死んでいたヒラメがビチビチと跳ねる!

 ギャラリーも審査員も驚く! な、何をしたんだ!?


「い、生き返ったの!?」


 賀集さんは口を押さえながらも驚きを隠せない。

 鳥路さんの所にあるヒラメがピクリとも動かないので、そういう事になるけど……

 鳥路さんのヒラメにはエラとか尻尾の所に切られた傷があるように見える。

 ……間違いなく死んでいるヒラメだ。


「鎌瀬のヒラメだけ活魚を使ってただけじゃないかな……」


「そ、そうだよね……びっくりしちゃった」


 賀集さんも冷静になったようだ。

 フェアじゃない事を指摘するために手を挙げようとした時に、鳥路さんと目が合う。そして鳥路さんは首を横に振った! 指摘は不要って事!? 


「とりっじはなんて?」


「俺に黙ってろって……ここは鳥路さんを信じよう」


 鎌瀬を泳がせて致命傷を与える策が鳥路さんの中にあるのかもしれない。

 その鳥路さんはようやく包丁を研ぎ終えた。



「……さぁ、両者準備はよろしいですな!」


 鳥路さんと鎌瀬が頷く。


「では! スシバトル! 開始ぃ!」


 狸塚の合図で鳥路さんと鎌瀬が動き出す!


 ……ああ、そうか! 撮影しなきゃ!

 俺は慌てて鞄から鯖江さんがシメニャンシールで勝手にデコったカメラを取り出し、鳥路さんと鎌瀬の様子を記録する。

 二人とも外周のヒレを取り除いて、鱗を落としている段階だ。ここぐらいからならフレべも文句言わないだろう。この間は画角が悪いとか言ってきたけど、無視だ無視!


「山ちゃんそのカメラどうしたの……? シメニャンのファンだっけ?」 


 賀集さんが俺のカメラを見て首を傾げる。


「知り合いに譲って貰ったんだ。これは、その人の趣味」


「へぇー、その人、大事に使ってたんだね!」


 鯖江さんと知り合いって話はあんまり言わない方が良いだろう。

 ……あの人、その内自ら寿司同好会に身バレしそうだし。


 ヒラメの捌き方……五枚下ろしだっけ? 鳥路さんは終わりそうだ。

 鎌瀬はまだ二枚分ぐらいの進捗。別に速さで勝負してないけど、技量は鳥路さんが上だ。


「すげぇなあの子! プロ顔負けじゃねぇか!」


「これが有名スシバトラーの実力! ビジュも様になってるな!」


「俺、ファンになりそう……」


 鳥路さん、動画がバズったりした影響で有名になってきたな……厄介なファンとかが出てこなきゃ良いけど。まぁ、本人が動画配信とかしているわけじゃないから、一過性の知名度になる気がする。

 他の人のスシバトルの動画にちょっと出ただけでインフルエンサーになれたら苦労はしないだろう。鳥路さんも別にそうなりたい訳じゃないと思うし。


「ほう、口だけじゃないようだな……くっくっく、だが! これはスシバトル! 握りを制するものがスシバトルを制すると言っても過言ではない!」


 初めて聞いたな。

 鎌瀬の独り言をやはり無視して、鳥路さんが柳刃包丁でヒラメを寿司ネタサイズに一枚だけ切り分け、それを口に入れる。 渋い顔! 食えなくはないけど、イマイチな感じかなこれ!

 鳥路さんはクッキングペーパーの上に五枚に下ろしたヒラメの身を置いて、塩を振る。これは……臭み抜きかな?


「ガハハ! 魚蘇生術を使えない一般人にはそれが限界だろうよ! どうせ暇ならワシの寿司奥義をその目に焼き付けるが良い!」


 鎌瀬が先に握りの態勢に移る! 

 両手で同時にヒラメを手に取り……両手!?

 両手を寿司桶に突っ込み、そのままシャリを握ったまま取り出す! 寿司桶にかぶさった布で手元が隠れてよく見えなかったけど……


「はああああああ! かああああああ!」


 鎌瀬は両手を高く振り上げ振り下ろす! い、一手握りだと!?


 鎌瀬が両手を開くと、綺麗に握られたヒラメの寿司が同時に二貫できていた!

 これにはギャラリーと審査員も盛り上がる!


「な、なんて豪快で繊細な握りだ!」


「同時に二貫! 達人の技だ!」


「魚組の厨房にはこんな寿司職人が控えているのか!?」


 色々なスシバトルを見てきたけど、こんなのは初めてだ。

 左右同時に握ったのに、形や大きさも均一。一手握りも極めればここまで行くのか……鎌瀬健太郎はかませでは無いのか!?


「ガハハ! ワシの寿司奥義の後にはどんな握りも霞む! 男なら一撃で握ってこそよ! ガハハ!」


 周囲に煽てられ調子に乗る鎌瀬。やっぱりかませな気がする。

 同じような手順であっという間に六貫の寿司を握り終えてしまった。五貫で良いのに。


「と、とりっじ……?」


 賀集さんが鳥路さんの異変に気付く。

 鳥路さんは……ヒラメを切っていたものとは別のまな板で大根とか生姜を切っていた。本当に何をしているんだ!?


「お、おい! 何をしている! あら汁でも作るつもりか!? 加点対象外だぞ!?」


 鳥路さんの突然のムーブに鎌瀬の手が止まる。ああ、なるほど、切っていたのはあら汁用の具材か。なるほどじゃないが?

 

「暇なので……」


「暇だぁ!? このワシの寿司奥義を前に暇だとぉ!?」


 鳥路さんは鎌瀬の寿司奥義に興味は無いという姿勢を見せる! 

 それを聞いた鎌瀬の顔が赤くなる!


「……随分と派手なパフォーマンスだ。配信者にでもなると良い」


「パフォーマンス!? は、配信者だと!? このワシがそんな軟弱な事をするはずがなかろう!」


 鳥路さんの目には鎌瀬の寿司奥義はパフォーマンスとして映っているのか!

 鳥路さんは……既に鎌瀬の力量を見極めているんだ!


「目立つのが好きなら表で握れば良い。お客さんも喜ぶ。でも実際はお前は厨房に引きこもって作業をしていた。それが答えだ」

 

「なっ!?」


 鎌瀬が鳥路さんの発言に動揺を見せる!


「どうせその一手握りも、事前にシャリ玉を仕込んで握った振りをしているだけなのだろう?」


「そ、そんなはずなかろうが! 寿司奥義を舐めるなよ小娘!」


 鳥路さんのレスバは安心感があるなぁ……口喧嘩で勝てる気がしない。


「寿司を舐めているのはお前だ……!」


 鳥路さんがヒラメの置かれた調理台に戻り、塩を降った身を水で洗い流し、新しいキッチンペーパーで水気を拭く!

 新しいまな板の上にそのヒラメを置き、寿司ネタサイズに切り分け、早々に寿司を握る態勢に移る!


「み、見せてもらおうじゃねぇか! 俺の寿司奥義を超える握りなんだろうなぁ!」


 鎌瀬の声に反応せず、鳥路さんは左手にヒラメをおき、右手でシャリ玉を作る!


 そして……この握り方は!


「あれ? とりっじ、いつものじゃないの?」


 賀集さんが疑問を持ったタイミングと同時に寿司が握り終わる!

 鎌瀬の派手な一手握りとは違う、無駄を省いたコンパクトな小手返し!


 別ジャンルの妙技にギャラリーが湧き上がる!


 鳥路さんが選んだのは……山田さんからコピーした小手返しだ!


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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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