第146話 ライトニングスシストリーム④
前回のあらすじ:
鳥路さんと山田さんの二度目のスシバトルが始まる。
◆◆◆
「それでは、早握り勝負……始め!」
鯖江さんの合図で鳥路さんと山田さんが同時に動く。
俺は鯖江さんから譲ってもらったカメラで早速スシバトルを録画している。
レンズ越しと肉眼の二つの視点で二人の様子を追い、しめ鯖が寿司ネタサイズに切り分けられていく所を確認する。
「……! 鳥路さんがワンテンポ早い!」
一回目ではほぼ互角だった切り付けで鳥路さんがほんの僅かにリードする!
「あれ? 鯖江さんの包丁捌きに似てないです?」
「え? やだなぁマネちゃん! シメニャンの技がこんな短時間で取得できるとは思えないニャン! 偶然偶然!」
榎本さんと鯖江さんが鳥路さんの切り方に何かを感じたようだ。
後で見返せばわかるけど……俺の目には鳥路さんが鯖江さんと同じような動きをしていたように見えた。体の重心、包丁の動かし方……いや、鳥路さんと鯖江さんの包丁は違う形状だから少しアレンジされているのか?
「切り付けを早くしたところで、根本的にお前と私じゃ握る速度が違うんだよ!」
包丁を脇に置き握りに入るまでのわずかな動作の中で山田さんが鳥路さんとの差を分析する! このスピード感で冷静に状況把握できるのか!
切り付けの差を維持したまま二人は握りの工程に移る!
鳥路さんは山田さんの握り方を覚えたと言っていた。何のために覚える必要があったのか、その答えはすぐにわかった。
「握り方が違うニャン! あれは……浬烏と同じ握り方!?」
「……こいつ!」
鯖江さんの言葉に山田さんが反応する!
鳥路さんは本手返しでは無く、小手返し……山田さんと同じようにコンパクトに少ない手数の小手返しで寿司を握っている!
鳥路さんと山田さんの差が……埋まらない!
「動画を見ただけで覚えた!? そ、そんな事が可能なんですか!?」
榎本さんが驚く。
10分間の休憩、実際に動画を見ていた時間はもう少し短かったはず。
寿司という高度な技能が10分で再現できたら寿司職人は必要なくなってしまう。
不可能という言葉が先に出てくる。だが、目の前でそれが起きていたら、不可能とは言えなくなってしまう!
鳥路さんは幼い頃から寿司を動画から学んでいた。ほぼ独学だ。
何年も繰り返して身に付いた寿司の腕前は寿司職人と同レベル。それ以上の時もある。
そして、身に付いたのは寿司の技術だけじゃなかった。
動画を見れば、自身でその技術を再現できる力が鳥路さんに身に付いていたのだ。
今の状況を説明するにはそうとしか考えられない!
「くそっ! コピーキャットかよ! 舐めんじゃねぇ!」
山田さんが僅かに加速! 鳥路さんのペースに追い付く!
しかし、追い越す事はできない! 残り一貫!
「ちっ……らぁっ! 完成だ!」
「終わりました」
鳥路さんと山田さんが同時に手を挙げる! 機械的な計測だと違うかもしれないけど、全く同じタイミング! 互角!
「……ふぅ……ちっ、抜けなかったか。切り付けの差を考えれば私の方が少し早かったはずなんだがな……まぁ完コピはできてねぇって事か」
山田さんの言う通り、完全にコピーしていれば鳥路さんが先に完成していたはず。
それでも十分な再現精度だとは思うけど……
「ま、マネちゃん、鳥路さんの寿司の重さチェックして! シメニャンは浬烏の方をチェックするニャン!」
「わかりました!」
忘れていた! 重さがズレていればタイムが加算される! まだ勝負は付いていない!
榎本さんと鯖江さんが二人の握った寿司の重さをチェックしていく。
形については二人とも完璧に見える。やはり勝負は重さ!
「……グラム単位の誤差がニャイんだけど!?」
「こ、こっちもです!?」
減点無し!?
「引き分けか……おい、どうするよ? まだやるか? 手品のネタがわかってりゃ、この程度の差、無いようなもんだぜ?」
山田さんは余裕の表情を見せる。後半の巻き返しを見るに、恐らくブラフなんかじゃなく本当に対策できるという説得力がある。
「……寿司を食べ比べてから決めよう」
鳥路さんは自分の握った寿司を指差しながら実食を提案する。
鯖江さんの握った奴を含めると60貫、58貫の寿司がテーブルに置かれている。
早握りのスシバトルを連続するとこうなるのか……食べ物を粗末にしたくない鳥路さんらしい指摘だ。
「このまま並べたままでも邪魔だしな……良いだろう、お前らも手伝え」
山田さんも鳥路さんの意見に同意し、鳥路さんの握った寿司を手に取る。
俺は山田さんの握った寿司から食べてみよう。
口に入れるとしめ鯖の酢の香りが口の中に広がる。シャリが……少し硬い?
崩れないように強く握られているのかな? 回転寿司のシャリがこんな感じかも……でもこれぐらいなら全然。美味しいしめ鯖の寿司だ。
「うーん、しめ鯖だニャン。回転寿司の定番みたいな感じ」
「美味しいですね」
鯖江さんと榎本さんも山田さんの寿司に関しては俺と同じような感想のようだ。
「こ、こいつ……! まさか……!?」
一人、鳥路さんの寿司を食べていた山田さんが狼狽えている。不味かったとって反応じゃなさそうだけど……鳥路さんの寿司に何が?
山田さんの反応を受けて、俺達は鳥路さんのしめ鯖を急いで口に入れる。
当たり前だけど、寿司ネタは同じ味。でも、違う。シャリの食感!
硬くない! 回転寿司じゃなくて、寿司屋のカウンターで食べる解れ方!
「しゃ、シャリがちゃんと良い感じの硬さで握られてる! 鳥路さんの方が……このシャリの差で少し美味しい!」
「同じような握り方だったのに不思議だニャン! 鳥路さんの方が良い感じの寿司ニャン!」
「早握りだけじゃなくて、味の追求まで! す、すごいですね!」
鯖江さんと榎本さんも鳥路さんの寿司の方が美味しかったという評価!
これは……ああ、でもダメだ。味は評価対象じゃないんだった……
「お前……! どういうつもりだ……!」
山田さんが苦虫を噛み潰したような表情で鳥路さんを睨む!
「早握りだろうと頭のおかしいルールのスシバトルだろうと、寿司は美味しくあるべき。それが私の考えです」
頭がおかしいルール……スシドライバーの事だろうな。
とにかく、鳥路さんの寿司に対する信念は最初からブレていない。
「山田さんもスピードを落とせば、この程度の寿司は握れるはず。それに早く握るだけならもっと硬くシャリ玉を作れば良いだけなのに、そこまではしていない。握った寿司を食べればわかる」
山田さんの寿司を食べて、そこまで分析していたのか鳥路さん!
「寿司から迷いを感じる。寿司が泣いているのは……そのせいだ」
鳥路さんは寿司が泣いた理由まで解き明かして見せた。
俺にはあっているかわからない。でも、山田さんの苦しそうな表情を見れば、それが図星を突いているような……そんな気がした。
「……はっ! スシバトルに関係の無い話はやめろ。勝手な憶測で人をわかった気になるなよ……この勝負は引き分けだ。だが、次は」
「次のスシバトル。私は山田さんと完全に同じ握り方で勝負する。もちろん握った寿司は責任を持って私が食べる」
「な……!?」
鳥路さんの覚悟が意味するのは……先程よりも早く握るという意思表示!
「それに汗もかいている。疲れているのでは? 私はまだ余裕だけど……山田さんは何時までやれる?」
鳥路さんの底知れないスタミナが少し息を切らしていた山田さんにプレッシャーを与える! 何度やっても絶対に負けないという鳥路さんの意思表示!
「くっ……そっ……!」
右手の拳で机を叩く山田さん。
鳥路さんの一連の行動は盤外戦術。実力者同士だから通じる駆け引き!
「……負けたよ。この勝負。私の負けだ……」
俯いたまま負けを認める山田さん。鳥路さんが山田さんの心を折った……!
「浬烏が自ら負けを認めたニャン!? 負けても色々理由をつけて素直じゃない浬烏が!?」
「そ、そんな事が!? 遅刻しても謝らないあの山田さんが!?」
鯖江さんと榎本さんの山田さんの評価はどうなってるんだ? いや、山田さんの素行が悪いだけなのか?
と、とりあえず、このスシバトル! 鳥路さんの勝利だ!
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




