第147話 ライトニングスシストリーム⑤
前回のあらすじ:
二度目の早握りスシバトルは引き分け。しかし、鳥路さんは山田さんの動きをコピーした上で寿司の味を捨てれば更に早く握れる事を知らしめ、山田さんは自らの負けを認めた。
◆◆◆
引き分けの試合を実力とレスバによって勝ちに変えた鳥路さん。スシバトルの勝ち負けは目の前の勝敗ではなく、相手に負けを認めさせる戦いなのかもしれない……
「鳥路さん、お、お疲れ! すごかったね!」
カメラの録画を止めて鳥路さんを労う。一応勝ちは勝ちだしね。
「……本当なら最初の一回目で負けていた。トーナメント形式ならそこで終わり……初見でも格上に勝っていかないと……」
鳥路さんは一戦目で負けた事を気にしているようだ。
「それにこの勝ち方は……褒められたやり方じゃないと思う」
そして、この勝ち方も良しとはしていない。次やれば山田さんに勝てる可能性は高いと思うけど……
「白黒付けるだけが全てじゃない。大人になったらそんな事ばかりだ。この勝負はお前の勝ちだよ」
鳥路さんの勝ち方にフォローを入れたのは、意外にも山田さんであった。
「お互い一勝一敗だが、私はお前に次勝てるビジョンが見えん。大した奴だよ」
山田さんの勝利を讃える拍手は気怠げだが、純粋に相手をリスペクトしたものだと俺は感じた。
「……本当はわざと味を落としまで勝つ気はありませんでした。次のスシバトルがどうなるかわかりません」
鳥路さんが勝つためにはそれぐらいの覚悟が必要だった相手という事だ。
「それより、だ。なぜ、私が半端な寿司を握っているとわかった? 下手くそなだけだった可能性もあるだろ」
山田さんは鳥路さんに一歩近づき問い詰める。
「あなたが本気であの寿司を握っていたなら寿司は泣かなかったはずだ」
鳥路さんは目を逸らさずに言い切った。わからないけど……わかる気がする。
「さっぱりわからんが……半端なのは事実だし何も言えねぇよ。効率重視で身につけたこの技術も心のどこかで反対していたんだ。私は……なんだかんだ客の顔を見て丁寧に握る寿司が好きだったのかもな」
山田さんが回転寿司のバイトをやっていた頃に何かあったのだろうか……
「ふっ、まぁ、鳥路英莉の実力は良くわかった。私の仕事は十分果たした」
「そ、そうだった! 山田さん! 誰に頼まれていたんですか!?」
あ、詮索するなって言われたのに聞いちゃった! でも、確認しておかないと後悔しそうだ。
「誰かはわからない。白い狐のお面を被った怪しい女とだけ……」
答えてくれた! そして、その特徴をもつ人物を俺達は知っている!
「イナリスカウト……!」
鳥路さんがその名前を口にする!
「知り合いか? じゃあ隠す必要もないな」
山田さんとイナリスカウトはやはり関係を持っていたようだ。
ただ、この感じ……山田さん自身は寿司罵倒協会と無関係だ。
「そんな名前のストリーマーいたかニャン?」
「私の記憶にも無いですね……」
鯖江さんと榎本さんはイナリスカウトという名前から同業者を思い浮かべたようだ。名前は確かに配信者っぽいかも……
「……配信者じゃないぞ? そいつが言うには寿司に恨みを持つ寿司職人を探して、全国を駆けずり回っているらしい」
「寿司に恨みを持つ寿司職人!?」
咄嗟に聞き返してしまった!
寿司職人が寿司に恨みを持つなんて事があるのか!?
「山田さんも寿司に恨みを……?」
鳥路さんが山田さんに問う!
「回転寿司屋の方針転換に譲歩してやったのに結局クビになったしな。客も客だ。私がこの握り方に変えても誰一人気付かなかった……美味い寿司って言うのはなんなんだろうな?」
山田さんが自嘲しながら語る。俺達には知り得ない過去だ。
「……でも、寿司が泣いているって言われて気が付いた。まだどこかで寿司を信じている自分がいる……イナリスカウトのお誘いは断るよ、まぁ酒代ぐらいの情報はくれてやるが……恨んでくれるなよ?」
山田さんは寿司罵倒協会に染まるつもりはないようだ。
鳥路さんが止めたって事で良いのだろうか。
「山田さんはイナリスカウトと会う予定があるのですか?」
鳥路さんは山田さんにイナリスカウトと待ち合わせの計画があるのかを確認する。
「明日会う予定だ。同じ居酒屋でな」
居酒屋か……でも、そこに行けばイナリスカウトに会えるわけだ。
「お、俺達もそこに同席しても良いですか!? 因縁の相手なんです! 鳥路さんを襲ってきたり、寿司屋をターゲットに悪どい事をしている連中なんです!」
「別に構わないけど……そんな事する奴なのか? 寿司職人のオーラみたいなのは感じたが……」
山田さんの印象と俺達の知っているイナリスカウトは異なっているようだ。
とにかく、同席できるなら正体を掴むチャンスだ。
「山田さんはいつイナリスカウトと出会ったんですか?」
鳥路さんがいつ接触したかを確認する。俺達が包丁の継承戦に参加するのが決まった日に近いはず。だとしても、どこからそんな情報を手に入れたんだ?
「八月の三日の夕方とかだっけな……スタジオ収録の帰りだからあってるはず」
「えっ!?」
鳥路さんが驚く。八月三日は俺達が函館にいた日。そして、俺達がイナリスカウトと遭遇したはずの日……! な、どうなってるんだ!?
「山田さん! 本当に八月三日ですか!?」
俺は少し失礼だけど山田さんの記憶が正しいか再確認する!
「シメニャンとコラボした日の話ニャン? だったら八月三日だニャン」
「そうですね。私も収録に同席していたので間違いないです」
「うん、やっぱ八月三日の夕方だわ。その日だと何かまずいのか?」
鯖江さんと榎本さんの記憶も八月三日を示している! だとすると、これが事実だとしたら……!
「私達も……その日の16時から17時頃に函館でイナリスカウトに会っています」
鳥路さんが少し動揺しながら三人に俺達の情報を共有する!
「は、函館!? 北海道だろ!? 私があいつと会ったのは東京だぞ!? 時間帯は18時前後だったけど、それでもそんな事あり得ないだろ!」
山田さんが驚きながらその事実を否定する。全てが事実ならイナリスカウトは離れた場所で同時に出没した事になる!
「分身したのかニャン……?」
「流石にそれは無いと思いますよ……鯖江さんはニンジャ小説の読みすぎです」
山田さんが嘘をついている感じはない。分身もあり得ない。
だとしたら……
「イナリスカウトは……二人いる?」
それが俺の導き出した答えだった。
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こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




