第145話 ライトニングスシストリーム③
前回のあらすじ:
早握り対決で敗北した鳥路だったが、早々にリベンジマッチを宣言した。
その理由は「寿司が泣いている」から。
◆◆◆
「寿司が泣く……? 面白い事言うじゃねぇか」
山田さんは鳥路さんの発言に対して肯定気味な反応を示す。
初めてじゃないか? 寿司が泣いているに対してこんな反応をした人は……
「もっとも私には泣き声なんて聞こえていないけどな……笑わせてくれたお礼にお前のスシバトルは受けてやるよ」
やはり否定された。それより、このまま無策で挑んで勝てる相手なのだろうか、鳥路さん……
「10分、時間をください」
鳥路さんはインターバルを挟むようだ。それでも10分は短い。休憩時間?
鳥路さんに休憩なんて必要か?
「良いだろう。10分後に再開だ。その10分で頭が冷えたら降参しても良いぞ」
山田さんが条件を呑み、スマホを再び操作し始める。ソシャゲのデイリーでもやっているのだろうか……
「山本くん、動画見せて」
いつの間にか鳥路さんが近くにた。
「い、今のスシバトルの? ちょっと待って」
録画を停止し、写真フォルダに入った動画を確認してから、スマホごと鳥路さんに渡す。
「再生の仕方はわかる?」
「大丈夫、ありがとう」
今のスシバトルの動画で何か確認したい事があったのだろうか……集中しているし、声を掛けない方が良いかな……
「まさか、浬烏が実力派のスシバトラーだったなんて知らなかったニャン……マネちゃんは知ってた?」
鯖江さんが首を傾げながら榎本さんに山田さんの実力について尋ねる。
「いえ……過去に回転寿司でバイトをしていたとは聞いた記憶がありますけど……でもそれだけですし、その事をネタにする事もしてませんしね、山田さん」
回転寿司のバイトにしては高い技術力だ。
それに誰かに頼まれて鳥路さんの実力を確かめていたかのような言動。
俺の読みが正しければ……山田さんは寿司罵倒協会の関係者だ。
それも鳥路さんを警戒する人物、鳥路さんと接触した人物が上にいる!
山田さんの背後にイナリスカウトがいる可能性が高い……!
実際、俺がその事を確かめようとしたら山田さんはスシバトルのならわしを使って俺を黙らせにきた。鳥路さんも恐らく、そこに気が付いて再戦を申し込んだに違いない。
……その鳥路さんは、俺の撮影した山田さんが寿司を握るシーンを繰り返し再生している。再生速度を下げたり、動画を止めたりして……不正を疑っているのだろうか? そんな気配はなかったけど……
「というか、今日はシメニャンの撮影なんだけど。なんか浬烏のスシバトルの方がメインになってない? マネちゃんはどう思う?」
「ぶっちゃけ、鯖江さんはかませ猫でしたね」
「まぁまぁまぁ……動画では良い感じに編集して盛り上げるから……」
動画の裏側を聞いてるみたいでなんか申し訳ない。鯖江さんは編集もしてるのか……
「あ、鯖江さん。お聞きしたい事があるんですけど……今良いですか?」
「ん? 構わないニャン。でも、スリーサイズはひ、み、つ、ニャン!」
「興味ないです……あの、ビデオカメラの事なんですけど」
「そこは男の子なら興味持てよ。で、カメラ? それがどうしたの?」
フレべに画質とか音質どうにかしろと言われていたのを思い出した。
プロに聞く絶好のチャンスだ。
「スシバトルの動画を共有する友人……友人で良いか。とにかくその友人が俺のスマホの画質とか音質に満足してないみたいで、もっと良いカメラを使えって言ってくるんですよ。安くてそこそこ性能が良いカメラってありますか?」
「スマホのカメラも十分高性能だと思うけどねぇ、贅沢なご友人で。そうだニャア……スシバトルの動きぐらいなら、今年の春にシメニャンが壊したカメラでちょうど良い気がするニャン」
「ああ、あの撮影中に壊れた奴……」
大事に扱えば壊れはしないだろう。耐久性はこの際気にしなくて良いかな……
「メーカーと機種名を教えていただいても良いです? 参考にしたいです」
「んー、ちょっと待っててニャン」
鯖江さんが荷物置き場の方に行き、何かを手にして戻ってきた。
「君にあげるニャン」
手渡されたのは傷だらけのビデオカメラ。小さめで持ちやすい。
傷だらけではあるけど、ちゃんと手入れされており、大事にされていた物だと
何となくわかる。
「これ、まさか、例の壊れたカメラですか?」
「修理済みでちゃんと動作するニャン! ゴミではないニャン!」
「ゴミとは言ってませんよ!? それより良いんですか? 結構高いですよね、ビデオカメラって。それに鯖江さんが使っているカメラなんじゃ?」
中古でも良いとは思っていたけど、無償で譲渡は想定していなかった。
「シメニャンは会社の金でもっと良い奴を使ってるから気にする事はないニャン。これはシメニャンの私物だし、今のシメニャンが持っていても埃被って捨てるだけの運命だったニャン」
よく見ると落とした時に付いたと思われる傷以外にも色々な傷があるのに気付いた。
「壊れるまで大事に使ってくれればシメニャンはそれで満足ニャン。ああ、そっちがスシバトルで勝った報酬って事にしても良いニャン!」
俺が勝った訳じゃないからなぁ……
「鳥路さん、ごめん、今の話聞いてた? 勝利報酬でこのカメラ貰っちゃっても良いかな?」
スマホを見ていた鳥路さんの手が止まる。
「構わない。鯖江さん、ありがとうございます」
鳥路さんの耳に会話内容は入っていたらしく、鯖江さんにお辞儀をする鳥路さん。
「交渉成立だニャン! 取説とかは今度渡すニャン! それより、熱心にさっきのスシバトル見てたみたいだけど、何してたニャン?」
鯖江さんが鳥路さんに動画を繰り返し見ていた理由を聞く。
俺も気になっていた。
「覚えていました」
「覚え……え、何を?」
鯖江さんが鳥路さんの返事に困惑する。
不正を探していた訳じゃなかった!? それじゃあ、何を!?
……お、覚えたってまさか!?
「山田さんの握り方を覚えていました」
「え!?」
「え!?」
「え!?」
俺と一緒に鯖江さんと榎本さんが驚きの声をあげる。
動画を見ただけで、握り方を覚えるなんて……で、できるのか?
しかも、この短時間で!?
「……ぼちぼち10分だ。始めようか」
山田さんがスマホを仕舞い、鳥路さんに声を掛ける。ソシャゲで遊んでいただけじゃなかったようだ。
「よろしくお願いします」
鳥路さんは自分の調理スペースに戻ってしまった。
鳥路さん、一体何をするつもりなんだ!?
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




