第144話 ライトニングスシストリーム②
前回のあらすじ:
鳥路さんとシメサバキャットの早握り勝負は鳥路さんが難なく勝利!
しかし、その様子を見たシメサバキャットの同僚であるサンダーレイヴンこと山田浬烏は鳥路さんを「遅い」と評した!
◆◆◆
「鳥路さんが遅い……?」
素人目で見ても鳥路さんの握りは早い部類。それを遅いと言い切れるのは相当な実力な持ち主。
「そ、子供にしちゃ早い方かもだけど、本手返しのアレンジなんて……ねぇ? わざわざ右手で返す意味なんて無いし、本手返しなんて所詮はパフォーマンスの握り方」
俺の呟きを拾うように山田さんが鳥路さんの握り方の欠点を述べていく。
「あなたはもっと早く握れると?」
鳥路さんが戦闘態勢になる。これまで多くのスシバトラーが左手だけで返す小手返しを使っていたけど、鳥路さんは早握り対決を本手返しで勝っている。
それに鳥路さんは本手返しを更に省略する握り方を会得している。スシバトル部の部長である帯刀さんにもそれで勝利している。
「だから聞いてるじゃん。スシバトルするの? しないの?」
山田さんのこの感じ……戦い慣れている。間違いなくスシバトラー!
「……します。スシバトル」
鳥路さんが勝負に乗る!
「そう来なくっちゃね。同じルールでいいわね?」
「はい」
山田さんに追い出される形で鯖江さんがこっちに来た。
「何この緊張感? 鳥路さんで遅いって言われたら私は何なの? ねぇ?」
俺に絡んでくる鯖江さん。気持ちはわからないでも無いけど……
「お互いに本気のスシバトルって感じですね……」
榎本さんまでこっちに来た。流石にこのスシバトルは撮影しない感じか……
「榎本さん、アップロードとかしないのでこのスシバトル撮影しても良いですか?」
「え? それなら構わないと思うけど……浬烏さん! 個人撮影しても大丈夫ですか!?」
榎本さんが山田さんに確認を取る。
「好きにしなよ。特別に無料で撮らされてあげるわ」
許可は出た。しかし随分と自信があるようだ。
……底が見えない。そう思いながら俺はスマホで動画の撮影を始める。
鳥路さんと山田さんの準備が整う。山田さんは鯖江さんの道具をそのまま使うようだ。
「シメサバ、開始の合図よろしく」
「キャット付けてよ……はぁ、いつもの事か……それでは鳥路さんと浬烏の早握り勝負……」
鯖江さんが右手をあげ……
「始め!」
振り下ろす! 鳥路さんと山田さんが一斉に動き出す!
しめ鯖を切り分ける速度は……鳥路さんと山田さんでほぼ互角。
切るだけならこの中で一番早いのは鯖江さんか。だとすると山田さんの自信は間違いなく握りにある!
切り終わってからが勝負だ! 二人が同時に握りの体勢に移る!
「うわっ! 私の時本気じゃなかったの!?」
鯖江さんが鳥路さんの方を見て驚く。
鳥路さんはスシバトル部との最終戦で見せた本手返しのアレンジで少ない手数で一貫を握り終えた! 当然先程よりも早いペース!
山田さんはどうだ!?
「それでも私に言わせれば……遅いんだよ!」
や、山田さんは二貫目!? いや三貫目に入ろうとしている!
左手で寿司を整形する小手返しに見えるけど……今まで見てきた小手返しの握り方と違ってものすごくコンパクトな動きで無駄が無い! それ故に仕上がりも早い!
しかも、早いのに寿司の仕上がりはちゃんとしている! 大きさも同じに見える!
「寿司に映えなんて必要ない、寿司を舐めるなよガキが」
鳥路さんに対する強い敵意! 山田さん、一体何者なんだ……
それよりも鳥路さんと山田さんの寿司の数の差が埋まらない! 十貫目が、終わってしまう!
「終わり。私の勝ち」
そのまま山田さんが先に完走! 差は埋まる事は無く、少し遅れて鳥路さんも十貫目を握り終える!
「……早い!」
自分の寿司に集中していた鳥路さんも山田さんのただならぬ寿司圧を感じ、この結果は予想できていたような反応だ。
鳥路さんが……本気のスシバトルで負けてしまった……!
「シメサバ、重さを確認しなよ」
山田さんが鯖江さんに計量を要求!
「え? 必要? 見た感じ大丈夫そうだけど」
「……こういうのは完璧にへし折っとくもんなのよ。ルールでしょ」
「わ、わかったわよ」
鯖江さんは渋々山田さんの握った寿司を計量していく。
「おお! 全部誤差1グラム未満! やっぱ浬烏の勝ちじゃん!」
見た目通りの仕上がり、そして精度……山田さん、本物の実力者だ!
「負けました……」
鳥路さんが負けを認める。力負けする鳥路さんは久しぶりだ……これが大人のスシバトル……!
「シメサバ程度に勝ったぐらいで調子に乗るなって話」
「とりあえず見たいな感じでシメニャンをディスるのやめよ?」
山田さんの言葉に鯖江さんが反論する。二人に比べると遅かっただけで、鯖江さんの寿司はちゃんとした物なので少し可哀想である。
「どんなスシバトラーかと思ったらこんなもんか……ガキ相手に慎重すぎんだよな」
……? その言い方、つまりこの人は……
「山田さん、あなたは誰かに頼まれて今日見学に来て、そしてスシバトルをしたんですか? 鳥路さんの実力を確かめるために」
山田さんがすごい形相で俺を睨む。
「スシバトルに勝ったのは私だ。これ以上の詮索は許さねぇ、それがこのスシバトルの報酬で良い」
スシバトルのならわしを知っている……! この人、もしかして……!
「え、あ!? 鳥路さん!? 何してるニャン!?」
鯖江さんの驚く声を聞き、鳥路さんを探すと……山田さんの寿司を食べている鳥路さんの姿が目に入る。
あと鯖江さんの寿司も一貫食べ終えてるっぽい。いつの間に……
「……話が変わりました。山田さん、私ともう一度同じルールで私とスシバトルをしてください」
寿司を飲み込み、鳥路さんが山田さんに勝負を要求する!
「はぁ? お前、私に負けたのわかってる? しかも同じルール? 何度やろうと結果は変わらねぇよ。どういうつもりだよ、あ?」
嘲笑う山田さん。しかし、鳥路さんは一切表情を変えない!
「寿司が……泣いている」
鳥路さんの目は、静かな怒りの炎を灯していた。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




